ホワイトホーンラビット戦
「な、成る程! ちょっと分かった気がするぞ!」
跳ね飛んできたホワイトホーンラビットを左手で持つ丸盾で防ぎつつ、隙を見て右手に持った短剣で叩き切った俺は、思わずそう叫んでいた。
確かに、それほどの戦闘能力のない相手が大量に出る今回のような戦いの場合、基本的に防御系の術を使えない俺にとっては、この短剣と丸盾の組み合わせはかなり有効な武器な気がする。
丸盾で防ぎつつ、短剣で切り掛かる。俺の腕力ならあまり大きな相手の場合は無理があるだろうけどな。
穴から次々に飛び出してくる、真っ白な体にこれまた真っ白な一本角の立ち耳ウサギのホワイトホーンラビット。
しかし、飛び出してくるそれらは、どいつも中型犬くらいのサイズがあるかなり大きめのジェムモンスターで、尖った前歯を剥き出しにして豪快に跳ね飛んで襲いかかってくる。
可愛い見た目なのに、あの凶暴な表情と尖った前歯のおかげで可愛さは激減している。まあ、ラパンやコニーの時も、元のジェムモンスターはめっちゃ凶暴で怖かった記憶があるんだけどさ。
俺に盾の使い方を教えてくれるつもりなのだろう。俺のすぐ近くで、同じような短剣と丸盾を装備したレオが戦っている。時々その様子を見つつ、俺も真似をして盾を構えてウサギの団体の中へ突っ込んだりもした。
成る程。盾は防具としてだけではなく武器としても使えるのか。覚えておこう。
そして草地の比較的平らな場所では、マニとミニヨンとカリーノの三匹が、これまた大はしゃぎ状態になっていた。
一番最初こそ、飛び出してきたウサギ達を追いかけまわすだけでどうしたらいいのか分かっていない様子だったが、ニニやカッツェを始めとした狩りの大先輩達が何度か見本を見せると、あとはもう完璧なハンター状態になっていたよ。
飛びかかって押さえ込み、急所に噛み付く。あるいは、大きな前脚で思いっきり叩いて吹っ飛ばす。どちらの場合もそれでイチコロだよ。
まあ、弱い相手ってのもあるのだろうけれども、初めてでこれは中々素晴らしいと思うぞ。
いつものウサギとの戦いの時と違い、盾のおかげで迂闊にぶつかられる事態は皆無の俺は、少し余裕を持って戦いつつ可愛らしい歓声を上げて大はしゃぎで戦う子猫達の様子をこっそりと眺めていたのだった。
「はあ、これで一面クリアーかな?」
持久力の無い俺の息が切れ始めた頃、ようやく穴から出てくるウサギの数が一気に減り始めた。
そうこうしている間に出現が途切れ、ここでようやく一面クリアーとなったみたいだ。
地面には小さなジェムがゴロゴロと転がっていて、スライム達がせっせと拾い集めている。
どうやらここの巣穴の出現数は、いつものウサギの巣穴の出現数に比べるとかなり多かった。体感でだけど、恐らく倍くらいは余裕であったと思うぞ。
おかげでこっちの人数でも、従魔達も含めて全員がそれなりに戦えたみたいだから……良かったんだよな?
短剣と丸盾を一旦収納した俺達は、一つ大きなため息を吐いてから巣穴の中を覗き込んだ。
「あれ? いつもなら、ここで小さいのが出てくるんだけどなあ……」
「出てきませんねえ?」
「確かに、そろそろ出てくるはずなんだけどなあ?」
俺の両隣に、リナさんとアーケルくんも進み出てきて揃って心配そうに穴の中を覗き込む。別の巣穴では、ランドルさんも困ったように穴の中を覗き込んでいるから、彼もテイムに参加するみたいだ。
「どうやら怯えてしまって中で縮こまっているみたいね。追い出してあげるから逃さないようにね」
巨大化して戦っていたセルパンが笑ってそう言うと、俺達が覗き込んでいた巣穴の中へ普通の蛇サイズになってスルスルと入っていった。
「あらら、怖がらせちゃったか」
顔を見合わせて苦笑いした俺達は、それぞれ少し離れて別々の穴の前で身構えた。
しばらくしてガサガサと巣穴の中から音がしたと思ったら、小さな真っ白いボールが穴の中から飛び出してきた。
「捕まえた!」
咄嗟に両手でボールを掴む。おお、ふわふわだぞ。
ランドルさんは、一瞬反応が遅れて顔面に激突されていたけど、仰向けに倒れながらも顔に張り付いた真っ白ボールをしっかりと捕まえていたし、リナさんとアーケル君は、即座に反応して俺と同じく両手で真っ白なボールを捕まえていた。
そして、その横をスリ抜けるみたいにして穴から飛び出して逃げようとした真っ白なボール達は、歓声を上げて飛びかかってきたオリゴー君とカルン君、それからシルヴァ達によってこれもしっかりと確保されていたのだった。
ううん、皆の反射神経、すごいぞ。
どうやら一度の出現で、全員分確保出来たみたいだ。
俺は、まずは自分の手の中にいる真っ白で小さなウサギを見る。
怯えているのか、ハクハクと過呼吸みたいになっているのを見て、そっと地面に下ろしてやる。
それから改めて首の辺りを掴んで声に力を込めて、いつものセリフを口にしたよ。
「俺の仲間になるか?」ってね。