夕食はガッツリだね
「いやあ、感謝するぞ。これは可愛い」
「全くだ。本当に感謝するぞ」
ハスフェルとギイは、それぞれテイムして引き渡したレッドクロージャガーを抱きしめてご満悦だ。
どちらも亜種で、今はもう猫より少し大きいくらいに収まっている。
ちなみにハスフェルに引き渡した子が雌でスピカ、ギイに渡した子は雄でベガと名付けられた。
一応、名前はそれぞれ本人の希望を聞いて俺が名付けました。
うん、星の名前シリーズも格好良いな。
気づけばもうかなりの時間がたっていて、あたりは薄暗くなってきている。
「じゃあ、まずは街へ戻ろう。あ、お前ら腹減ってるんじゃないか?」
撤収して、駆け足で薄暗くなった草原を走っていてふと思った。
昨日も狩りに行かせていないし、今日はこの重労働だ。明日まで空腹で過ごさせるのは可哀想だ。
「そうですね。じゃあ、交代で狩りに行かせてもらいます」
マックスの声に、一旦止まったニニのところからスライム達がポーンと飛び跳ねてこっちへ移って来た。背中に乗っていたギイが降りる。
「じゃあ先に行かせてもらうね」
タロンやセルパン、新しく仲間になったレッドグラスサーバルキャットのソレイユと、レッドクロージャガーのフォールもニニと一緒に行ったみたいだ。それから、ジャガー軍団のスピカとベガとシュタルク、クーヘンのテイムしたサーバルキャットのグランツも、それぞれ巨大化して後を追って走っていった。
おお、ネコ科のジェムモンスターがあれだけいると、ちょっと迫力満点だぞ。
これからは、肉食の従魔が増えたから忘れないように定期的に狩りに行かせてやらないとな。
上空のファルコは、このままいてくれるみたいだ。
「おう、いってらっしゃい! じゃあ、ニニ達が戻って来たら、俺達も夕食にしようか」
走り去るネコ科軍団を見送ってまた走り出し、横を向いて隣を走るハスフェルに声を掛ける。
「ああ、そうだな。それが良いんじゃないか?」
「そうだな、ちょっと腹が減って来たよ」
ギイの言葉に俺も思い切り同意するように頷いた。
ギイは今、ニニの背中から降りて、イグアノドンのチョコの背中にクーヘンと一緒に乗っている。
マックスやシリウスよりも、イグアノドンの方が持久力も体力もあるんだって。さすがは恐竜だな。
「イグアノドンも良いな。ラプトルとどっちにするべきかな」
ギイが物騒な事で悩んでいる。
「テイムするのはどっちでも構わないけど、ラプトルにするのなら、捕まえるのは自分でやってくれよな」
ラプトルって肉食恐竜だぞ。そんなの俺には絶対無理だって。
「ああ勿論。どっちにしても捕まえるのは自分でやるからご心配なく。だけど、最後のテイムだけは頼むよ」
「了解。そこは任せてくれて良いよ」
顔を見合わせて拳を握って互いに上げる。
「イグアノドンは可愛いですよ。私は今じゃあもうチョコが可愛くて仕方がないですね」
嬉しそうなクーヘンの言葉に、ギイも笑ってチョコの首を手を伸ばしてそっと叩いた。
「乗せてくれて有難うな」
「ブォーン!」
妙に低い声だが可愛く鳴いて、イグアノドンのチョコは一気に駆ける速さを上げた。
「イグアノドンだったら、手伝えるよ」
「イグアノドンだったら怖くないもんね!」
俺の言葉に、マックスの首輪のカゴに潜り込んだラパンとコニーが頭の角をちょっと振りかざしてこっちを見ている。
「手伝うよ!」
「手伝う手伝う!」
「今度は手伝うよ!」
モモンガのアヴィや。サクラやアクアまでもがやる気満々になってる。
ミニラプトルのプティラは、平然とマックスの首輪に掴まっている。
「ごめんな。草食チームは、今日は全然暴れる機会が無かったもんな」
苦笑いしながらフラストレーション溜まっていそうな子達を順番に撫でて宥めつつ、草原を抜けて雑木林の横を通り過ぎ、高低差のある岩のある草地を上手に駆け抜けていった。
「全員夜目が利くとこんな事も出来るんだな。普通だったら、陽が暮れた時点でビバーク決定だよな」
周りを見回しながらそう呟くと、クーヘンが慌てたように首を振っている。
「私は人間よりは見えますが、決して夜目が利いていると言う程ではありませんよ! 樹海出身の皆さんと一緒にしないでください!」
クーヘンの叫びに、皆苦笑いしていた。
一応、クーヘンには、ギイも樹海出身者だと言う設定で話している。
こう言っておけば、いろいろ不都合が出た時に誤魔化しやすくなるもんな。
まあ、今の所上手くいってると思う。つくづく思うが、クーヘンが詮索好きじゃなくて良かったよ。
俺もそろそろ腹が減って来て、今日の献立は何にしようか考えていると、ニニ達が戻って来た。
「おかえり、早かったんだな。大丈夫か?」
「うん、この辺りは生き物の気配に満ちているからね。楽に狩りが出来たわよ」
嬉しそうにニニがそう言い、スライム達がまたニニの背中にすっ飛んで行った。
「じゃあ、俺達もどこかこの辺りで夕食にしよう。腹が減ったよ」
いくら万能薬入りのお茶を飲んだとは言っても、疲労困憊している事を考えると今日はがっつり肉を食べたい。よし、今夜はステーキだ!
林の近くの平らな草地にマックスが止まってくれたので、背中から降りて、揃って狩りに行くマックスとシリウス、それからこちらも揃って飛び去るファルコとプティラ達を見送った。どうやら飛行チームも協力して狩りをしているみたいだ。
チョコは俺達から少し離れた場所で、のんびり草を食べている。ラパンとコニーもチョコと一緒に足元で草を食べている。どうやら美味しい草の生えている場所を見つけたらしく、何だか皆嬉しそうだ。
手早く大小の机を出して並べ、椅子も取り出して並べる。クーヘンは自分用の椅子をまた持って来てくれた。
アヴィとベリー達には少し離れた場所で大量の果物の入った箱を出しておいた。こうすればフランマも一緒に果物を食べられるからな。
タロンはニニと一緒に狩りに行ったから、今日は肉は出さなくて良いみたいだ。
少し離れた場所で、皆めいめいに転がって身繕いの真っ最中だ。
「さて、今日はよく働いたから、がっつり肉を焼くぞ」
そう宣言すると、三人が揃って嬉しそうに拍手してくれた。
サクラにいつもの調理道具を取り出してもらい、手早く準備していく。
机の上にはハスフェル達が手早く灯してくれたランタンが、煌々とした光を放っている。
ステーキ用の大きな肉を四枚取り出してまな板の上に並べて軽く叩いてからスパイスをしっかり目に振りかける。
ハスフェルの持っている火力の強いコンロも借りて、フライパン二枚に四枚の肉を並べて同時に焼いていく。
うん、料理するのもすっかり手慣れたもんだな。
肉を焼いている間に、大きな皿を四枚取り出して、野菜とフライドポテトをたっぷりと並べておく。
「あ、スープも温めておくか」
大鍋に入れたスープも四人分小鍋に取って、別のコンロで火にかける。
「さて、そろそろ良いかな?」
トングで掴んでひっくり返す。
「おお、良い感じの焼き目がついたぞ」
「早くしてくれ。匂いだけ嗅がせるなんて何の拷問だよ」
笑うハスフェルとギイは、いつの間にか赤ワインを取り出して飲み始めている。
「ああ、人が我慢して料理しているのに狡いぞ! 俺も飲みたい!」
俺の叫びに、笑ったクーヘンが俺の分のグラスを持って来てくれた。
「立ったまま、料理しながら飲むってのも良いもんだな」
グイッと飲んで、満足げにそう言ったら、何故かハスフェルに謝られた。
「はい、お待たせっと」
綺麗に焼けたステーキを、それぞれの皿に乗せてやり、赤ワインを貰って即席ステーキソースを作る。
それから、木の器を取り出して温めた野菜スープも取り分けて配った。
ハスフェルが新しい赤ワインを出してくれたので、席について改めて乾杯した。
「無事にテイム出来た勇者達に乾杯だ!」
「かんぱーい!」
既に赤くなっているのは俺だけで、クーヘンも含めて三人とも底なしらしい。
うう、頑張れ、俺の肝臓。
「うん、これは美味い。焼き加減も完璧だよ」
「焼いただけなのに、何でこんなに美味いんだ?」
ハスフェルが満足そうに大きく切った肉を口に入れる。ギイは一口食べて首を傾げている。聞くと、彼が焼くとどうしても肉が硬くなってしまうらしい。
「多分、塩をしてから時間が経ち過ぎてるか、焼き過ぎのどちらかなんだと思うぞ。ステーキは、強火で表面を焼いて、余熱で中に火を通す位でちょうど良いんだって。もっと生が好みな奴もいるけど、俺は割としっかり焼く派だな」
「いや、これくらいがちょうど良いと思うぞ」
ハスフェルの言葉に、ギイも頷いてくれた。よかった、もっとレアが好きだったら申し訳なかったもんな。
それで、彼らから色々と話を聞いていて分かった。どうやらこの世界では、肉は割としっかり焼くみたいだ。
そこから、この世界の料理の話になり大いに盛り上がった。
そしてここで耳寄りな情報を聞いた。
どうやら味噌や醤油っぽい物が、これから行く予定のハンプール辺りにあるみたいだ。それどころか、西アポンでもハンプール産の調味料として売っていると言われて、俺はちょっとテンションが上がったよ。
うん、街へ帰ったら早速探そう。
これで、味噌と醤油があれば、調理の幅がまた広がりそうだ。醤油味の唐揚げ、食べたい! それから、 照り焼きソースとかさ!