寄付の押しつけ(?)と新たに判明した衝撃の事実!
「ちょっ! ちょと待った! ちょっと待った〜〜〜〜!」
ギルドの建物を出てすぐの道路のところで急いでマックスに乗ろうとしたんだけど、収納袋を引っ掴んだままものすごい勢いで駆け出してきたガンスさんに、僅差で追いつかれてしまった。
「待ってくれ、待ってくれケンさん! いくらなんでも、いくらなんでもこれは駄目だ!」
焦ったように俺の腕を掴んで、ものすごい力でぐいぐいと引っ張るガンスさんを見て、まだ中にいた冒険者の人達が何事かと駆け出してくる。
「ああ、逃げ損なった。分かりましたよ。一旦戻りましょう」
苦笑いしてガンスさんの腕を叩いた俺は、無言の大注目の中をギルドの建物の中へ入りマックスの手綱を引いてガンスさんと一緒に先程の部屋へ戻っていった。
「寄付って事にして欲しいんですけどねえ」
部屋に入って扉が閉まったのを確認した俺は、誤魔化すようにそう言って肩をすくめた。
「いや……では聞くが、お前さんは誰かにこれをほいっと渡されて、はいそうですかと言って気軽に貰えると思うか?」
真顔のガンスさんのツッコミに、目を逸らす俺。
「ええと……」
しばし居心地の悪い沈黙が落ちる。
その時、不意に閃いた考えに思わず手を打った。
「あの、実を言うとこれの中身は全部貰い物なんですよ。ここに入っているのは、あの岩食いの戦いの時に使った分の残りと、ケンタウロスから追加で貰った分です。まあ、収納袋は俺の庭にある、あの地下洞窟で出たアイテムなんですけどね。だから、どれも俺自身の手柄で手に入れたものじゃあないので、全部まとめて寄付! なんです」
ここで出てきたまさかのケンタウロスの名前に、ガンスさんが目を見開いて俺を見上げ、それから改めて手にした収納袋を見た。
「ここは人の世界にとって重要な場所なんでしょう? だからまとめて俺に託してくれたんですよ。バイゼンの復興に使ってくれと」
嘘は言っていない。ベリーからもシャムエル様からもこのジェムに関しては俺の好きに使っていいと、つまりはバイゼンの復興に使っていいと言われている。
「しかし……」
もう一度手にしたままの収納袋を見て、それっきりまた絶句するガンスさん。
「だからあの岩食いとの戦いで使った分も正直に言うと、俺としては値段を付けられる方が困るんですよね。だって、それだと彼らの好意に俺がただ乗りする形になりますから」
マジで、その通りだよ。あの巨大なブラキオサウルスとかの戦いには俺は一切参加していないんだからさ。まあ、従魔達は戦っていたからその分は俺にも権利があるのかもしれないが、そこは謹んで遠慮させていただくよ。
ちなみに俺は、ハスフェルみたいにジェムコレクターって訳ではないが、結果として今はほぼその状態になっているとも言える。なので一応、あの巨大なジェムも折角だから記念に全種類一つずつは保存用として残してある。
「本当に、良いのか?」
しばしの沈黙の後、真顔のガンスさんにそう聞かれて苦笑いした俺は力一杯頷いたよ。
「どうぞ、遠慮なく貰ってください。お願いします!」
無言で俺を見上げたガンスさんは、大きなため息を一つ吐いてから笑顔で俺に右手を差し出した。
「ありがとうケンさん。心から感謝するよ。そして、ケンタウルスの皆様にも最大限の感謝を。本当に、よくこのバイゼンへ来てくれた。嬉しいよ」
俺も笑顔で差し出された手を握り返す。
「良い街ですよね。それに中々に住み心地の良いお城も買いましたからね。まあ、もうしばらくして街道に桜が咲く頃にはハンプールへ向けて出発しようと思っているんですけど、また冬にはここへ帰って来ますよ。雪祭り楽しかったですから、ぜひまた参加させてください」
「おお、それは楽しみだな。もちろん大歓迎だよ。そうか、三連勝がかかる春の早駆け祭りには是非とも参加しないとな。それなら、桜が咲くまでもうしばらくだな」
少し寂しそうにそう言って笑ったガンスさんは、何度も頷きながらガッツリと握っていた手を名残惜しげに離した。
ううん、俺も思いっきり握り返していたからちょっと指が痺れているよ。ガンスさんの握力も相当だねえ。
軽く指を動かして小さく笑った俺は、改めて笑顔で挨拶を交わしてから今度こそギルドを後にしたのだった。
「せっかくの貴重なジェムなのに、良かったの?」
不意に現れたシャムエル様が、ゆっくりと通りを歩くマックスの頭の上に座って俺を見上げる。
「もちろん、皆のおかげで俺の手持ちのジェムはまだまだとんでもない量があるからさ。使い道のなかった不動在庫のジェムが人様のお役に立てるなら俺も嬉しいよ」
「欲がないねえ。まあ、そんな君だから皆が夢中になって世話をしたがるんだろうけどさ」
笑ってせっせと尻尾のお手入れを始めたシャムエル様の言葉に、俺も笑ってギルドを振り返った。
「まあ、あれだけあれば、工事に使うジェムの道具を動かせるだろうから、復興も早いだろうさ」
「桜が咲いたら、次はハンプール?」
尻尾のお手入れを終えたシャムエル様に聞かれて少し考える。
「ええと、せっかくだから一応、南の街道沿いの街へは立ち寄ってみたいと思っているんだよな。まだ行った事のない場所だし。確か春の早駆け祭りまでってまだひと月以上あるだろう? だからそこまで慌てて行く必要もないだろうからさ」
「そうだね。知らない街をのんびりと旅するのも良いもんだよね」
うんうんと頷くシャムエル様の言葉に、俺も笑顔で頷く。
「そうだよな。今のところどこへ行っても何がしかの事件に巻き込まれたり酷い目にあったりしている気がするから、今年の旅はできるだけ平穏無事が良いなあと、割と心底願っているんだよ」
「ええ、そんな寂しい事言わないでよ。色々あったほうが面白いのに〜〜!」
まさかの創造神様の言葉に、俺はマックスの背の上で堪える間も無く吹き出したのだった。
そうか! 俺が各地で毎回と言っていいほどに色々と酷い目に遭ったり巻き込まれたりしているのは、もしかしてもしかしなくても、シャムエル様の大雑把設定のせいなのか!
脳内で思いっきり突っ込んだ俺は、悪くないよな?