ご馳走様とお酒の時間
「はあ、お料理もクロカンブッシュもすっごく美味しかった。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。本当にどれも美味しかったわね。それに、気がすむまで甘いお菓子を食べさせてもらったわ」
その細い体のどこにあんなに入ったんだと、真顔で問い詰めたくなるくらいにガッツリ食べたシルヴァとグレイが、そう言って満足そうに笑っている。
「確かに美味かったよ」
「いやあ、本当に美味しかった。なんて言うか……ケンの作ってくれる料理は愛情たっぷりの豪華な家庭料理って感じだけど、これはプロのお仕事って感じだね」
レオとエリゴールも、二人に負けず劣らず食っていた気がするんだけど、こちらも全然平気そうで笑顔でそう言って頷き合っている。
「ケンが作ってくれる料理は確かにその通りだな。愛情たっぷりだよ。そしてこのクロカンブッシュは誰でも作れる菓子ではない。これは菓子職人の素晴らしき仕事だな。いやあ良きものをいただいたよ」
実は甘い物も案外いけるオンハルトの爺さんもかなりガッツリ食べていたもんな。にっこり笑ってそう言い、空になったお皿とフォークを置いた。
同じくガッツリ食っていたリナさん達やランドルさん、それからハスフェルとギイもどうやらもう大満足みたいで、彼らの会話に首がもげそうな勢いで頷いている。
ええ、お前ら俺の料理をそんなふうに思っていてくれたんだ。頑張って作っている俺としては、ちょっとどころかかなり嬉しいぞ。
「はい、お粗末様。いやあ、それにしても食いも食ったりって感じだなあ」
笑った俺の呟きに、また全員揃って大笑いになったよ。
その後は、ハスフェル達が出してくれたお酒を飲みながらのんびりと過ごした。俺は美味しいんだけどめっちゃ酒精のキツイ吟醸酒を、自分で作った透明な氷を入れてオンザロックにしてちびりちびりといただいている。
だけど飲みながらの話題は、どうしてもさっきの話に戻る。つまり、リナさん一家とランドルさんが王都へ向かうって話。
「妹さん達って王都にいるんだな。冒険者じゃあないなら、何をしているんだ?」
「どちらも結婚していて子供がいますよ。住んでいる家は別ですが、二組の夫婦共同で大きな雑貨屋を経営しています。ちなみに上の姉のミアは、俺達みたいに里から出てきた草原エルフと外の街で出会って結婚したんですけど、もう一人の下の姉のカルラは、なんと人間とくっついちゃったんですよね。だから、カルラはもう里には絶対に帰れないですね。まあ、帰る気なんて最初っからありませんけど」
透明な氷の入ったロックグラスを傾けながら苦笑いしたアーケル君が、またしても驚きの事実を教えてくれる。
「へえ、人間と結婚したら……里へは帰れないって、もしかしてまたあれ?」
「そうです、あれのせいです」
肩をすくめるアーケル君の言葉に、この前創造神様のお告げを報告しにランドルさんと一緒にリナさん一家が里帰りした時の、とにかく閉鎖的で酷かった草原エルフの里の人達の話を思い出して、ちょっと遠い目になったよ。
「もう、あの時はひどい目に遭ったんですからね! 俺だってもう絶対に、頼まれても二度と行きませんって!」
俺達の会話が聞こえていたんだろうハスフェル達と一緒に、ランドルさんまでが大きな声でそう言って遠慮なく大笑いしている。あの夜の一件は、彼の中ではもう笑い話になっているみたいだ。お疲れさん!
「まあ、王都に定住するまでは姉達も色々あったみたいですけど、店は繁盛しているみたいですよ。草原エルフが暮らすなら、案外偏見の多い辺境の街や村よりも、王都みたいに人の出入りが激しい大きな街の方がいいみたいですね」
「ああ、それは分かる気がするなあ。田舎の方が人付き合いが濃厚になる分、余所者の入る余地がない。仮に住んでもいつまでも余所者扱いされて仲間に入れてもらえない、なんて話はよく聞くからな」
「特に、流れ者の冒険者が定住するのって、それなりに大きな街がほとんどだからな」
揃って頷くハスフェルとギイの言葉に、なんとなく納得する。
「まあ、確かに俺も家を買ったのは、ハンプールとバイゼンだもんな。言われてみればどちらもめっちゃ大きな街だよ」
ちょっと氷の溶けた吟醸酒を軽く回しながらそう呟いて笑う。
「誰かさんが買ったのは、家っていうレベルじゃあないけどな」
「確かにそうよね。ここは間違いなくお城だわ!」
大人しくしていたシルヴァの大声に、不意を突かれて全員揃って吹き出す。
「まあ、確かにそうだよな。俺もここの事はお城って呼んでる」
うんうんとそう言って頷くと、なぜか全員揃って大爆笑になり、ちょっと酔いが回ってきた俺も一緒になって大笑いしていたのだった。
大所帯がすっかり日常になっちゃったから、皆と別れたらきっとすごく寂しいと思うぞ。
それにもしかして、リナさんやランドルさんと別れる時には、もう乳離もしているんだから子猫達を引き渡さなきゃいけない?
うわあ、それはマジで泣くかも。
不意に気が付いた衝撃の事実に、割と本気で目が潤んできてこっそり涙を飲み込んだ俺だったよ。