豪華デザートの登場〜〜!
「そっか、確かにそうだな。別に一生会えなくなるわけでなし……うん、次に会うのはハンプールだな!」
ちょっと目の前がウルっときたので、誤魔化すように笑って白ビールをグイッと飲み干す。
「ケンタウロス達も、調査の為の何人かを残してそろそろ郷へ帰る予定だって言っていましたしね」
ランドルさんの言葉に、おかわりの白ビールの栓を開けていた俺の手が止まる。
「そっか、ケンタウロス達も帰っちゃうのか。寂しくなるなあ」
すっかり大所帯がデフォになっていたので、急に人数が減ると言われて不意に寂しくなる。
「俺達は、まだまだご一緒させてもらうぞ」
「そうだよ。こんな面白いパーティー、早々抜けてたまるかってな」
笑ったハスフェルとギイの言葉に、白ビールを注いだグラスを俺は笑顔で掲げた。
「ありがとうな。これからもよろしく! 愉快な仲間達のこれからに、乾杯!」
「乾杯!」
全員が、一斉にそう言って笑顔でそれぞれのグラスを掲げてくれた。
ちょっと鼻がツーンってなって、目の前が潤んだのはきっとお酒のせいだって。
「まあ、もちろんそうは言っても、別に明日旅立つって訳じゃあありませんよ。もうしばらくお世話になります!」
「って事で、明日もお弁当、よろしくお願いしま〜す!」
声を揃えてそう言われてしまい、思い切り吹き出した俺だったよ。
「そうだな。じゃあ、一緒にいる間は思いっきりご馳走食わせてやるとするか」
ニンマリと笑った俺の言葉に、その場は拍手喝采になったのだった。
「はあ、ごちそうさま。もうお腹いっぱいだよ」
一番少食な俺は、そう言って背もたれにもたれかかった。
追加で出した分も含めてほぼ駆逐されたジビエハンバーグのお皿を、スライム達がせっせと綺麗にしてくれているのを、のんびりと眺めていた。
「ねえケン。それで豪華デザートって、何を出してくれるのかなあ?」
両手を胸元に握ったお願いポーズのシルヴァとグレイにそう聞かれて、マイグラスを収納した俺の手が止まる。
うん、確かに言ったな。もう俺は食えそうにないけど……。
「あはは、そうだったな。ちょっと待ってくれよな」
一瞬で鞄に飛び込んでくれたサクラを見ながら考える。
「さて、勢いでそうは言ったが、何を出してやるかねえ」
デザートは自分がほとんど食べないので、食材と違ってあまり詳しく在庫を把握していないんだよな。
「ご主人、それならこれが良いんじゃあない? これはとっても豪華だし、きっと皆喜ぶと思うよ」
小さな声でサクラがそう言い、取り出してくれたのは見上げんばかりに巨大な木箱だ。
「何だこれ? ああ、あれか! 冬のお祭り期間限定で、お菓子通りで販売されていたシュークリームの山みたいなアレ。ええと、名前はなんて言ったっけ? 確か、クロ……何とか……?」
手を打ったものの、咄嗟に名前が出てこなくてそう呟いて首を傾げる。
「ああ、その箱はクロカンブッシュですね。確かにこの人数なら最高のデザートですね!」
アーケル君が目を輝かせて教えてくれたよ。そうそう、クロカンブッシュだ。
「きゃあ〜〜〜! 何それ! 大きい!」
目を輝かせたシルヴァとグレイの叫びが重なる。
うん、そうだな。お前らなら一人一個でも食えそうだよな。
「確かこれはいろんな店で買ったよなあ。これとか、これとか」
次々にサクラが取り出してくれる縦長の木箱を見上げて、だんだんと乾いた笑いが出てきた。
あれだけガッツリとジビエハンバーグを食って、更にこれ? 皆、どんな胃袋してるんだよ?
うん、俺には無理だから、そもそも参加するのを放棄するよ。
脳内で思いっきりバツマークを作ってそう叫んだ俺は、取り出した全部で十個のクロカンブッシュの箱を見て大きなため息を吐いた。
「ええと、これはどうやって取り出すんだ? 箱から出すだけでも大仕事だぞ?」
軽く木箱を叩いた俺の言葉に、草原エルフ三兄弟が揃って吹き出す。
「じゃあ、当主に代わって俺達が代理で開けさせていただきます!」
「おう、じゃあよろしくお願いするよ!」
笑ってそう言い、ここは開け方を知っているであろう人に素直にお任せする。
笑って進み出たアーケル君達が手にしているのは、やや小ぶりの十德ナイフみたいだ。そこから釘抜き部分を取り出して、次々に手慣れた様子で木箱の釘を抜いていった。
まあ釘といってもごく短いのだったから、すぐに抜けたんだけどね。
「では、僭越ながら私が開けさせていただきます!」
笑顔のアーケル君がそう言って、椅子に乗って木箱上部の蓋をまずは開ける。すると、蓋部分が留めになっていたらしく縦の板が四つに分かれてそのまま外れたのだ。側面部分を支えていてくれたオリゴー君とカルン君が手早く板を外す。
成る程。上手く出来ているね。これで、中のケーキは動かさずに箱から取り出せたわけだ。
感心して見ていると、箱の中から見上げんばかりに巨大な円錐形のクロカンブッシュが出てきた。
それを見て、拍手大喝采になる一同。
ニンマリと笑ったアーケル君達は、若干大きさの違う並んだ箱を次々に開けていった。
そして、巨大なクロカンブッシュが出てくるたびに沸き起こる拍手。
うん、存在をすっかり忘れていたケーキだったけど、シルヴァ達が揃ってあんなに喜んでくれているのを見て、ちょっと嬉しくなった俺だったよ。
「で、これはどうやって食べるんだ?」
机の上にあると俺でも見上げないと駄目なレベルの巨大なそれは、どれも綺麗な円錐形になっていて、その全面がいくつものシュークリームで埋め尽くされている。
「そりゃあシューを取って崩すんですよ。これもまた楽しいんですよね。さて、それじゃあやっぱり最初は一番大きいやつですよね」
笑ったアーケル君が指差しているのは、一番最初に出した、今出ている中では一番背の高い巨大なクロカンブッシュだ。
取り出したお皿を満面の笑みで渡されて戸惑う。
「ええと……?」
「御当主が一番最初のシューを取っていただかないとね」
にっこり笑ってそう言われてしまい、俺は少し考えて上側の辺りにあるシューをそっとフォークですくうようにして取ってみた。
ポロって感じに剥がれたそれは、シュー自体は小さいが、中にたっぷりのクリームが詰まっていて案外重い。
すごい勢いでステップを踏み始めたシャムエル様を横目に、もう良いと言われるまでせっせとシューを剥がしていった。
全部で十個剥がしたところで一旦下がる。といってもごく一部を剥がしただけでまだまだあるよ。
「お先でした。どうぞ」
どう言ったらいいのか分からず、苦笑いしながら一礼してそう言って椅子に座った。
「では、俺達も!」
アーケル君の宣言に、ほぼ全員がそれぞれ好きなクロカンブッシュに突撃していったのだった。
俺は一個だけもらって、残りはそのまま全部シャムエル様に進呈したよ。
みるみるうちに解体されていくクロカンブッシュを眺めながら、もう笑うしかない俺だったよ。
いやあ、皆本当によく食うねえ。