おやすみとにぎやかな朝の光景
「ああ、駄目だ! このままだと、地面に転がったまま寝ちまうよ!」
子猫達にくっつかれたまま、しばらく目を閉じて幸せを噛み締めていた俺だったが、大きな声でそう叫んで腹筋だけで起き上がった。
「じゃあ、ここで解散だな。ケンに風邪をひかれたら俺達が困るからな」
笑ったギイの言葉に、皆も大笑いして頷いている。
「その時は、俺は万能薬を飲んで遠慮なく寝込ませてもらうから、回復するまでは各自で生き延びてくれたまえ」
ドヤ顔でそう言ってやると、またしても全員揃っての大爆笑になったよ。
ちなみにこの世界には、俺の元いた世界と違って怪我を瞬時に治してくれる万能薬があるが、病気の場合はちょっと違うらしい。
液体の万能薬を飲む事で病気も治療出来るが、怪我と違って即座に完治する事はなく、容体に応じてしばらく安静にする期間が必要らしい。
風邪の場合、ひき始めに飲むのが効果的らしく一日程度休めばほぼ完治するらしいが、具合が悪いのに動き回ったりして無理していると、無駄に体力を削がれて回復にも時間がかかるんだって。ひき始めに飲むと効果的なのは風邪薬と一緒だな。
まあ、俺はこっちに来てから一度も風邪なんてひいた事ないんだけどな。
あれ? 何とかは風邪ひかないって……いや、これもシャムエル様が俺の身体を無駄に頑丈に作ってくれたおかげだよな! って、でもよく考えたら俺って昔からほぼ風邪ひいて寝込んだ記憶ってないんだけど……あれ?
冷静に考えたら何だか悲しい事になりそうなので、とりあえず不穏な考えは全部まとめてふんじばって明後日の方向へぶん投げておいたよ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ〜〜また明日ね」
笑顔で手を振るシルヴァ達やリナさん達を見送り小さなため息を吐いた俺は、巻き上げていたテントの垂れ幕を戻した。
それから、飛びついてきたマニを抱きしめてやる。
「よし、それじゃあもう寝るか」
マニのまん丸な顔をモミモミしながら振り返ると、すでに出来上がっていた巨大なスライムベッドに、ニニとマックス、それからカッツェとカリーノとミニヨンが待ち構えているのが目に飛び込んできて思わず笑っちゃったよ。
手早く装備を脱いで収納した俺は、もふもふパラダイスへとマニと一緒に飛び込んでいった。
「ああ、幸せ……最高のもふもふパラダイスだよ……」
しばらくモゴモゴと動き回ってジャストフィットな位置を探す。
よし、これでいい。俺が動きを止めたのを見て、マニとカリーノが並んで俺の腕に飛び込んでくる。
無言の蹴り合いのあと、負けたカリーノが俺の背中側にくっつく。その隣にウサギトリオが並んで収まり、猫サイズのヤミーとティグが俺の顔の横に丸くなって収まる。
他の子達はベリーのところへ行ったみたいだ。
「幸せそうで何よりです。ではおやすみなさい」
笑ったベリーの声に返事をしようとしたんだけど、最高のもふもふに埋もれた俺は、眠りの海へ吸い込まれるみたいに墜落していったのだった。
ううん、相変わらず自分でも感心するレベルに素晴らしい寝つきっぷりだよなあ……これが半分でも寝起きに適用されていたら……。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きるよ……」
翌朝、いつものように従魔達総出のモーニングコールに起こされた俺は、半ば無意識に返事をしながら胸元のふわふわを抱きしめた。
あれ? 確か寝た時はマニを抱きしめていたはずなんだけど、このふわふわ尻尾は……フラッフィーだよな?
抱き枕役が代わっているのも珍しい事ではないので、大きな欠伸を一つした俺はもっふもふな豪華な尻尾をこっそりと撫でさすった。
「ううん、いいもふもふですねえ……」
小さくそう呟き、当然のようにそのまま二度寝の海へドボン。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きてるよ……」
「相変わらず、寝てるくせに起きてるとか言ってるし」
「本当に相変わらずですねえ」
「じゃあ、遠慮なく起こしてやってくれていいよ!」
「は〜〜〜い!」
シャムエル様の声の後に、元気よく返事をする子猫達と猫族軍団の声。
ちょっと待った! お前らどうして巨大化してるんだよ!
寝る時は皆小さな猫サイズだったじゃないか!
脳内で思いっきり突っ込んだんだけど、残念ながら寝汚い俺の体は全然全くこれっぽっちも起きてくれない。
ザリザリザリ!
ジョリジョリジョリ!
ゾリゾリゾリ!
ジョリ〜〜〜〜ン!
ショリショリショリ!
ショリショリショリ!
ショリショリショリ!
「うぎゃ〜〜〜〜〜〜! げふう!」
猫族軍団プラス子猫達による、同時多発攻撃によるとんでもない痛さに悲鳴をあげる俺。
そして、それと同時に思いっきり俺の腹を蹴っ飛ばして逃げていくフラッフィー。
いつも思うが、これって絶対にわざとだよな?
悶絶しつつ転がってスライムベッドから転がり落ちそうになる俺。
「ご主人危ないよ〜〜」
のんびりしたサクラの声の直後に、俺は伸びてきた触手にしっかりと捕まえられてそのまま放り投げられた。
落ちた先はさっきまで俺が寝ていたニニの腹の上。
「ああ、このもふもふが俺を駄目にするんだよなあ〜〜〜」
「ごちゅじんちゅかまえたにゃ〜〜!」
「ごちゅじんかくほ〜〜!」
「かくほだにゃ〜〜〜!」
飛びついてきた子猫達に押さえ込まれた俺は、笑いながら腕を伸ばして子猫達をまとめて抱きしめ、そのまま気持ちよく三度寝の海へ落っこちて行ったのだった。ボチャン。