おはようと今日の予定
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるよ……」
いつもよりもやや強めのぺしぺしに、眉間に皺を寄せながらなんとかそう答える。
「それにしても相変わらずだねえ」
「まあ、ケンですからねえ」
笑ったシャムエル様とベリーの声が聞こえる。
「お腹空きました〜〜〜」
「起きてくださ〜〜い!」
しかし、それとは別に俺の頬を突っつきながらお腹が空いたと言って抗議している人がいる。
ええ? 誰だよ?
「ちょっと! いきなり起きないでよね」
慌てて飛び起きたら、勢い余って俺の頭から転がり落ちたシャムエル様が、怒ってそう言いながら飛び回って跳ねる毛玉になっていたよ。
「ごめんごめん。わざとじゃあないって」
そう言って手を伸ばしてシャムエル様を捕まえてやる。
「はいはい。まあ、わざとじゃあなかったのは分かってるからいいよ。じゃあ、ケンも無事に起きたところでタマゴサンドをお願いします!」
苦笑いしながらそう言って謝ると、飛び跳ねるのをやめたシャムエル様にドヤ顔でそう言われたよ。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
だけどまあ、神様の言う事だもんな。ちゃんとタマゴサンドは用意してありますよ〜〜。
欠伸をしながら自分で収納しているタマゴサンド三種盛りのお皿を出してやる。
そこまでして我に返って周りを見ると、寝ていた俺のすぐ横にしゃがみ込んでもう吹き出す寸前なシルヴァ達神様軍団の面々と、テントの垂れ幕を引き上げて外からテントの中を覗き込んでいるリナさん一家とランドルさん。こちらも、全員揃って吹き出す寸前だ。
ちなみに、寝起きの俺以外は、もう全員身支度を整えていつでも出陣OK状態だ。
「ええと……」
誤魔化すように笑うと、とうとうシルヴァとグレイが堪えきれずに吹き出す。笑いは連鎖していき、順番に全員が吹き出し、最後に俺も我慢出来ずに吹き出し大爆笑になった。
「あはは、二度寝ならぬ三度寝だったか。起きるからもうちょっとだけお待ちくださ〜〜い!」
慌てて起き上がり、大爆笑している皆をおいて大急ぎで岩の水場へ顔を洗いに行ったよ。
後を追いかけてきたスライム達を顔を洗ってから順番に水の中へ放り込んでやり、水遊びにやってきた犬族軍団に場所を譲る。
跳ね飛んで戻ってきてくれたサクラだけを鞄に入れてテントへ戻り、とにかく朝食になりそうなパンやおにぎりなんかを大急ぎで色々と取り出していった。
よし、コーヒーが飲みたいから今朝は俺もサンドイッチにしよう。
「はあ、美味しかった。さて、今日はどこへ行くのかねえ」
さっきタマゴサンド三種盛りを綺麗に平らげていたはずなのに、俺が取ってきたタマゴサンドと岩豚カツサンドを半分ずつ強奪して完食したシャムエル様は、満足そうにそう言ってただいま絶賛尻尾のお手入れ中だ。
さすがに少ないので追加でもう一つ取ってきた追加の岩豚カツサンドを食べながら、シャムエル様の食欲にもう笑うしかない俺だったよ。
「それで、今日は何処へ行くんだ?」
二杯目のコーヒーをじっくり飲みながら、ふと気になって隣で同じくコーヒーを飲んでいたハスフェルにそう尋ねる。
「おう、この近くに大型の草原鹿の群れがいるんだ。せっかくだから、子猫達に普通の生き物の狩りも一通りは教えておくべきだろうって事で意見が一致したので、まずはそこへ行くよ。そのあとは、普通の肉食獣とも戦わせておくべきだろうから少し山側へ行ってみるつもりだ」
そこまで聞いて、もうちょっとで俺はマイカップを取り落とすところだったよ。
ちょっと待て。
ええと、普通の獲物? それに普通の肉食獣? それってジェムモンスターと違って、いわゆるお食事用の大型の獲物とか、リンクスみたいに、狩りをする側の動物達との戦いなわけで……それってつまり、どう転んでもスプラッタ確定だよな……?
無言でハスフェルを見ると、俺の言いたい事が分かったみたいで苦笑いしつつ頷いたよ。
「分かった。ここをベースキャンプにしよう。俺はここで料理をして待っています!」
顔の前で大きなばつ印を作りながらそう叫ぶと、話を聞いていたらしいリナさん一家とランドルさんが揃ってまた吹き出していた。
「ええ、せっかくなんだから、ケンも一緒に行こうよ〜〜!」
シルヴァのお願いポーズにうっかり頷きそうになったけど、ここはグッと堪えて真顔で首を振る。
「いや、マジで無理だから」
苦笑いしたハスフェルが黙って首を振っているのを見て、わざとらしいため息を吐いたシルヴァとグレイが俺のそばへ来た。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
美女二人のお願いポーズに、慌てて座り直した俺は二人を見てうんうんと頷く。
「何? 俺に出来る事ならするけど、あまり無茶は言うなよ?」
「あの、ジビエハンバーグが食べたいです!」
「特にチーズインの煮込みジビエハンバーグ!」
「あれが食べたいで〜〜す!」
「分かった、任せろ! 材料はまだまだあるからな!」
何を頼まれるのかと一瞬身構えたけど、料理のリクエストなら大歓迎だよ。
手を叩いて喜ぶ二人を見て、次々に手を挙げる神様軍団とリナさん一家とランドルさん。
結局、色々とリクエストされてしまったので、俺はここに残って料理をする事になった。
まあ、子猫達の狩りの様子を見たい気はあるんだけど、目の前にスプラッタな光景が広がったら俺は卒倒する自信がある。
なので、ここは適材適所で行くべきだよな。
甘えるように喉を鳴らして俺の足に頭突きをしてくるマニとカリーノを交互に撫でてやりながら、乾いた笑いをこぼす俺だったよ