朝のひと時
ぺしぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺしぺし……。
「うん、何するんだよ。そこは痛いって……」
瞼の上辺りを小さな手で力一杯叩かれて、顔をしかめた俺はそう言って払うように顔の前に手を持ってきた。
ぽふん。
「さて、この素晴らしい尻尾は誰の尻尾かなあ〜〜」
寝ぼけつつ手の中に収まった最高のふわふわをモミモミしながらそう呟くと、今度は瞼を力一杯引っ張られた。
「待って待って! そこは痛いって!」
慌ててそう叫びながら目を開くと、ドヤ顔のシャムエル様が顔のすぐ横で胸を張っていた。って事は、俺が捕まえているのはカリディアだな。
「きゃあ〜〜〜捕まっちゃいました〜〜〜」
俺が起きたのを見て、カリディアが妙に嬉しそうな声でそう言って笑う。
「捕まえたぞ〜〜〜大人しくしろ〜〜〜!」
悪人よろしくそう言って笑った俺は、嬉しそうに無抵抗で掴まれているカリディアのもふもふ尻尾に遠慮なく頬擦りしまくったのだった。
「はあ、じゃあ起きるとするか」
カリディアを解放してやり、幸せのもふもふの海から起き上がった俺は、名残惜しい気持ちをグッと堪えて一つ深呼吸をしてから立ち上がった。
それを見て、ニニ達も起き上がりスライムベッドが一瞬で崩壊する。
「いつもありがとうな。さて、顔を洗ったら朝食の準備だな」
地面に転がるスライム達にそう言って、岩の水場へ顔を洗いに行く。当然のようにスライム達が跳ね飛んで俺のあとをついてくる。
「おう、おはよう。ああ、場所を変わるよ」
「おはようさん。ああ、ありがとうな」
ちょうどギイが起きて顔を洗ったところだったらしく、そう言ったギイが下がって場所を開けてくれた。
すると流れる水の中から次々にギイの連れていたスライム達が慌てたように跳ね飛んで出てきて、一瞬で金色合成してギイの肩に乗る。他の子達もそれぞれに合成してから肩や頭に飛び乗ってくっついた。
「可愛がってくれてるんだな」
仲睦まじいその様子に思わず笑顔になる。
「おう、もうこいつら無しの生活なんて考えられないよ。良い縁をありがとうな」
嬉しそうにそう言って肩にくっつく金色羽付きスライムをそっとつっつく。
笑ってテントに戻るギイを見送ってから、俺も流れる水で顔を洗った。
「うひゃあ、冷たい!」
思ったよりも冷たい水に悲鳴を上げる。
「ご主人、綺麗にするね〜〜!」
待ち構えていたサクラが、一瞬で俺を包み込んでくれ、あっという間にサラサラのツルツルだ。
「いつもありがとうな。ほら、行っておいで」
岩から流れる小川に放り込んでやる。
次々に跳ね飛んでくるスライム達を全員小川へ放り込んでやり、嬉々として走ってきたマックス達と場所を交代した。
「じゃあ、まずは朝飯だな」
テントに戻って身支度を整えてから垂れ幕を巻き上げた俺は、先に戻ってきてくれたサクラから、いつもの朝食メニューを順番に取り出して並べて行った。
「おはよう」
「おはようございま〜〜す」
次々にやってきて席に着くいつもの面々。
この人数で食事が出来るのも、桜が咲くまでだからあと少しだろう。
何だか不意に寂しくなって、不意にあふれそうになった涙を慌てて飲み込んだ俺だったよ。
「それで、今日は何処へ行くんだ?」
食事を終えておかわりのコーヒーを飲みながらハスフェル達を見る。
「おう、今日はまず、ここから少し離れた所にあるグリーンロックトードがいる大きな池へ行くよ。水の近くや足場の悪い場所での狩りをあいつらに経験させてやろうと思ってな」
「あの池は大きくて野鳥もいるから、翼を持つ相手の狩りも経験させてやれるな」
ハスフェルの言葉に引き続き、コーヒーを飲んでいたギイもそう言って笑う。
「確かに、色んな狩りの経験をさせてやるのが今回の狩りの目的だもんな。了解。じゃあこれを飲んだらここは撤収だな」
「おう、昼食の後は……まあ色々だな」
何故か俺を見て笑ったハスフェルがそう言い、残ったコーヒーを飲んで立ち上がる。
「ごちそうさん。今日も美味かったよ。それじゃあ少し休憩したらテントを撤収して出発だな」
「おう、そうだな」
俺の言葉に、他の皆も飲み終えたコーヒーのカップを収納して立ち上がった。
皆、律儀にご馳走様を言ってからテントへ戻っていく。
まあ、あれだけ美味しい美味しいって言って食べてくれたら、作り甲斐があるってもんだよな。
小さく笑った俺も撤収するために立ち上がったのだった。
出してあった机や椅子を片付けるのも、テントを撤収するのも俺はほぼ何もしないでいい。
毎回、優秀なスライム達がめっちゃ手順よく撤収作業をしてくれるからだ。
「いやあ、いつもながらありがたいねえ」
マックスの背中に鞍を載せてベルトを絞めながら、あっという間に撤収されて折り畳まれていくテントを見ながら小さく笑ってそう呟く俺だったよ。
さて、今日も頑張って戦うとしますか!