賑やかな夕食と今後の相談
「きゃあ〜〜！ なにこれめっちゃ美味しい！」
「本当だわ。以前食べたのも美味しかったけど、これは全然違う！」
ジビエハンバーグを一口食べるなりそう叫んだシルヴァとグレイの歓声に、あちこちから同意の声が上がる。
どうやらジビエハンバーグは大成功だったみたいだ。
「あ、じ、み！ あ、じ、み！ あ〜〜〜〜〜〜〜っじみ！ ジャカジャカジャン！」
両足を空中で交差させながら、両手にお皿を持って大興奮で味見ダンスを踊り始めたシャムエル様。
そして、それを見るなり当然のように隣へすっ飛んできて完コピダンスを始めるカリディア。こちらも相変わらず見事なもんだよ。
「お見事〜〜じゃあ、ちょっと待ってくれよな」
お皿には、大根おろしハンバーグを半分に切って乗せてやり、同じく目玉焼きも半分に切り分ける。付け合わせは適当に盛り付けてやる。
「コーンスープはここで、煮込みハンバーグは大きいのをこっちにください！ それから、白ビールはこっちね。あ、ご飯はハンバーグの横にお願いします！」
いつも使っているお椀やミニグラスが次々に取り出されるのを見て、笑いながらそれを受け取って順番に入れてやる。
大きめカットがご希望だった煮込みハンバーグは、言われた通りに大きく切ったら、俺の分がほんの一口くらいしか残らなかったよ。さすがにこれはちょっと悲しいので食べる前にもう一つ取ってこよう。
「はいどうぞ。煮込みハンバーグは熱いから火傷しないようにな」
ご機嫌でまだステップを踏んでいるシャムエル様の前に順番に並べてやり、カリディアには温野菜のブロッコリーの大きめのを丸ごと一つ渡してやる。
「わあい美味しそう。では、いっただっきま〜〜〜す！ うひゃあ！ 熱い！」
嬉しそうにそう叫んで、熱々の煮込みハンバーグに頭から突っ込んでいくシャムエル様。
「相変わらず豪快だねえ。ほら見ろ、熱いって言ったのに」
しかしさすがにちょっと熱かったらしく、シャムエル様はそう叫んで顔を上げると慌てたように両手で顔を撫でた。
一瞬で顔面にべったり張り付いていたドミグラスソースが消えるのを見て、吹き出した俺は立ち上がって自分の分の煮込みハンバーグを取りに行ったよ。
「はあ、確かにこれは美味しい。よし、もっとたくさん作っておこう。これはパンに挟んでも絶対美味しいやつだ」
一口食べるなり、予想以上に濃厚なジビエの肉汁が口いっぱいにあふれる。
「こんなに美味しいのに、肉は実質解体費用しか俺は払っていないんだからなあ。従魔達様々だよ」
満足そうにそう呟くと、聞こえたんだろうマックスやニニ達が揃ってドヤ顔になる。
「いつもありがとうな。感謝してるよ」
笑ってそう言うと、もっとドヤ顔になった。
「それなら、春になったらまた別の美味しい獲物があるからね」
「そうそう、楽しみだよね」
ヤミーの声にセーブルがうんうんと頷いている。
「ええ、次は何があるんだ？」
食べていた手を止めて、部屋の隅っこで巨大猫団子になって寛いでいた従魔達を見る。
「内緒〜〜」
「だけどすっごく美味しいからご主人は絶対喜ぶと思うわ」
「いる場所はちょっと此処からは離れているから、実際に狩りが出来るのは出発してからだね」
ヤミーの言葉に、ティグも嬉しそうにしている。
「へえ、そうなんだ。じゃあ楽しみにしているからよろしくな。ああ、だけど無理はしなくていいぞ」
慌てたようにそう言い添えると、目を細めたヤミーやティグは嬉しそうに喉を鳴らしながら目を細めた。セーブルまで一緒になってグルグル言っているから、どうやら狩りをするのも楽しいみたいだ。
「何ですか？ 何が楽しみなんです？」
俺の従魔達の声は聞こえないランドルさんが、突然従魔達と話を始めた俺を見て不思議そうにしている。
「ああ、ジビエの肉が美味しいんで従魔達にお礼を言ったら、また春になったら新しい獲物を取ってきてくれるって。そんな嬉しい事を言ってくれるもんだから、何なのかなって聞いたんですけど、内緒だって言って教えてくれなかったんですよね。だからそれは旅に出てからのお楽しみらしいです」
煮込みハンバーグを食べながらそう言うと、納得したように笑いながら従魔達を見た。
「ああ、そういう事でしたか。ケンさんの従魔達なら、何でも取ってきてくれるでしょうね。本当に、俺まで思わぬ贅沢をさせてもらって、何だか申し訳ないですよ」
「本当にそうですよね。俺達もこの先別れた時の事を考えると、主に食生活が辛いっす」
アーケル君がそう言って泣く真似をすると、全員揃ってものすごい勢いで頷かれた。
まあ、そんなつもりはなかったんだけど、神様達は揃って思いっきり餌付けしちゃったもんなあ……。
そこまで考えて、ふと我に返る。
「あれ、今、別れた時って……」
そりゃあ、いつかは別れるだろうとは思っていたけど、今のだと、もうその時が決まっているみたいな
口振りだった。
俺の視線に気付いたのか、リナさん一家が居住まいを正す。
「ああ、改めてお話しさせていただくつもりだったんですが、いい機会なので報告させていただきますね」
リナさんの言葉に、アルデアさんやアーケル君達、それから何故かランドルさんまでが一緒になって俺を見ている。
「ご好意に甘えて、冬中すっかり居候になっちゃっていましたけど、そろそろ雪も溶けてきたし、俺達は久し振りだし王都の姉達の顔を見に行こうって話していたんですよ。母さんが魔獣使いとして復活した事や、俺が新たに魔獣使いになった事も報告したいですからね」
「それで、実を言うと俺も王都に元冒険者の友人がいて、久し振りに魔獣使いになった事の報告も含めて顔を見に行こうかと思っているんですよ。なので、相談して、彼らとは王都までご一緒させていただく事にしました」
「まあ、とは言っても春のハンプールの早駆け祭りには絶対参加したいですから、その時期にはハンプールへ行くのでまた会えるでしょうけれどね」
慌ててオンハルトの爺さんを振り返ると、笑顔で頷かれた。
どうやら、オンハルトの爺さんはランドルさんから相談されて別行動になるのは知っていたみたいだ。
だけど、今の話だとチーム脚線美は今後も継続するみたいだ。
「そっか、俺達はもう少ししたら南側の街道を南下してハンプールへ向かうつもりだったんだよな」
「ああ、あの街道の桜の花はそれは見事ですからね。東へ伸びる街道にも桜はありますが、そもそもの数も木の大きさも違います。あの桜街道は一見の価値ありですよ」
うんうんと頷くランドルさんの言葉に、リナさんとアーケル君たちの目が輝く。
「それで相談したんですけど、俺達もせっかくだから早駆け祭りに参加したいなあって」
「だから、次に再会する時にはライバル同士ですよ！」
ドヤ顔のアーケル君の言葉に、呆気に取られて聞いていた俺達は、揃って吹き出し大爆笑になったのだった。
いいねえ、魔獣使い同士のガチンコ勝負！ もしかしたら他にも魔獣使いやテイマー達が参加してくれるかもしれないもんな。
いやあ楽しみだ……って、ちょっと待て！
俺の三連勝のハードル、爆上げされてる気がするんだけど……気のせいじゃないよな？
「もふもふとむくむくと異世界漂流生活〜おいしいごはん、かみさま、かぞく付き〜」
コミックアース・スター様にてコミックス第一巻が、八月十日に発売となります。
作画の担当は、エイタツ様。
生き生きと動くマックスやニニ。そしてシャムエル様が、画面いっぱいに所狭しと走り回っています。
最高に可愛くて美味しそうな、もふむくコミカライズ第一巻をどうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
