ジビエハンバーグ!
「じゃあ、いってきま〜〜す!」
「いってきま〜〜す! 夕食楽しみにしてるね〜〜〜!」
満面の笑みで手を振るシルヴァとグレイの大声に笑った俺は、次々にそれぞれの騎獣に飛び乗る皆を見る。
「じゃあ、いってくるよ」
「それじゃあな」
俺の視線に気付いたハスフェルとギイも笑顔で手を上げて、二人を先頭にして全員揃って一斉に駆け出していった。
「いってらっしゃ〜〜い」
勢いよく走り去る皆を姿が見えなくなるまで見送った俺は、一つ深呼吸をしてから大きく伸びをする。
それから、一つため息を吐いて自分のテントへ戻った。
テントの中にいた留守番組が、俺を見て嬉しそうに駆け寄って来る。
今回は、ウサギトリオをはじめとした草食チームも皆狩りに参加していて、テントに残っているのは、いつもの俺の護衛役のセーブルとハリネズミのエリー、それから非戦闘員のモモンガのアヴィ、それからスライム達だけだ。
まあとは言ってもスライム達はソフトボールサイズでバラバラになって好きに地面を転がっているので、テントの中はスライムだらけなんだけどな。
「じゃあ、期待されているみたいだし、まずは今日の夕食にリクエストをもらったジビエハンバーグを作っていくとするか」
跳ね飛んできたサクラが、机の上に飛び乗って俺の方へ伸び上がっている。
「じゃあ、まずは小さい方の机を出してくれるか。それからコンロとフライパンはありったけ出してくれ。あとはバットとボウルもありったけお願い」
「はあい、じゃあ順番に出しま〜〜す!」
嬉しそうな声の後、ニュルンといつも祭壇にしている小さい方の机が出てくる。
大きい方の机の横に小さいのも並べ、サクラが取り出してくれる調理道具を並べていく。
他にも色々と出してもらい、最後にジビエ肉を大量に出してもらう。
これは、岩豚の切り落としたのと各種部位のあまり良くない部分。つまり筋があったり、そのまま食べるにはちょっと綺麗じゃあない部分だったり、半端に残ったりした部分だ。
グラスランドブラウンブルの各種肉も取り出し、今回は、普通の牛肉と豚肉の切り落とし部分も一緒に使う事にした。
「じゃあ、まずはこれを全部ミンチにしてくれるか。種類ごとにバットに入れてくれよな」
待ち構えていたスライム達が、先を争うようにして肉を飲み込んでいく。
「それから誰か、こっちへきて玉ねぎの皮を剥いてみじん切りをお願いしま〜〜す!」
野菜用の木箱から玉ねぎも大量に取り出してそう言うと、肉争奪戦に出遅れたらしいイエローのイプシロンとパープルのエータ、それからメタルスライムのブロンズカラーのブロディと、ブロンズ亜種のソニックが跳ね飛んできた。
まだ、こういった作業は上手に出来ないらしい雪スライム達は、それぞれ好きな子達と一体化して一緒に作業をしてるので姿は見えない。
レース模様のクロッシェは、人が誰もいない今はいつもと違って姿を現していて、せっせと岩豚の肉をミンチにしてくれている。
「皆、頑張れ〜〜」
「はあい! 頑張ってま〜〜す!」
笑った俺の言葉に、元気な返事が返る。
フライパンを右手に持った俺は、近くにいたクロッシェを左手で軽く突っついて転がしてやる。それを見て、他の近くにいたスライム達も自主的に転がって少し離れた。
今から火を使うから、スライム達は近付き禁止だ。
机の上に並べたコンロに火をつけ、フライパンに油を引いていく。
「はい、ご主人。みじん切り出来ました〜〜〜!」
イプシロンとエータが、二匹がかりで大きなボウルに山盛りに作ったみじん切り玉ねぎを運んできてくれる。
「おう、ありがとうな」
受け取ったボウルを机の上に置き、熱したフライパンにたっぷりと入れて炒めていく。
大量のみじん切りを炒め終わったところで、待ち構えているスライム達を見る。
「じゃあ、作っていくとするか」
「はあい! お手伝いしま〜〜す!」
ソフトボールサイズのスライム達が、俺の言葉に答えて一斉に跳ね飛んできて机の上に並び、せっせと準備を始めた。
もうすっかり慣れているスライム達は、俺が何を作るのかさえ言えば味付けと火を使う事以外はほぼ全部やってくれる。
つまり、今回の場合だと例えば食パンをちぎってミルクにひたす事だったり、卵を割る事だったり。
だけど、ミンチのどれをどのくらい使うのかはスライム達には判断出来ないので、俺は小さめのボウルを手に適当に各種ミンチを量りながら合い挽きミンチを作っていき、配合ハーブと塩胡椒で味をつけていく。
「じゃあ、あとはよろしく!」
ここでスライム達にバトンタッチすると、一斉に触手を伸ばしたスライム達がミンチを捏ねてハンバーグを作り始めた。
俺は、並べたコンロに深めのフライパンをありったけ並べて油を引いて火をつけ、出来上がったジビエハンバーグを軽く焼き始めた。
まずは普通のハンバーグバージョンを作り、二回目はチーズインハンバーグにする予定だ。
リクエストは煮込みハンバーグだったので、別の鍋にまずは定番のドミグラスソースバージョンとホワイトソースバージョンの準備をして温めておき、少し考えてトマトソースバージョンも用意しておく事にしたよ。
次々に出来上がっていくジビエハンバーグをフライパンに並べ、両面を焼いたら用意しておいた各種ソースをたっぷり入れて中火で煮込んでいく。
出来上がれば深めの大皿に取り分けてサクラに収納しておいてもらう。
午前中いっぱいかかって大量の煮込みハンバーグ各種を作った俺は、大きなため息を吐いてテントの外へ出た。
何度か深呼吸をしてから腕を頭上にあげて思いっきり伸びをする。真上にある太陽を目を細めてみた俺は、腕を下ろしてテントへ戻った。
「はあ、ちょっと休憩! さてとお昼は何を食べようかねえ」
「タマゴサンド!」
料理中はセーブルの頭の上で寛いでいたシャムエル様が、俺の呟きを聞いて速攻ですっ飛んできて耳元でそう叫ぶ。
「朝食ったじゃないか」
「朝は朝! 昼は昼です!」
胸を張ってドヤ顔で断言されてしまい、堪える間も無く吹き出した俺だったよ。