鉱夫飯の解体と弁当作り
「よし、マックス! もう全力で走っても大丈夫だぞ〜〜!」
街での買い出しを終え、貴族の別荘地を抜けてアッカー城壁に到着したところで、俺は大声でそう言ってマックスの首元を叩いた。
それを合図に、マックスが一声吠えて弾かれたように一気に加速する。
「うひゃあ〜〜速いぞ〜〜!」
一瞬振り落とされそうになり、慌てて手綱にしがみついて前屈みになる。
「ううん、やっぱりマックスの脚は最高だな」
あっという間に近づくお城を見ながら、呆れたように呟いた俺だったよ。
「ただいま〜〜良い子にしてたか〜〜?」
無事にお城へ到着した俺とマックスは、スライム達に綺麗にしてもらってから自分の部屋に戻った。
「ああ、ごちゅじんのおかえり〜〜!」
「おかえりなちゃい!」
「おかえりなの〜〜」
ちょうどニニも一緒に産室から出てきて遊んでいたらしく、留守番組のウサギ達が全員巨大化していたよ。
「おお、元気だな。遊んでもらっていたのか。お前らも、元気すぎるこいつらの子守りをしてくれてありがとうな」
飛びついてくる大きな子猫達を捕まえて順番におにぎりにしてやりつつ、足元に集まってきた巨大化したウサギ達にもそう言ってやる。
おかげで俺の周りはちょっとしたもふもふの海になった。ああ、この柔らかな海にずっと沈んでいたい……。
「皆すっごく元気だから、楽しいよ」
「ね〜〜!」
俺がもふもふの海に浸っていると、笑ったラパンとコニーの声が揃い、他のウサギ達もご機嫌でその場で飛び跳ねて俺に優しく体当たりをしてきた。ああ、なにこの幸せなご褒美タイムは!
しかし、それを見た子猫達がまた張り切ってウサギ達に向かって飛びかかっていき、即座に一瞬で子猫達から飛んで逃げたウサギ達が、まるで煽るかのように数回跳ね飛んでから走り出した、当然それを嬉々として追いかけ始める子猫達。
そして、またしても子猫達とウサギ達による室内大運動会状態になるのだった。
「あまり無茶するなよ。頼むから、部屋の破壊は最低限で頼むよ」
俺には絶対に追いつけない速さで走り回る子猫達とウサギ達を見ながら割と本気でそう言い、ひとまず俺は休憩のためにソファーに座る。
「ああそうだ。今のうちにやってもらっておけばすぐに作業が出来るな。サクラ、買ってきた重箱を出して、念の為に全部綺麗にしておいてくれるか」
「はあい! じゃあ出しますね!」
俺の言葉に、床に好き勝手に散らばって転がっていたスライム達が、一斉に跳ね飛んで集まってくる。
サクラが順番に取り出していくさまざまな大きさの重箱を、スライム達が手分けして飲み込んで綺麗にしてくれる。
「じゃあ、キッチンへ行ってまた鉱夫飯の解体からだな。この辺りの三段の重箱は、弁当箱として使えるな。それより大きいのは、普段の食事用に使おう。見栄えが綺麗になるように、野菜やお惣菜なんかを追加して詰め直せばいいな。よし、じゃあ始めるぞ〜〜」
取り出した水筒の水を飲み干してそう言った俺の言葉に、スライム達がこれまた張り切ってキッチンへ転がっていった。
「じゃあ、俺はキッチンにいるから、子猫達と遊んでやってくれよな」
まだ走り回っているウサギ達に声をかけ、とにかくキッチンへ向かう。
そしてありったけのバットを取り出して並べ、種類ごとに鉱夫飯を解体して行ったよ。
今回の鉱夫飯は全部で三種類あり、俺も手伝ってとにかく弁当箱を開けていった。
全部解体し終えたら弁当箱を綺麗にしてもらってから収納しておき、まずは明日の弁当を用意する。
「せっかくだから、この綺麗な漆塗りっぽい重箱で用意してやろう。ちょっとお正月のお節料理みたいだな」
ちょっとどころか、俺の中ではこれは完全におせちの為の重箱だよ。
まあ、もしかしたら米文化のある地域ではおせち料理もあるのかもしれないけど、少なくとも俺の知る限り見た事は無い。
「ああ、あの豆腐懐石のお店なら、もしかしておせち料理もあったのかな?」
そんな事を呟きつつ、追加で出してもらったお惣菜や野菜を色々と出してもらう。
「メインの肉料理は、巨大ソーセージと巨大ベーコンに、巨大唐揚げ、それからこれはローストビーフかな。ううん、どれも大きさがおかしい」
ローストビーフって、普通は薄く切るもんじゃあないのか? 割と真顔でそう突っ込みたくなるくらいに、入っていた草履サイズのローストビーフは分厚い。
「いやあ、これ見ただけで、もうお腹いっぱいだよ。よし、これは食べやすいように切ってやろう」
ローストビーフは重箱に入るように5センチくらいの幅で切ってから、端から丸めて筒状にしてやる。こうすればぎっしり入れてあげられるからな。
巨大ウインナーと巨大ベーコンも、食べやすいように一口サイズに切ってから、彩りよく野菜やお惣菜と一緒に重箱に盛り付けていった。
ちょうど三段あったので、鉱夫飯と同じように一段目におにぎりをぎっしりと、二段目にはおかずをぎっしり、三段目にはデザートに追加して果物も、これまたぎっしりと入れてやった。
「おお、さっきより彩りも良くなったし栄養的にもバッチリだな。よし、じゃあこれで詰めていこう」
見本の重箱は重ねずにそのまま出しておき、スライム達にも手伝ってもらいつつ、せっせと三段の重箱に詰めていったのだった。