狩りの終了と今夜の予定
「さて、それじゃあボール遊びも終わったみたいだし次へ行くとするか」
笑ったハスフェルの言葉に、緑茶を飲み終えた俺も苦笑いしつつ立ち上がって大きく伸びをした。
何しろ従魔達総出の大興奮状態でのピルバグサッカー大会は大盛り上がりを見せ、五面目をクリアーしたところでやっと満足してくれたらしく、ここでようやくピルバグサッカー大会は終了となった。
特に、ピルバグサッカー初体験だったマニ達三匹の大興奮っぷりがどれくらいだったかと言うと、見学している俺達が全員揃って大爆笑になるくらいのそりゃあもの凄い大興奮での大暴れ状態だったよ。あれ、マジで俺達が近くにいたら絶対に一緒に蹴り飛ばされていたと思うぞ。
「それでどうするんだ? 近くにマニ達でも相手を出来そうな、何か良さそうなのはいるのか?」
走るマックスの背の上から近くを走るシリウスに乗るハスフェルにそう尋ねる。
「芋虫なら近くに出現箇所があるんだが、これは誰かさんが泣いて嫌がるみたいだからやめておくよ」
芋虫と聞いた俺が何か言うより先にそう言ってくれたので、小さく吹き出した俺は何度も頷いた。うん、芋虫は断固拒否だよ。
「小規模だが、キラーマンティスの巣がある。あの様子を見る限り、子猫達でも大丈夫そうだからな」
「ええ、キラーマンティスってカマキリだろう? 大丈夫か?」
小さいのはそれほど怖くはなかったが、巨大な亜種はかなりの強敵だった気がする。
「おう、大丈夫だよ。心配するな」
平然と笑ってそう言われてしまい、俺は、以前戦った時のキラーマンティスがどんなふうだったか必死になって思い出していたのだった。
「確か、キラーマンティスは脱皮するんだっけ?」
「そうそう、最初はかなり小さいんだけど、脱皮を繰り返して巨大化するうちに亜種化する個体が出る。そうなるとかなり危険ではあるんだけど、まあこの顔ぶれなら問題ないって」
マックスの頭の上に座ったシャムエル様が、尻尾のお手入れをしながら平然とそう教えてくれる。
「ま、まあそれはそうかもしれないけどさあ……マニ達は、まだホーンラビットとピルバグとしか戦っていないんだ。いきなりカマキリなんて、マジで大丈夫か?」
「大丈夫だって。今から行く場所はかなり小規模な巣だからね」
まあ、神様がそう言うのなら本当に大丈夫なんだろうけど……ちっとも安心出来ないのは、何故なんだろうなあ。
一人遠い目になって黄昏ているうちに、もう目的の場所に到着してしまった。
人の背丈くらいの木がまばらに点在する草原だ。あの木からキラーマンティスの子供が出てくるらしい。それなりの大きさになったのは近くの林の中に潜んでいるらしく、俺達が戦っていたら勝手に出て来るだろうとの事だ。
まあ、若干不安は残るが来てしまったのなら仕方がない。
マニ達に危険が及ばないように俺が守ってやればいいんだよな。
密かな決意を胸にマックスから飛び降りた俺だったが、はっきり言って全くと言っていい程に俺の出番は無かった。
成虫が出る可能性のある林近くの場所は、神様軍団と従魔達に占領されていて俺の入る場所は全然なくて、まあ、無理して戦いたいわけじゃあないから、俺は小さいのが出る木の近くへ行って構えたのだった。
とはいえ一応張り切って戦うつもりだ。俺だって、少しくらいはヘラクレスオオカブトの剣で戦いたいもんな!
ちなみに、マニ達は最初は小さいのが出る木の側で待ち構えていたんだけど、あまりに簡単にやっつけられるもんだから飽きてきたらしく、二面目には嬉々として林近くに陣取り、自分の体より大きいくらいの巨大なキラーマンティスを軽々と仕留めていたよ。
うん、あいつらの戦闘能力を甘く見ていた。俺如きが心配する必要なんて全く無かったよ。
とはいえ、ニニやカッツェ曰く、子猫達の個々の戦闘力はそれなりに高いみたいなんだけど、夢中になるあまり周囲への注意力が散漫になるらしく、何度かデカいのに背後を取られて周りに助けられる場面があったらしい。
まあ、そのあたりは経験値がものを言う部分も大きいだろうから、これはもう色んな戦闘経験を積ませてやるしかないよな。
って事で、その日の狩りはキラーマンティスの三面目をクリアーしたところで終了となった。
「じゃあ、今夜は野営するからな。水のある良さそうな場所に案内するよ」
ギイの言葉に頷き、マックスの背に飛び乗る。
全員騎乗したところで、ギイの案内で今夜のキャンプ地へ向かったのだった。
マニ達は、走りながらも周囲に興味津々で、茂みを見つけては食事の時のシャムエル様みたいに頭から突っ込み、小さな普通のバッタを見つけては嬉々として追いかけて遊んでいた。
「まあ、見るもの聞くもの全て初体験なんだろうからなあ。そりゃあ楽しいだろうさ」
三匹揃って尻尾をピンと立てて走る最高に可愛い子猫達の後ろ姿を眺めながら、小さく笑った俺だったよ。
「ご主人達を野営地へお送りしたら、あの子達を連れて交代で夜の狩りにも連れていくわね」
「食事の為の獲物を取る方法も、あの子達に一通りは教えておかなければね」
ニニの言葉に頷くカッツェも、そう言って笑っている。
「確かに夜の狩りは経験させておくべきだろうな。じゃあ、そっちはお任せするからよろしく!」
獲物を狩る方法なんて、俺達では教えてあげられないからな。
「任せて!」
そう言って俺に向かって声の無いニャーをくれるニニに、俺も笑って手を振り返してエアなでなでをしてやったのだった。
ああ、子猫達も可愛いけど、やっぱりニニが最高に可愛い!