街へ帰る!
「さて、それじゃあそろそろ撤収して街へ戻るか。レッドエルクと、この水鳥をギルドに頼んで捌いてもらうなら、ある程度の日数を見た方がいいだろうからな」
かなりの水鳥を確保して、逃げていく残りはそのまま見送った俺達は、ハスフェルの言葉に頷き合った。
飛び散っていた羽は、水辺に吹く風に飛ばされてあっという間に綺麗になったし、また遠くの方では巨大カエル達の鳴き声も復活している。
「そうだな。暗くなる前に撤収しよう。ってか、ここってどの辺りなんだ?」
「それほど街からは離れていないさ。今から戻れば、日が暮れる頃には街へ戻れるよ」
そう言ってシリウスの背に飛び乗るハスフェルを見て、俺も慌ててマックスを捕まえて背中に飛び乗ったのだった。
「それじゃあ戻るとしようか」
神様軍団もそれぞれ従魔達に飛び乗ったところで、一斉に走り出す。
「あの白い花が咲いてる木まで競争!」
そして、またしてもマックスの頭の上に立ち上がって唐突にそう宣言するシャムエル様。
「あの、白い花の咲いてる木まで競争だ!」
でもって、これまた当然のようにハスフェルがそう叫んで一気に加速する。
「負けてたまるか〜〜〜〜!」
アーケル君の叫ぶ声にほぼ全員の声が重なり、郊外の、遮るもののない広い草原を俺達はほぼ一列のまま、目標の白い花が咲いている木のある森に向かって、全力で駆け抜けて行ったのだった。
そして、白い花が咲く木のある森へ到着したのも、これまた全員ほぼ同時だったよ。
「ああ、また同着だ! これは悔しい〜〜〜!」
笑ったアーケル君の叫ぶ声に、俺達全員揃って大爆笑になったのだった。
相変わらず、皆負けず嫌いだねえ。
その後も、唐突に二度の駆けっこが行われて、結局、全く順位が分からなくて毎回大笑いになったのだった。
ちなみにシャムエル様判定によると、一回目に引き続き二回目も俺が一位で二位が同じくランドルさん、そして三位がオンハルトの爺さんで、四位がアルデアさん。そして五位が僅差でギイだったらしい。
そして三回目は、ついに俺の連勝がストップして、一位がなんとランドルさんで二位がギイ、三位が俺で四位がリナさん、そして五位がハスフェルって順位だった。
まあ、顔ぶれはほぼ同じだけど毎回順位が違っていて、割と本気で今度の春の早駆け祭りの順位を考えて遠い目になった俺だったよ。
ううん、三連勝はマジでちょっと無理かも。ハスフェルとギイだけじゃあなくて、ランドルさんが意外なくらいに強敵だよ。
そんな感じで楽しく走りながら街を目指して戻ってきた俺達は、日が暮れる前にはようやく綺麗になった小さな木が植えられた街道へ到着した。
あとは街道を一列になってのんびりと進み、無事バイゼンの街まで戻る事が出来たのだった。
「じゃあ、もうこのままギルドへ寄って、レッドエルクと水鳥を捌いてもらえるようにお願いして来よう。それであとは桜が咲くまで庭の地下洞窟かな」
「ああ、それで良いんじゃあないか」
ハスフェルと顔を見合わせて頷き合い、従魔に乗ったままゆっくりと街の中を進んで行った。
途中、俺達に気付いた街の人達が笑顔で手を振ってくれるもんだから、なんだかパレードみたいになっちゃったよ。
しかも、リンクスの子猫がいるのに気付いた街の人達からもの凄い歓声が上がり、ついでに黄色い歓声も上がって大人気になり、マニ達三匹は、もうこれ以上ないくらいのドヤ顔で尻尾をピンと立てながら、ニニとカッツェの横を胸を張って歩いていたのだった。
冒険者ギルドへ到着したところでマックスから飛び降り、そのまま全員一緒に建物の中へ入る。
当然、俺の鞄の中には、金色合成したアクアゴールドが小さくなって待機してくれているよ。
「おう、ケンさんじゃあないか。こんな時間にどうした?」
ちょうどカウンターの中にいたガンスさんが、俺に気付いて出てきてくれる。
「ええと、ちょっと郊外へ出て狩りをしていたんですけど、レッドエルクと、それから水鳥を確保してきたので、捌いていただこうかなと思いまして」
笑った俺がそう言うと、ガンスさんだけじゃあなくて周りにいた冒険者達も驚いたようにざわめいた。
「おお、それは素晴らしい。余裕があれば是非とも買い取りもさせてくれ。じゃあこっちへどうぞ」
笑顔になったガンスさんの言葉に、スタッフさんが何人か駆け出して行った。
「そりゃあ、あの従魔達ならレッドエルクくらい狩れるよな。それにしてもすっげえなあ」
「レッドエルクの肉かあ、あれは赤身が多くて美味いんだよなあ」
「水鳥も美味いよなあ。いいなあ」
うんうんと頷き合っている冒険者達の会話が漏れ聞こえてきて、思わずガッツポーズになる。
ほお、鹿肉は赤身メインなのか。って事はあまり脂肪分が無いんだな。よし、それはいい。それから、やっぱり水鳥も美味しいみたいだ。
どう料理しようか考えつつ、ガンスさんに連れられて地下の別室へ通される。
そして待ち構えていたスタッフさん達に取り囲まれる俺。
ちなみにハスフェル達やリナさん達は、全員知らん顔で受付横の休憩スペースに従魔達と一緒に全員集合して待っているから、今の俺が連れているのは、俺の体や腕に留まってくっついているお空部隊とモモンガのアヴィだけだ。
「ほれ、出せ。出して見せてくれ」
笑顔で机をバンバン叩くガンスさん。そしてその周りで満面の笑みで俺を見ているスタッフさん達。
「は、はい。じゃあ出しますね」
若干ドン引きしつつ、とにかくアクアが取り出してくれたレッドエルクを鞄から引っ張り出す。
「デカっ!」
自分で出して言うのもなんだがとんでもなくデカい。普通の馬の倍くらいはありそうだ。
「おお。レッドエルクの亜種か。こりゃあ見事だ」
目を輝かせたガンスさんの言葉に、思わず鞄の中を覗き込み、小さな声で尋ねる。
「なあ、ちなみに何匹確保してきたんだ?」
「ええとね、レッドエルクが二百五十八匹で、亜種が百八十九匹だよ。それから水鳥は全部で二百六十九羽で〜〜す!」
気絶しなかった俺を誰か褒めてくれ!