冒険者ギルドにて
「初心者の方は、こちらの受付へお願いします! 工事の応援依頼専用受付です!」
「中級以上の方はこちらの受付へお願いします! ジェムの確保を最優先で依頼を受けてください!」
到着した冒険者ギルドは、やっぱり大勢の冒険者達であふれていた。
「相変わらずの大行列だなあ。ううん、素材の引き取りはもうちょっと街が落ち着いてからの方がいいかなあ」
外まで続く大行列を眺めつつ、マックスの手綱を引いた俺は中へ入るのを躊躇いながらそう呟いた。
「おお、ケンさんじゃあないか。おはようさん。今度は何を持ってきてくれたんだ?」
どうしようか考えていると、列の横に置かれた小さな机で書類の束を持ったギルドマスターのガンスさんが、何やら忙しそうにサインをしながらそう言って手を振ってくれた、うん、器用なもんだ。
「おはようございます。相変わらずお忙しそうですね」
見つかってしまっては知らん顔も出来ない、
苦笑いしつつ手を振り返した俺は、マックスを建物横の空いた場所に座らせてからガンスさんに駆け寄って行った。
「おう、おかげでまあまあ忙しくしておるよ。あの大量のジェムのおかげで大型重機を動かせるようになったから、工事の効率は一気に上がったようで、工事の依頼が増えているさ。ああ、すまんな。これも頼むよ」
豪快に笑ったガンスさんは、駆け寄ってきたスタッフさんにサインの終わった書類の束を渡してから俺を振り返った。
「さっき城壁横の林のところを少しだけ見てきたんですけど、ドワーフさん達が焼け焦げた木を切り倒していましたよ」
「ああ、あの辺りは助けられた木は半分ほどだったと聞いておるな。まあ、戦いの場に一番近い林だったから仕方あるまい。また一から育て直すさ」
「無事だった木も、根ごと掘り起こしてありましたね」
薪用の丸太とは別に丁寧に枝打ちされた木が並べておいてあったのを思い出してそう言うと、ガンスさんは笑顔で大きく頷いた。
「地面にはあの岩食いが出た際の大穴がいくつも開いていて、土や地中の根も相当やられたみたいだからな。一旦全部掘り上げて、土作りからやり直しだよ。まあここは職人の街バイゼン。なんであれ専門の職人が大勢いるから、心配は要らんさ。植木関係の職人達は、皆大張り切りしておるようだな」
笑ったその言葉に納得する。
確かに、バイゼンといえばフュンフさん達のような武器や防具に精通した職人さんの街ってイメージだったけど、ここへ来てみてよく分かった。
ここは武器や防具、装飾品だけじゃあなくて、例えば貴族の別荘地の庭を管理する庭師や植木職人さん、建物を建てる大工さん、もちろん内装に関わる人達だって大勢いる。木工細工や陶器の食器や装飾品を作る人達だって大勢いる。そしてフクシアさんのようにジェムに関する装置を作る職人さんだっている。
文字通り、ここはありとあらゆる職人さん達の集まる街なんだよな。
「今度戻ってきた時に、どれくらい綺麗になっているのか楽しみにしていますね」
「そうだな。冬までには最低限の工事は終わらせたいと思っているから皆張り切っておるよ。ああ、こんなところで立ち話もなんだ。まあ入ってくれ。もちろん従魔も一緒にな」
大人しく良い子座りしてこっちを見ているマックスを振り返ってそう言ってくれたガンスさんにお礼を言い、俺はマックスの手綱を引いて冒険者ギルドの建物の中へ入って行った。
当然のように通されたのは、前回来た時と同じ広い部屋だ。そして当然のように俺達の背後には大小のトレーや木箱を持ったスタッフさん達がそれに続いている。
「で、何を出してくれるんだ?」
嬉しそうなガンスさんの言葉に頷いた俺は、まずは先に手持ちの恐竜のジェムを引き渡す事から始めた。
もちろん、これは買い取りしてもらう分だ。
「とは言え、ギルドの資金も無尽蔵って訳じゃあない。復興資金集めも大変なんだよ」
ジェムや素材の買い取りに関しては、全額口座への入金って形にしてあるから実際に現金が動くわけではない、いわば信用取引状態だ。山盛りのジェムを見て嬉しそうにしつつも、ため息を吐いたガンスさんがそう呟く。
「もしかして、現金って不足してます?」
次々にジェムをトレーに取り出しつつこっそりと尋ねると、苦笑いしたガンスさんは大きなため息を吐いて頷いた。
「まあ、東の街道が通行出来るようになれば、商人達が王都へ行って稼いで現金を持って帰って来てくれるんだけどなあ。それまで、もうしばらくの辛抱だよ。なんとかするさ」
無言で考えた俺は、シルヴァ達から以前授けてもらった家購入資金のことを思い出した。
ハンプールでもバイゼンでも、どちらの場合も結局は青銀貨での取引だったので、実際の現金は一切払っていないから手元に全部持ったままになっているんだよな。
「ええと、じゃあ俺がここで口座に入金して置いてくださいって言って現金を預ければ、それもお役に立てたりします?」
「ええ、お前さん。現金もそんなに持っておるのか?」
ジェムのチェックを始めていたガンスさんが、俺の言葉に驚いたようにそう言って振り返る。
「ありますよ。ちょっと待ってくださいね」
そう言った俺は、鞄からあの大量の金貨が入った袋を次々に取り出していく。
歓喜の叫びをあげるガンスさんとスタッフさん達を見て、もう笑うしかない俺だったよ。