狩りに出発だにゃ!
「がんばるのにゃ!」
「こ、怖くにゃんかにゃいのにゃ!」
「そうだにゃ! 怖くにゃいにゃ!」
試験管ブラシみたいになった尻尾をピンと立てた子猫達が、張り切ってそう言いながら全力疾走している。
本当にあの子達を狩りに連れて行っても大丈夫なのか割と本気で心配なんだけど、横を走っているニニやカッツェは平然としているから、大丈夫なんだろう。多分。
全員揃ってお城を出て、アッカー城壁までは先を争うみたいに全力疾走するのはいつもの事だ。
まだまだ体格では負けてはいるが、子猫達はもう走る速さだけなら他の従魔達に負けていない。
特に暖かくなって自由に外を走り回るようになって以降、華奢でいかにも子猫っぽかった細い体にみるみる筋肉がついていき、小柄なマニであっても以前とは比べ物にならないくらいにしっかりとした体つきになってきている。
まあ、とは言えミニヨンに比べると、マニは体自体がかなり小さいし華奢なんだけどね。
「ミニヨンとマニだと、明らかに骨の太さが違うんだよな」
走る子猫達を横目に、マックスの背の上で小さな声でそう呟く。
「ですが、マニちゃんだってとても健康ですから問題はありませんよ」
姿を消して隣を並走しているベリーが、俺の呟きを聞いて笑いながらそう言ってくれる。
「まあ、そうだな。あれだけ元気なんだから心配はしていないよ」
若干短めの脚で、それでもかなりの速さで走るマニはたまらなく可愛い。特に縞々の尻尾が試験管ブラシ状態なのは、俺的には高得点だよ。
「ああ、あの試験管ブラシ尻尾を掴んでもふもふしたい!」
全力疾走のマックスに振り落とされないようにやや前のめりに体を倒しつつ、視界の隅をチラチラとかすめる麗しの試験管ブラシ尻尾を見てそう叫ぶ。
周りから笑い声が聞こえたけど構うもんか!
あれは子猫時代だけの超キュートな尻尾なんだから、期間限定なんだぞ! もふもふ好きを自認する俺が、あれをもふらずして何をもふると言うのだ! と、脳内で力一杯突っ込んでおいたよ。
そしてあっという間にアッカー城壁に到着した。
そこで一旦停止して、ハスフェルとギイを先頭に彼らの従魔、そしてエリゴールを乗せた巨大化したセーブルと、レオを乗せているのはビアンカで、テンペストとファインの狼コンビがシルヴァとグレイを乗せている。
ちなみに彼らの乗る従魔達には、街の馬具屋さんでお願いして急遽作ってもらった手綱と馬用の鞍を載せている。
作ってくれたのは以前アーケル君達の鞍や手綱を作ってくれた馬具屋さんで、大柄なビアンカの鞍や手綱も手持ちの材料で上手く合わせてくれたよ。さすがだね。
「ううん、しかし従魔達全員集合すると、やっぱりすごい光景だなあ」
改めて、俺達を取り囲むようにして走る従魔達の顔ぶれを見て思わずそう呟く。
お空部隊の子達は、ファルコも含めて全員がいつもの大きさのままで頭上を旋回しながら飛んでいる。リナさん達やランドルさん、それからオンハルトの爺さんが連れている子達も一緒に仲良く飛んでいるよ。
俺の従魔達で巨大化して走っているのはシルヴァ達を乗せている子以外はティグとヤミーとフラッフィーくらいで、それ以外の子達は大きくなっている子達の背中にまとめて小さくなって収まっている。
もちろん、スライム達がしっかりとホールドしてくれているので、どの子も落ちる心配は無いよ。
久々の外出になるイグアナコンビやハリネズミのエリーは、揃って小さなサイズのままセーブルの上で嬉しそうに周囲をキョロキョロと見回している。
そのままアッカー城壁をくぐり、ここからは並足くらいの速さで貴族の別荘地を抜けて街を迂回して城壁沿いの道を進んで城門に到着した。
さすがに、これだけの従魔を連れた団体だと街の中を進むと邪魔になるだろうし、怖がる人だっているかもしれない。なので一応、出来るだけ城門まで人通りの少ない道を進んでいるよ。
無事に東側の街道へと続く城門から街の外へ出る。新しく植った城壁横の林では、早速何人もの人達が散歩を楽しんでいた。
成る程。綺麗に作られていたあの細い道は、どうやら遊歩道だったみたいだ。
何人かが俺達に気づいて笑顔で手を振ってくれている。
俺達も笑顔で手を振り返してそのまま街道を東へ進んで行った。
しばらくしてから街道を飛び出し、草原地帯を走って街道から離れ、いくつかの雑木林を抜けて一気に加速する。
「それで、どこへ行くんだ?」
一応、今日は子猫達に狩りを体験させるのが目的だから、いきなり強い従魔じゃあなくてスライムかホーンラビットあたりから始めようって話になっている。
「ああ、もう少し行った先にスライムの巣があるからな。まずはそこで一度試してみよう」
「それで大丈夫そうなら、そのままホーンラビットの巣へ行くぞ」
この周辺の地脈の吹き出し口は把握しているハスフェルとギイが、揃ってこっちを振り返りながらそう言ってくれる。
「まあ、それくらいなら大丈夫……だよな?」
どうしても心配性の俺は、マックスをゆっくりと進ませながら今は姿を現して一緒に走っているベリーを振り返る。
「大丈夫ですよ。野生なら、大型の獲物だってそろそろ狩れるくらいですよ」
「うええ、マジ?」
「ええ、マジです」
笑ったベリーにそう言われて、俺は思わずニニと並んで走る子猫達を見た。
「大丈夫にゃのにゃ!」
得意げなミニヨンの言葉に、カリーノとマニも得意そうに胸を張る。
「そっか、じゃあ頑張ってくれよな」
「任せるにゃ!」
三匹の元気な返事に、俺達も笑顔になる。
しばらくそのまま走り続けて見えてきた、いかにもスライムのいそうな茂みの手前で減速した俺達は、顔を見合わせて頷き合った。
「よし、到着だ!」
俺の大声に、全員から拍手が起こる。
「じゃあ、まずは見本を……」
「行くにゃ〜〜〜〜!」
しかし、地面に落ちていた小石を引き寄せて拾った俺の言葉が終わらないうちに、ミニヨンを先頭にカリーノとマニが揃って雄々しく宣言して、勢いよく茂みの中へ突っ込んで行ったのだった。
どうなったかは……。