鉱夫飯の受け取りと午後からの予定
「よっしゃ〜〜! 先に戻れたぞ!」
お城の正面玄関前にすごい速さで到着したところでそう言って後ろを振り返ったが、当然マックスの全速力に荷馬車が追いつけるはずもなく、はるか後方に僅かに荷馬車らしき影が見えるだけだ。
「いやあ、マックスの脚、速すぎだって」
呆れたみたいにそう呟いて笑った俺は、とにかく玄関の扉を開けて鉱夫飯を搬入してもらう為の場所を確保して、大きい方の机を取り出しておいた。それから空いた床に一番大きな布を敷いておく。
実を言うと昨日、大量の鉱夫飯を引き取る際に、床に直接鉱夫飯を置くのをためらうスタッフさんを見たんだよな。
俺は気にしないけど、食べ物を床に置くのを嫌がる人もいたみたいなので一応対策しておく。
ちなみに昨日は三台、今日は荷馬車二台で来てくれたって事は、多分だけど今日の鉱夫飯は昨日よりは少ないのだろう。
「あれ? だけど今日の荷馬車は昨日のよりも大きかった気がするなあ?」
追い越した時にちらっと見ただけだから確信はないけど、昨日の荷馬車よりは大きかったような気がする。
準備が出来てからしばらくして、ガタガタと賑やかな音を立てて玄関前に荷馬車が到着した。
やっぱり俺の記憶は間違っていなかったよ。倍とまでは言わないが、昨日の荷馬車よりもかなり大きな荷馬車だし馬も大きい。積載量は昨日の倍くらいはありそうだ。
「お待たせしました。あの、昨日よりも数があるのですが……」
「もちろん、喜んで全部いただきますよ!」
笑顔の俺の言葉に安堵のため息を吐くスタッフさん達。いやマジで大歓迎だからね。
俺が用意した場所に、せっせと弁当箱を並べていくスタッフさん達。
到底乗り切らない量なのを見て、慌てて追加の布を敷いた俺だったよ。
伝票を見ると昨日の倍以上あって、全部で三百九十個あった。よし!
「ええ、俺は嬉しいですけど、こんなにもらって工事の人達のお弁当は大丈夫なんですか?」
割と本気で心配しながら聞いたんだけど、笑顔で大丈夫だと言われてしまった。
聞けば、街にある飲食店が急遽作った様々なお弁当を、各ギルドが優先的に買い上げているのだそうだ。
成る程。これも街の失業中の人達への仕事を増やす政策の一端な訳か。
一番人通りの多い王都から続く街道が閉鎖された事により、仕事や観光で街へ来る人達が激減しているどころか、皆無状態。当然、その人達を相手に仕事をしていた飲食店も売り上げ駄々減りなわけだ。
それを補う為の新たな仕事が、工事の人達への仕出し弁当作り。ギルドがそれを買い上げて、工事の人達の弁当にしているのか。
それなら、俺が鉱夫飯を思い切り大量購入しても迷惑にはなっていないんだな。
内心で密かに安堵しつつ、弁当箱の数をスタッフさん達と一緒に確認していく。
受け取りにサインをして、昨日渡した弁当箱の返金分を返してもらった。
「はい、確かに。それと、昨日の弁当箱も全部開けておきましたので、まとめてお返ししますね」
笑った俺の言葉に驚くスタッフさん達。
それで俺が鉱夫飯を一度全部バラして、アレンジして作り直しているんだって話をすると、どんな風にしているんだと興味津々で聞かれてしまい、いろんなアレンジ方法を詳しく説明する羽目になったのだった。
「ありがとうございました! ではまた明日!」
お返しした空の弁当箱を積み込んだ二台の荷馬車に別れて乗ったスタッフさん達は、満面の笑みでそう言って、手を振りながらまた賑やかな音を立てながら走り去って行った。
「はあ、無事に本日も受け取り完了だ。ううん、案外配達に来てくれる時間が早いんだよなあ。買い出しの時間を考えるべきかもな」
苦笑いしてそう呟き、置いてあった鉱夫飯を全部収納してくれたサクラを半ば無意識に捕まえておにぎりにしてやる。
「あ、しまった。街で弁当箱を探そうと思っていたのに、すっかり忘れて戻ってきちゃったよ。今日の鉱夫飯を入れる入れ物が無いぞ」
今日の鉱夫飯の中身を考えながら部屋に戻っていた俺は、不意にその事に気がついてちょっと慌てて立ち止まる。
「よし、昼飯を食ったらもう一回街へ行ってこよう。それで、あれば弁当箱、無ければ大きめのお皿を大量に買ってこよう」
すぐに解決策を思いつき、少し離れて良い子座りしているマックスを振り返る。
「悪いんだけど、食事が終わったら、もう一回街まで行ってもらえるか?」
すると、座ったままだけど尻尾が一気に扇風機状態になる。
「もちろんですよ! 何度でも行きますので、どうぞ!」
今すぐにでも駆け出しそうな勢いでそう言われてしまい、堪える間もなく吹き出した俺だったよ。
よし、じゃあさっさと飯食って出かけ直しと行きますか!