夕食といってらっしゃい!
「おお、確かに綺麗な水が湧いているなあ」
マックスの上で伸び上がって岩の上を確認した俺は、笑顔でそう言って地面に飛び降りた。
まだ明るいうちにギイの案内で到着したそこは、木々が時折点在する広くて綺麗な草地で地面も平らだし、確かにここなら全員のテントを張っても大丈夫だろうと思えるくらいの広さがあった。
そして、中央にドドンと存在感を示す大きくて平らな岩が鎮座ましましていて、その岩の上部にはこんこんと水が湧き出す泉があり、そこから流れ出した水が小川となって草地を抜けて奥の林へと流れていた。
しかも水の湧く岩の側面は階段状に岩が割れているので、無理しなくても上の泉へ簡単に上がる事が出来るようになっている。ううん、至れり尽くせりじゃん。
場所の安全確認が終わったところで、手分けしてそれぞれのテントを張っていく。
まあ、全部スライム達がやってくれるから、俺はテントの場所を決めたら最初の柱の位置を決めて持っているだけなんだけどね。
「ええと、昼は鉱夫飯のアレンジ弁当だったんだよな。よし、子猫達の狩りが無事に終了したお祝いを兼ねて、肉でも焼きますか! 久々のステーキだ!」
そう言った瞬間、全員の視線が俺に集まる。即座にサクラが飛び込んでくれた鞄からステーキ用の分厚い塊肉を取り出して見せる。ちなみにこれは、グラスランドブラウンブルの熟成肉だ。いわゆるサーロインと呼ばれる最高部位の一つだ。
「これを焼くぞ〜〜〜ひれ伏せ〜〜〜!」
笑いながらドヤ顔で手にした肉の塊を見せてやると、それを見た一同から大歓声が上がり拍手喝采になったよ。皆、肉好きだもんなあ。
とはいえ、この人数を俺一人で焼くのは不可能なので、コンロ総動員でアーケル君とレオに素直にヘルプを要請して手伝って貰う事にしたよ。まあ、三人がかりで焼けば何とかなるだろう。
副菜やサラダ、スープやパン、それからお味噌汁とご飯等々、色々取り出して並べておく
俺達がお肉の準備をしている間に、それ以外は各自で準備してもらういつもの作戦だよ。
日が暮れてきたので、急いでランタンを取り出して点火しておく。
「さてと、それじゃあ、焼いていきますか」
筋切りして軽く叩き、ステーキ用の岩塩と黒胡椒をガッツリと振りかけた分厚い熟成肉を、焼いて牛脂を溶かしたフライパンに並べていく。
早速肉が焼けてじゅうじゅうとにぎやかな音を立て始める。
「ああ、この香りと音だけ聞かせてまだ食べられないなんて拷問だ〜〜〜」
エリゴールの大袈裟に嘆く声に、ランドルさんとオリゴー君とカルン君が続いて同じ台詞を二重唱で叫ぶ。
「まだ焼けてないから、もうちょいお預けで〜〜す!」
わざとらしくそう言い、牛脂の溜まったところへ熟成肉をゆっくりと動かしてさらに加熱する。
じゅうじゅうと跳ねる油の音を聞いて上がる三重唱の悲鳴。
笑った俺は、レオとアーケル君と三人揃って頷き合い、彼らの目の前で揃ってもう一回ゆっくりと肉をひっくり返してやったよ。
「ほら、お前はこれでいいか?」
いつものように、ハスフェルが俺の分も用意してくれていたのでお礼を言って受け取る。
「おにぎりが全部で六個と、温野菜の盛り合わせ。わかめと豆腐の味噌汁に香の物のたくあん。おお、いい感じだ」
にっこり笑って焼けたステーキをドドンとお皿に盛り付け、他の皆の分も順番に盛り付けていった。
作り置きしていたステーキソースは、すりおろした玉ねぎににんにく風味の醤油味のものと、煮詰めた赤ワインにスパイスたっぷりバージョン、それから大根おろしと醤油のさっぱり和風の三種類だ。お好きなのをどうぞ。俺は大根おろしの和風ソースにした。
「よし、出来上がり! 俺も食うぞ!」
フライパンの油は再利用するのでサクラ達にまとめるように頼んでおき、俺も急いで席に座ったところでワイングラスと赤ワインのボトルが回ってきた。
「ほら、せっかくだから祝杯もあげないとな」
ハスフェルの言葉にグラスを笑顔で受け取り、赤ワインを並々と注いでもらった。
冷えた白ビールもいいけど、ステーキには確かに赤ワインが合う。
「では、僭越ながら……」
そう言って立ち上がると、全員が笑顔でそれに続く。
「子猫達の初めての狩りの成功と、今後の活躍を願って乾杯! 愉快な仲間達、最高〜〜!」
「乾杯! 愉快な仲間達、最高〜〜!」
全員の声が見事に重なり、ワイングラスが高々と掲げられた。
俺も笑顔で頷きぐいっと飲み干す。
「おお、めっちゃ美味い、もう一杯お願いしま〜〜す!」
初めて飲む赤ワインだったけど、香りは濃厚なのに口当たりは軽い、すごく良くてするっと飲めちゃったよ。
シャムエル様も加わってもう一回乾杯してから、俺は久々の熟成肉のステーキを堪能したのだった。
「じゃあ、私達は狩りに行ってくるわね。ご主人が寝る時間までには戻ってきま〜す!」
乾杯を終えた俺達を見て、ミニヨンとカリーノとマニの三匹を引き連れたニニとカッツェがそう言ってテントから離れていく。その言葉に、ティグとヤミーをはじめとした猫族軍団が次々に起き上がってその後を追って出て行ったよ。
まあ、あいつらも久々の郊外だから自由に食事をしたいのだろう。
「おう、いってらっしゃい。だけど子猫達に無理はさせないでくれよ〜〜」
そう言いながら手を振ってやると、笑ったニニの声と一緒にティグ達の笑う声も聞こえた。
「ちゃんと教えてあげますからご心配なく。ご主人が寝るまでには戻りますね」
カッツェがそう言い駆け出していく。
外はすっかり真っ暗になっているのであっという間に姿が見えなくなる。
「さて、夜の狩りは上手くいくのかねえ」
そう呟いて小さく笑った俺は、ステーキの最後の一切れにソースをしっかりと絡めてから口に放り込んだのだった。