ホワイトホーンラビットの巣穴!
「おお、そうそう。ウサギの巣穴ってこんな感じだったよな」
ハスフェルとギイに先導されてしばらく走った後に到着したのは、起伏に富んだ草地とやや低木の木が集まる茂み、そしてその茂みの根元にボコボコと穴が空いた、いかにもウサギの潜んでいそうな場所だった。
しかし、草地のあちこちにはまだまだ雪の塊が残っていて、凹んだ場所は真っ白なままだ。
「冬になって雪が積もっている間は、山の中腹あたりにある鉱山横にある地脈の吹き出し口からもホワイトホーンラビットが出現するんだが、これくらいまで気温が上がってくるとそっちの出現孔は自然に閉じて全部こっちに移動するんだよ」
「へえ、季節に応じて出現場所が変わるのか。すごいな」
感心していると、マックスの頭に座っていたシャムエル様がドヤ顔になる。
「あの場所は、冬でも閉山されない貴重な鉱山の一つでね。すぐ近くで出現するホワイトホーンラビットのジェムは、雪山鉱山の護衛の冒険者達の人たちの間では、訓練を兼ねたいいお小遣い稼ぎになってるんだよね」
尻尾のお手入れを始めたシャムエル様の言葉に、違う意味で驚いた俺だったよ。
「へえ、冬でも閉山しない鉱山もあるんだ」
あのもの凄い大量に積もる雪の中でも閉めないって、ある意味すごい根性だなと密かに感心していると、振り返ったハスフェルが近くに見える山を指差した。
「あの辺りは地脈が活性化しているせいで、大地の温度、つまり地熱が他よりも少しだけ高いんだよ。しかも年中安定している。だから地表に雪が積もってもほとんどがすぐに溶けてしまうし、真冬でも鉱山内部はそれなりの温度が保たれているんだ。それなら閉める意味はあるまい? ちなみに、採掘されるのはダイアモンドを始めとした様々な宝石の原石である鉱石で、地下道を使ってバイゼンまで運ばれるので雪が積もっていても問題無い。これらは、バイゼンの職人達の飯の種でもあるからな。一年を通して安定した生産量を確保しているんだよ」
「ああ、成る程ね。そういう事なら閉めない方がいいよな」
ハスフェルの説明に感心したように頷いた俺は、マックスの頭に座るシャムエル様を見た。
「ちなみに、春になってもホワイトホーンラビットって真っ白なのか? 緑の草原に真っ白なウサギだと、絶対目立ちまくりそうだけど?」
「もちろん真っ白だよ。この辺りはさっきハスフェルが言った地熱の高い地域とは違って、大地の温度がかなり低いんだ。だから真夏でも窪地には雪が溶けずに残ってて、あちこちに真っ白な大地があるんだよね。だから、ホワイトホーンラビットが真っ白でも問題ないの」
「成る程。色々あるんだなあ」
大雑把に見えるシャムエル様だけど、色々と考えて……いるんだよな?
今までのいろんな大雑把さ加減を思い出して若干の不安を覚えつつ、ボコボコと空いた穴を見つめた俺だったよ。
「じゃあ、シルヴァ達が焦れているみたいだから、そろそろ始めますか」
マックスの背から飛び降りた俺の言葉に、シルヴァとグレイの二人が歓声を上げて地面に飛び降りる。それを見た他の皆も、それぞれの騎獣から飛び降りて広がる。
「では、私が中へ入って追い出しますね」
ニニの首輪からするりと降りて来たセルパンが、普通の蛇サイズになって穴の前で首をもたげてこっちを振り返った。
「おう、是非お願いするよ。だけど、向こうはどうするんだ?」
一番広い場所にミニヨンとカリーノとマニが並び、その周りを猫族軍団が取り囲む。その横に俺達が散らばっているから満員御礼って感じだ。それを見たマックス達は少し離れた別の草地へ走って行ったから、犬族軍団はそっちで狩りをするみたいだ。
巣穴が一つならセルパンの追い出しで問題ないだろうけど、あれだけ離れていると別の巣穴な気がする。
心配して見ていると、イグアナコンビがマックス達の後を追って走って行った。どうやらそっちの追い出しはイグアナ達がやってくれるみたいだ。
確かにあの子達は草食ではあるが、あのいかつい見た目のインパクトは相当だからな。イグアナを知らないウサギ達は、そりゃああれが巣穴に入って来たらびっくりして逃げるだろうさ。
安心して小さく笑った俺は、ヘラクレスオオカブトの剣を抜きかけて我に返る。
「ああ、そうだ。今こそここであの新しい片手剣と盾を使うべきだよな。よし、是非使ってみよう」
小さくそう呟き、新しく作ってもらった片手剣と丸盾を取り出し、少し考えて念の為シンプルな方の兜も被っておく。
「ああ、確かにお前ならここはそっちの装備の方がいいだろうな。片手剣と丸盾は扱いに慣れも必要だから、こういう楽な相手の時にこそ使って経験値を積んでおくべきだな」
笑ったハスフェルの言葉に真顔で頷く俺。
片手で剣を扱うのは殆どした事がないので若干不安はあるが、一応扱い方は分かるので大丈夫だろう……多分。
小さく深呼吸をして息を整えた俺は、巣穴の前でこっちを見ている普通の蛇サイズのセルパンに頷いてやる。
「じゃあ行くわね」
嬉しそうにそう言ったセルパンが、大きめの穴の中へスルスルと音もなく入っていく。
武器を構えた俺達と、目を輝かせて巣穴を見つめる子猫達や猫族軍団。
しばしの沈黙の後に吹き出すみたいにして飛び出してきた真っ白なウサギ達に、歓声を上げた子猫達が先陣きって飛びかかって行った。
歓声を上げた俺も、右手に持ったキラーマンティスの短剣を大きく振りかぶって飛び込んできた真っ白な塊に向かって振り下ろしたのだった。