リアル幸運の女神様!
「ふわあ〜〜〜美味しそう!」
「ジビエハンバーグだけじゃあなくて、なんか美味しそうなのがいっぱい増えてる〜〜〜!」
戻ってくるなり、机に並べておいたジビエハンバーグとマカロニサラダ色々、それからスパゲッティナポリタンとコーンクリームコロッケを見たシルヴァとグレイが、予想通りの歓喜の叫びをあげて飛び跳ねていたよ。
「はいはい、嬉しいのは分かったからとにかく座って、って、うわあ! いきなり飛びつくんじゃないよ!」
いつものように一通りの追加のおかずやおにぎりやパンなんかを出し終えたところで、待ち構えていたらしい子猫達が三匹揃って俺に飛びついてきたのだ。
当然、堪える間も無く押し倒された俺だったけど、子猫達は今までと違って俺に全体重をかけるような事はせず、両前脚を踏ん張って俺に体重がかからないようにしてくれていた。
何これ、お前らいつの間にそんな気配りが出来るようになったんだよ。
密かに感動しつつ、順番に三匹を撫でてやった。
「はいはい、スキンシップはまた後でな。腹ぺこ小僧達に怒られたら大変だからさ」
笑って起き上がった俺の言葉に、全員揃って大爆笑になったのだった。
ジビエハンバーグは大人気だったし、新しく作ったコーンクリームコロッケやナポリタン、それからマカロニサラダ各種も、予想以上の大人気だった。
特にシルヴァとグレイの喜びようといったら、ちょっと見ていて面白いくらいだったよ。
やっぱり、神様軍団にお子ちゃまメニューは大人気みたいだ。
ああ、もちろんリナさん一家とランドルさんも、大喜びで争奪戦に参加していたから、彼らも気に入ってくれたみたいだ。
俺は自分用とシャムエル様用の料理を一通り真っ先に確保したあとはのんびりと食べながら、子供みたいに大はしゃぎする皆を眺めていたのだった。
「それで、肝心の子猫達の狩りは上手くいったのか?」
大満足の食事を終え、狩りの成功を祝って改めて吟醸酒をちびちびと飲んでいたんだけど、隙あらば甘えてくるカリーノとマニを捕まえて交互に頬を揉んでは引っ張ってやりつつそう尋ねると、笑ったハスフェル達が揃ってドヤ顔になってた。
「おう、最初こそちょっとぎこちなかったが、二度目三度目と回を増すごとに獲物への反応は早くなるし、捕まえて押さえ込む力だって、もう充分過ぎるくらいだ」
「最後に、山側の森に棲む野生の虎と戦ったんだが、ミニヨンは互角以上の戦いで最後には明らかに相手が怯んでいたぞ」
「カリーノは、ミニヨンのように圧倒するところまではいかなかったが、これもかなり善戦していたよ」
「そっか。上手くいってよかったな」
ハスフェルとギイが交互に教えてくれる戦いの様子に、俺は笑って今度はミニヨンの頬を揉んでやり、間からニュルって感じに顔を出したマニを両手で捕まえて思いっきり揉みくちゃにしてやったよ。
だけど、その後に続くはずのマニの戦いの説明が無くて、驚いてハスフェル達を振り返る。
「まあ、今のマニにはさすがに虎の相手は少々荷が重かったらしいな。最後はかなり危なかったのでカッツェが応援に入って追い払ったよ」
俺に撫でられてご機嫌で喉を鳴らす手の中のマニを見つめる。
確かに大きくなったとは言っても、ミニヨンと比べるとマニは明らかに骨が細い。そして体が小さい。となると戦闘能力もミニヨンに負けるのは当然だろう。
「まあ、うちは間違いなく戦力過剰だから、ちょっとくらい弱くても問題ないって。マニ〜〜怪我はしてないか?」
手を離して全身を撫でながらそう尋ねてやる。
「うん、ちゃんと噛まれそうなときには逃げたから、大丈夫だよ。あいつ、ちょっと大きかったからこわかったけど、とうしゃんがたしゅけてくれたんだよ!」
目を細めて嬉しそうに報告してくれるマニの言葉に、ちょっと泣きそうになった。
「なんだか話し言葉まで急にしっかりしてきてる気がするなあ。ううん、そんなに急いで大人にならなくていいんだぞ」
妙に切なくなって、またマニの頬をモミモミしながら思わずそう呟く。
すると、俺を見たシルヴァとグレイがドヤ顔になった。
『それはね!私達が頑張っているからよ〜〜!』
『私達が、周囲に幸運をあげられるようにしたって言ったの覚えてる?』
何やら得意げなシルヴァの念話の声に、マニを撫でてやりながらチラリとシルヴァを見る。
『おう、もちろん覚えてるぞ。あ! もしかして……?』
不意にある事に思い至った俺は、撫でる手を止めて改めてマニを見た。
『そうよ。私達が側にいるからよ! 今の子猫達の成長は、言ってみれば幸運値が最高値まで跳ね上がっている状態ね。そりゃあどんどん成長するし、知能だって跳ね上がるわよね』
『まあ、数値自体はこっちの世界へ来る際には全部無くなっちゃうんだけどね』
リナさん達には聞かせられない会話なので、こっそり念話で知らせてくるシルヴァとグレイの二人。
もちろんトークルーム全開状態だから、ハスフェル達やレオやエリゴール、オンハルトの爺さんにも聞こえているから、皆、苦笑いしながらもうんうんと頷いている。
へえ、もしかしてこれってリアル幸運の女神? よし、とりあえず拝んでおこう!
さりげなく手を合わせておき、妙に引っかかった部分を考えてみる。
『ええ、あれって岩食いとの戦い限定じゃあなかったのか?』
なんとなく、勝手にそんな気がしていたのでそう聞いてみると、笑って俺の横へ来た二人に軽くデコピンされた。
『そんな訳ないでしょうが。途中で変えたりする方が大変だし面倒よ!』
笑ったシルヴァの叫びに妙に納得した俺だったよ。
そうか、俺も側にいたら何か幸運のおこぼれがあるかもな。よし、出来るだけ彼女達の近くにいるようにしよう!
「それから、野生の草原鹿、レッドエルクの大きな群れを運良く見つけてな。子猫達が見事に確保していたよ。状態のいいのは土産に持って帰ってきたから、またギルドで捌いてもらってくれ」
おう、今度は鹿肉来ました〜〜! 果たしてどんな味なんだろう?
笑ったハスフェルの言葉にちょっとワクワクしつつ、残っていた吟醸酒をぐいっと飲み干した俺だったよ。
はあ、なんて言うか……美味しいものがあって仲間がいる、俺って幸せだなあ……。