ただいま!
「ありがとうございました〜〜!」
ギルドマスターだけでなく、スタッフさん達まで総出で見送ってくれる中、照れたように笑った俺は手を振り返してからそそくさとマックスの手綱を引いて冒険者ギルドを後にした。
もちろん、お城へ戻る道すがら、よさそうなものがあればまとめ買いをしていく。
「そろそろ配達の人たちが来る時間だから、帰ろうか」
街に鳴り響く、時を告げる鐘の音を聞きながら慌てたようにそう言ってマックスの背中に飛び乗る。
「だけど、急ぐからって街の中は走っちゃ駄目だぞ」
今にも駆け出しそうになっているマックスの首元を叩いてやりながら、苦笑いしてそう言ってやる。
「も、もちろん分かっていますよ!」
動揺するかのようにゆっくりと振られていた尻尾が若干下がるのを見て小さく吹き出す。犬の尻尾は本当に嘘をつけない。気を取り直してゆっくりと並足で進むマックスの背の上で振り返ると、もう尻尾はご機嫌状態に戻っていた。
「なんていうか、こういうところが可愛いんだよなあ」
笑って小さくそう呟いた俺は、一つため息を吐いてよく晴れた空を見上げたのだった。
貴族街を抜け、アッカー城壁を通り抜けてお城の敷地内に入った途端に、弾かれたように勢いよく走り出すマックス。
もう止める理由も無いので、俺は思い切り走らせる為にマックスの背の上で前屈みになって手綱を短く持ち直す。
「おや、もうお弁当の配達が来ているみたいですね。いい匂いがしますよ」
段差で軽く10メートルは飛んだマックスが、着地してまた走り出しながら顔を上げてそう教えてくれる。
「ええ、大変だよ。間に合うかな?」
わざわざ来てくれたのに、留守は失礼だよな。体を起こして前を見たが、残念ながら俺の目では荷馬車は確認出来なかった。
「大丈夫ですよ。ではちょっと加速しますね!」
マックスが嬉しそうにそう言った直後にグッと速度が速くなって、伸び上がっていて体が後ろへ持っていかれそうになった俺は、慌ててまた手綱にしがみついて前屈みになったのだった。
「ああ、見つけた!」
しばらく走ったところで、前方に荷馬車を発見してそう叫ぶ。
「配達御苦労様です! 先に戻ってますね!」
追い越しざまに大声でそう叫ぶと、なぜか三台あった荷馬車から大歓声が上がって拍手されたよ。
「到着〜〜〜!」
なんとか配達の人達よりも先に戻れて安堵したのも束の間、すぐに追いついてきた配達の人達になんとか笑顔で手を振り、慌てて玄関の鍵を開けた俺だったよ。
「いやあ、噂には聞いていましたが、本当に速かったですねえ」
「追いかけようとしたんですが、全然勝負にもなりませんでしたよ」
荷馬車から降りてきたスタッフさん達が、呆れたように笑いながらそんな事を言っている。
成る程。俺が追い越した後に荷馬車も加速したからこんなに早く到着したんだな。
改めて挨拶を交わし、先に弁当箱の預かり金の入った袋をもらい、また今日の分の空になった弁当箱を返す。
「返していただくのは嬉しいのですが、無理なさってはおられませんよね?」
返す弁当箱の数を確認していたスタッフさん達が、若干心配そうに揃って俺を見ている。
「ああ、大丈夫ですよ。最近はそのままじゃあなくて、一旦全部取り出しておかずをアレンジしたりもしているんですよね」
「ああ、成る程。それでお召し上がりになっているんですね。それなら安心です」
笑ったスタッフさんから、今日の分の弁当の明細をもらい、数を一緒に確認しながら受け取っていく。
受け取り伝票にサインをして、戻っていく荷馬車を見送った。
今日も大量の鉱夫飯を手に入れる事が出来たよ。
「よし、これの片付けは昼飯を食ってからだな」
全部収納してから、部屋に戻る。
「ただいま〜〜皆元気か〜〜?」
部屋に戻って見渡したが、誰もいない。
「こたつの中は誰がいるのかなあ?」
和室にセットしてある掘り炬燵の中では、ハリネズミのエリーとイグアナコンビがいつものサイズになって転がっていた。
エリーは背中の針が危ないし、イグアナコンビも子猫達と一緒に遊ぶ事はあるらしいが、大きくなった今では鱗チームは添い寝はあまりしないらしい。
コタツに手を伸ばして、ぬくぬくになっている子達をもみくちゃにしてやる。
もちろん、エリーは出て来てもらって膝の上で針に気をつけながらの撫で撫でタイムだったよ。
「ここにいないって事は、もふもふチームは全員産室かな?」
小さく笑ってそう呟き産室を覗きに行く。
「おお、これまた最高にもふもふじゃあないか」
覗き込んだ産室では奥にカッツェが寝転がり、子猫達がお腹に潜り込むようにして並んでいる。巨大化したウサギ達が、その間に挟まって最高のもふもふ状態になっているよ。
お腹は空いているんだけど、つい誘惑に負けてマニとラパンの間に潜り込む。
「ああ、最高に幸せだなあ〜〜」
「ああ、ごちゅじん……おかえりにゃさい……」
すごく大きなあくびをしたマニは、俺に気付いて嬉しそうにそう言うと、俺の腕の中へ頭を突っ込んで凄い音で喉を鳴らし始めた。
「うああ! 可愛すぎるぞ〜〜!」
大きくなったとは言っても、ニニやカッツェに比べたらまだまだ小さなその頭を、俺は可愛さのあまり悶絶しながらしっかりと抱きしめてやったのだった。
はあ、短毛だけどみっちりとしたマニのもふもふも、これまた良きかな、良きかな……。