遅い昼食と午後からの予定
「ただいま〜〜〜いい子にしていたか〜〜?」
部屋に駆け込んだ俺は、当然のごとくまずは子猫達に挨拶だ。
「ごちゅじん、おかえりにゃさ〜〜い!」
「ごちゅじんのおかえりにゃ〜〜〜!」
「おかえりなちゃい!」
カッツェと一緒に丸くなってお昼寝中だったらしい子猫達は、俺の声に起きて産室から駆け出してきた。
「今日は俺一人だから、安心していいぞ」
昨日の事を思い出して笑いながらそう言ってやると、三匹も揃って笑いながら俺に飛び掛かってきた。
「うわあ、やられた〜〜〜!」
一番大きなミニヨンの飛びつきに堪えきれず、笑いながら棒読みでそう叫んで仰向けに倒れる。
即座にカバンから飛び出してきてくれたスライム達が、一瞬で広がって倒れる俺を受け止めてくれたよ。
「あはは、ありがとうな。こら、お前らの体の大きさを考えろって」
転がったまま、胸の上にのしかかっているミニヨンの顔を両手で揉みくちゃにしてやり、カリーノとマニも順番に揉みくちゃにしてからなんとか起き上がる。
そこで待ち構えていた留守番チームが一斉に飛び掛かってきてしまい、結局全員を順番に撫でたり揉んだりおにぎりにしたり全部終わるまで解放してもらえなかったのだった。
「はあ、やっと飯が食える。さて、何を食べようかな」
いつもの時間からかなり過ぎてしまったので、正直言ってお腹ぺこぺこだ。
「よし、たくさんあるんだから、今日は俺も鉱夫飯にしよう」
一つでも空にして弁当箱を空けるべきだよな。って事で、今日持ってきてもらったばかりの鉱夫飯を一つ取り出す。と言っても俺だと二日分は余裕だから、大きなお皿を使ってまずは弁当を分ける事にした。
どうせ残りも自分で食べるんだけど、なんとなく食べ残しのままにするよりも先に綺麗に分けておくべきだと思ったんだよな。
何故か弁当を出しても姿を現さないシャムエル様も食べるだろうと予想して、今から俺が食べる用のお皿と明日用のお皿、それからシャムエル様用に二枚の合計四枚のお皿を出してもらう。お菓子はあとでまた別に仕分けるよ。
まず蓋を開けてみたところ、いつものごとく一段目はぎっしりと巨大なおにぎりが詰まっていた。今回は刻んだ青菜が入った混ぜご飯タイプが半分で、残りはシンプル塩むすびみたいだ。
「相変わらずだけど、このおにぎりだけでも五人前くらいはありそうだ」
苦笑いしながらそう呟き、まずは一個ずつ自分のお皿に取り、シャムエル様のお皿にも少し考えてそれぞれ一個ずつ並べる。
「まだ半分以上あるなあ。おにぎりは別で置いておくか」
呆れたようにそう呟き、別のお皿におにぎりを全部取り出しておく。
二段目のおかずは、青鶏の巨大な胸肉丸ごと一枚の照り焼きが入っていて、片手では掴めないくらいに太くて大きなウインナーが丸ごと二本。もうこれ一本だけでも俺なら余裕で一回分のおかずになるレベル。
苦笑いしてナイフを取り出し、巨大胸肉の照り焼きは一口サイズに切り分けて適当にお皿に分けていき、少し考えてウインナーを一つは半分に切って自分とシャムエル様のお皿に並べた。
残り一本はそのまま明日のお皿に並べておく。
そして、これもいつものごとくついで感満載のブロッコリーが隙間に収まっていたので、これは俺のお皿に貰ったよ。
「相変わらず、清々しいくらいに肉オンリーの弁当だよなあ。サクラ、サラダとかサイドメニューになりそうなおかずを適当に出してくれるか」
小さくため息を吐いた俺の言葉に、机の上にいたサクラが色々取り出してくれた。
生野菜のサラダと、ごぼうサラダ、それからわかめときゅうりの酢の物と梅干しをもらったところで、改めていただきますだ。
「あ、一応全部まとめてお供えしておくか」
食べようとしたところで、気が付いて慌てて敷布を用意する。
いつもの小さい方のテーブルに敷布を敷いて、さっきの残りのおにぎりも含めて全部並べる。
「昼だし、麦茶でいいな」
マイカップに麦茶を注いでから手を合わせる。
「今日は、鉱夫飯です。たくさんありますのでどうぞ」
地下へ行っているシルヴァ達は、もう昼食は食べただろう。そこまで考えてふと気が付いた。
「あれ? 水中では弁当食ってる暇なんて無いよな? どうしているんだろう?」
手を合わせたまま小さく呟いて考えていると、収めの手が俺の頭を撫でた後、お皿を順番に撫でては持ち上げる振りをしていく。そしてそれが全部終わった後に、何故かもう一回こっちへ来た。
そして俺の目の前で、唐突に何かの仕草をし始めた。
「ん? ゼスチャーゲームか? 何だ?」
しばらくその様子を見ながら考えていたが、ようやく分かって思わず手を打った。
「あ、分かった! ってかあいつら、戦いながら飯も食っているのかよ!」
だって、どう見ても剣を振る仕草や術を放ったと思われる仕草の後に、何かを掴んだり突き刺したりして運ぶような仕草をしているんだから、それしか考えられない。
その言葉に頷くみたいに上下運動する収めの手を見て、吹き出す俺。
「マジかよ。じゃあ、次からはもうちょっと食べやすいように工夫してやるか。ありがとうな」
笑った俺に、手を振ってから消えていく収めの手。
「じゃあ、今日はあの鉱夫飯を使って食べやすいように色々アレンジしてやるか。それと、明日街へ行ったら、弁当箱を探してみよう。鉱夫飯があるんだから、他にも弁当箱があるかもしれないもんな」
思いつきに満足した俺は、改めて手を合わせてから自分用のおにぎりを頬張ったのだった。
「ああ、ギリギリ間に合った〜〜〜!」
その時、ズサー! って感じに目の前にシャムエル様が突然現れて滑り込んできた。
「おう、姿が見えないからどうしたのかと思ったよ。はいどうぞ。おやつはあとでな」
自分で収納していたシャムエル様用のお皿を出してやると、目を輝かせたシャムエル様が俺の腕に飛びついてきた。
「やっぱケンは私の心の友だね! 私が、何が欲しいかよく分かってくれている! ありがとうね。では、いっただっきま〜〜〜す!」
雄々しく宣言したシャムエル様は、今日はダンスも歌も無しでおにぎりに頭から突っ込んでいったのだった。
「相変わらずだねえ」
それを見て笑った俺は、そう呟いていつもの三倍サイズになった尻尾をこっそりともふりつつ、遅い昼食を楽しんだのだった。