うたた寝と夕食!
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……起きる……」
柔らかなマニの胸元に顔を埋めながらいつものモーニングコールに起こされた俺は、ほぼ無意識でそう返事をした。
そのまま気持ちよく二度寝の海へ落っこちかけてふと我に返る。
あれ? 今って……朝か?
「おおい、起きてくれ〜〜〜!」
「腹ペコで死にそうだよ〜〜!」
「ねえ、お願いだから起きてくださ〜〜い!」
「自分だけそんな幸せなところで寝るなんてずるい〜〜!」
最後の個人的欲望がダダ漏れなのはシルヴァの声だ。
「ねえ起きてってば〜〜!」
シルヴァの声とともに、背中に手をやってゆさゆさと揺り起こされてようやく目が覚めた。
「あはは、ごめんごめん。もふもふの海の誘惑に抗えなかったよ」
笑いながらそう言い、名残惜しいが手をついてもふもふの間から顔を出して起き上がった。
「もう、チャイムを鳴らしても全然反応が無いから、何かあったのかと思って心配したのに〜〜!」
笑ったシルヴァが、腕を伸ばして俺の頬を掴んで引っ張る。
「ぶふう〜〜ごめんにゃはい」
頬をムニムニと引っ張られつつ、笑って謝る。
「じゃあ、ケンも起きてくれた事だしリビングへ行きましょう!」
頬から手を離して立ち上がったシルヴァが、さりげなく子猫達を撫でながらそう言って扉を指差す。
「はいはい、お待たせしてごめんよ。お詫びに食後には豪華デザートも付けよう」
「大好きケン〜〜〜!」
デザートと聞いて一瞬でご機嫌を直したシルヴァとグレイが、左右両方から俺に飛びついてきて抱きしめられた。
というか、二人がかりだと、完全に俺が間で締められている図。
「ギブギブ! ギブ〜〜〜! 苦しいです〜〜〜〜!」
逃げようと体をひねったところでグレイのふくよかな胸元にぐいぐいと顔を押し付けられ、なんとかそう言って海老反りになるも、またしても引き戻される。息が出来ないって〜〜!
「何を遊んでいるんだよ。ほら、行くぞ」
笑ったハスフェルに襟元を引っ掴まれて、後ろからグイッと引っ張られた。
「ぐえ〜〜!」
喉が締まって慌てて襟元を掴む。違う意味でまたしても窒息の危機だ。
すぐに解放されたので、俺は大きなため息を一つ吐いて立ち上がり、甘えてくる従魔達を撫でてやりつつ皆と一緒にリビングへ向かった。
いやあ、ウサギ軍団と子猫達のもふもふコラボも危険だって事が分かったよ。捕まったら最後、あっという間に眠りに落ちます! ってな。
「お待たせ。それじゃあ出すから、好きに取ってくれよな」
リビングにはリナさん達とランドルさんが待っていて、神様軍団と一緒にリビングへ到着した俺は、大急ぎであのジビエハンバーグの並んだ大皿を取り出した。
「ああ、ハンバーグね!」
お子様メニューが好きなシルヴァとグレイが、目を輝かせる。
「ふ、ふ、ふ。これはただのハンバーグじゃあないぞ。これは岩豚のミンチとグラスランドブラウンブルのミンチで作ったジビエハンバーグだよ。こっちは定番のケチャップ味で、こっちがおろし大根、それからこっちがチーズインハンバーグ。即席ドミグラスソースで煮込んだ、煮込みハンバーグもあるぞ。サイドメニューはこの辺りかな。あとは味噌汁とコーンスープもどうぞ。ご飯がいい人はこっち。パンがいい人はこれをどうぞ。はい以上! あとは好きに食え!」
いつもの俺が楽する好きに取ってもらう夕食だ。
歓声と拍手が起こり、全員が嬉々としてお皿を手にジビエハンバーグに集まる。そしてジビエハンバーグがマジで瞬殺されていった。
「たっぷり作ってあるから心配いらないよ。はい、追加をどうぞ」
神様軍団の襲撃により、一瞬で駆逐されたチーズインハンバーグの空のお皿の前で出遅れたランドルさんがしょんぼりしていたので、そのあまりの悲しそうな様子に笑いそうになった俺は、必死で我慢しつつ追加の大皿を取り出してやったよ。嬉しそうにお礼を言ってチーズインハンバーグを取るその姿に、もう笑いの止まらない俺だったよ。
「これは見かけだけなら、まんま和風ファミレスのハンバーグ定食大盛りバージョンだな」
目の前に並んだ自分の分の料理を見て、思わずそんな事を呟く。
だって、俺の前に並んでいるお皿には大根おろしソースのジビエハンバーグとフライドポテトが少々、多めの温野菜の横にはあの鉱夫飯に入っていた二個合体の大きな目玉焼きが、そして別のやや深めの皿には即席ドミグラスソースで煮込んだ煮込みハンバーグが並んでいる。
付け合わせの小鉢にあるのは生野菜のサラダとカットトマトとついでの鶏ハム少々、そしてコーンスープに白ごはん。ついでに香の物もあるよ。
どこから見ても、和風ファミレス人気メニューだ。
「いいねえ。そして忘れちゃいけないのが、これだよな」
にんまりと笑った俺が取り出したのは、自分で収納している冷えた白ビールだ。
「では、本日の狩りの成功を祝ってかんぱ〜〜い!」
いつものビール用のグラスに注いだ俺は、グラスを掲げてそう大声で言った。
当然のように赤ワインを用意していた皆も、笑顔でそれに倣う。
「美味しい料理を作ってくれるケンさんと、素晴らしい地下洞窟、それから愉快な仲間達にかんぱ〜〜い!」
リナさんの大声にどっと皆が笑い、次々に乾杯の声が続く。
俺も笑ってもう一回乾杯してから、冷えたビールをグイッと飲み干したのだった。