子猫達の初陣やいかに!
「行くにゃ〜〜〜〜!」
雄々しい雄叫びと共に、ミニヨンを先頭にしてカリーノとマニが三匹揃ってスライムが潜んでいると思しき茂みへ勢いよく突っ込んでいった。
その直後、ものすごい数のスライム達が一斉に跳ね飛んで茂みから飛び出してきた。そしてまるで生きているかのようにわっさわっさと揺れ動く茂み。
「おいおい、大丈夫かよ」
マックスから飛び降りた俺は、ヘラクレスオオカブトの剣を抜いて飛び跳ねてくるスライム達を豪快に真っ二つにしながら揺れ動く茂みを見た。
伸びるゼリーみたいなスライムだけど、踏み潰すか叩き潰す、あるいは切れ味のいい剣で真っ二つにすれば簡単にやっつける事が出来る。
だけどのんびり対応していたら体や腕に巻きつかれて張り付かれてしまい、動きを封じられたり口や鼻を塞がれたりしたら非常に危険なジェムモンスターではあるのだ。
そして、そんなスライムが密集していたであろう茂みに無防備に突っ込んだマニ達は、何というか大変な状態になっていたのだった。まあ、当然だよな。
「嫌にゃ〜〜〜! きもちわるいにゃ!」
「にゃにこれ! ベタベタして嫌にゃ!」
「やだ〜〜〜! くっつかにゃいでにゃの!」
要するに、四方八方からパニックになった野生のスライムに張り付かれてしまい、茂みの中で転がりまくっては張り付くスライムを叩き落とし、起き上がったところでまた張り付かれてまた転がりまわっているのだ。
要するに、三匹ともほぼ同じでこちらもパニック状態になっている。
本来、スライム狩りは、少し離れたところから石などを茂みに投げ込み飛び出してきたところを一網打尽にするのがお約束だ。あんな勢いで自分からスライムの巣へ突っ込む勇気は俺にはないね。パニックになったスライムに、うっかり鼻や口に張り付かれたら息が止まって大変な事になるって。
テイム目的でこっそり入るならいざ知らず、あんな無茶する勇気は俺には無いよ。スライム相手だって、油断すれば死ぬ可能性だってあるんだからさ。
「もう、無茶しないで戻ってきなさい!」
「いい加減にしなさい!」
見かねたニニとカッツェが茂みに飛び込んでいき、マニとカリーノを咥えて即座に飛び出してくる。そのまま地面にカリーノを放り出したカッツェが引き返して茂みへ戻り、すぐにミニヨンも咥えて茂みから飛び出してきたよ。おお、あの大きさになったミニヨンでも、カッツェなら首を咥えて連れてこられるんだ。
ちなみに、引き摺り出された時のミニヨンの顔にはべったりと透明なスライムが張り付いていて、前脚で必死になって引っ掻いている真っ最中だったよ。あれはやばいって。
「もう、ミニヨンちゃんったら無茶しないの!」
笑ったシルヴァが進み出て、ミニヨンの顔に張り付くスライムを指先で軽く叩いた。
一瞬で炎が上がり、スライムが消し飛び小さなジェムが転がる。
炎に驚いてぽかんと目を見開いて硬直しているミニヨンを、カッツェは遠慮なく地面に放り出した。
勢い余って三回転して止まったミニヨンは、ハグハグと口を開けて硬直したまま地面に仰向けに転がってたが、しばらくして自分で起き上がり、ブルブルって感じに大きな身震いをしてからため息を吐いた。
「はあ、びっくりしたのにゃ!」
同じく地面に放り投げられたきりへそ天状態で固まっていたカリーノと、まだニニに咥えられたまま硬直していたマニも、二匹揃ってうんうんと頷いている。
「びっくりしたのはこっちの台詞だよ。お前ら無茶するなって。鼻や口の中に入り込まれたら、冗談抜きで窒息するぞ」
一旦剣を納めて、ニニからマニを受け取って地面に下ろしてやる。
地面には、スライムの小さなジェムがゴロゴロと転がっていて、アクア達が回収の真っ最中だ。
「全く無茶するんじゃあないよ。いいか、スライムを狩る時は、俺達が石なんかを投げて茂みから追い出してやるから、それを待って倒せばいいんだよ。あんなふうに茂みに突っ込んだりして一斉に襲い掛かられて張り付かれたりしたら息が出来なくなって危ないんだぞ」
「分かったのにゃ!」
「次はもっと上手くやるにゃ!」
「分かったのにゃ!」
並んで良い子座りしたミニヨンとカリーノとマニは、俺の説教をしょんぼりと聞いた後、揃って顔を上げて尻尾をピンと立てた。若干背中の毛も逆立っているよ。
「よし、じゃあもう一回するから、お前らはそこで戦うんだぞ。俺の持つ剣は危ないから、戦っている時は近くには来ないようにな」
ヘラクレスオオカブトの剣を抜いて子猫達に見せてやる。
「ふおお! ピカピカしてすっごく強そうだにゃ!」
「ごちゅじん、カッコイイにゃ!」
「しゅごいにゃ! マニの爪より切れそうだにゃ!」
三匹揃ってそう言いながら目を輝かせて俺の剣を覗き込んでくる。何だよ、この可愛いしかない子達は!
ああ、その試験管ブラシ状態の尻尾を俺にもふらせてくれ〜〜!
脳内で思いっきり叫んだ俺は、さりげなく左腕を伸ばしてマニを撫でてやり、そのまま背中から尻尾までそ〜〜っと撫でて、最終的には無事に試験管ブラシ尻尾に辿り着いて念願のボサボサ尻尾を堪能したのだった。
うん、これはこれで良きかな。だよ!