それぞれのいってきます!
「おはよう! 今日もいいお天気よ〜〜!」
「まあ、私達が行くのは地下だから、お天気は関係ないんだけどねえ」
ひとまず子猫達や留守番組の子達も一緒に、従魔達を全員引き連れて部屋から出ると、ちょうどシルヴァ達が部屋から出てきたところだった。
「おはよう。今日もよろしくな」
笑顔で手を叩き合って、一緒にリビングへ向かった。
「子猫ちゃん達にばっかり目がいっていたけど、改めてこうして見ると、従魔達……増えたわよねえ」
ミニヨンの横を歩きながらのグレイの言葉に、皆も笑っている。
「そっか、前回シルヴァ達と一緒にいた時からしたら……確かに増えているなあ」
彼女達と一緒に行動したのは、初めての早駆け祭りの時からあの酷い目にあった地下迷宮まで。オンハルトの爺さんとはここバイゼンまで一緒だったから、あんまり気にならなかったけど、確かにあれ以降、相当増えているもんな。
「ええ、全然気にしていなかったけど、改めて紹介した方がよかった?」
ここへ来てすぐは子猫に全部持っていかれた感満載だったので、確かに言われてみれば、彼女達がここへ来てから従魔達を紹介していない。
苦笑いした俺は、サクラの入った鞄からいつもの朝食メニューを取り出しながら、彼女達と別れて以降に仲間にした子達を順番に紹介してやったのだった。
とは言っても俺がやったのは名前を呼ぶだけで、呼ばれた子がいそいそと前に進み出てくれるので、シルヴァ達は毎回大喜びで抱きついたり撫でたりして、大はしゃぎしていたよ。
まあ、撫でられたり抱きつかれたりしている従魔達もまんざらでもなさそうだったので、乱入してきたランドルさんやリナさん達の従魔達も紹介しつつ、皆で笑いながら心ゆくまでスキンシップを楽しんだのだった。
「よし、準備完了だ。あとは好きに食え!」
自分用とシャムエル様用にいつものタマゴサンドと鶏ハムと野菜のサンドイッチを二切れずつ確保して、コーンスープとコーヒーもたっぷり用意してから席についた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャカジャカジャン!」
久々の味見ダンス横っ跳びステップ付き。
当然のようにカリディアがすっ飛んできて、横に並んで即座に同じステップを踏み始める。
こういう場合、ランドルさんやリナさん達は全く反応しないから、多分シャムエル様が何かして見えないようにしているんだろう。
だけどシルヴァ達は目を輝かせてその様子を見ているから、神様達には見えているみたいだ。
ううん、毎回思うがどういう仕組みなのか気になるなあ……。
まあ、詳しく説明されたとしても、これっぽっちも理解出来ないだろう事は容易に予想がつくから、疑問は全部まとめてふん縛って明後日の方向へ全力でぶん投げておいた。
シャムエル様のお皿にはタマゴサンドと鶏ハム野菜サンドを一切れずつ並べ、コーンスープとコーヒーをそれぞれ小さなお椀と盃に入れてやり、カリディアには俺が収納していた飛び地の激うまブドウを一粒出してやる。
まあ、ベリーからしっかりもらっているとは聞いているけど、これはダンスに対するご褒美だからな。
「ありがとうございます」
嬉しそうにそう言って小さな手を伸ばしてブドウを受け取り、シャムエル様の隣に座って食べ始めたカリディアの尻尾をそっと撫でてやり、俺も自分のサンドイッチにかぶりついた。
食事を終えたあとは、もう一杯コーヒーを準備して飲みながら皆の弁当を詰めていく。
メインは昨日作ったジビエハンバーグ色々と、あとは適当。
まあ、彩り考えて野菜も入れつつ、ガッツリ肉中心のお弁当を作ってやった。もちろんデザート付き。
「お弁当ありがとうね! じゃあいってきま〜〜す!」
「はい、いってらっしゃい。無茶するんじゃないぞ〜〜」
嬉々としてお弁当を受け取り出発していく皆を見送ってから、俺は一旦部屋に戻って留守番組を置いてくる。リナさん達やランドルさんから預かった草食チームも一緒だ。
出かける前に神様達に散々揉みくちゃにされた子猫達は、早々に産室に潜り込んで寝てしまったみたいだ。
カッツェとウサギ達が産室の中へ入っていくのを見てから、俺も自分の鞄を手にした。
「よし、じゃあまた買い出しだな。俺の護衛は任せた」
笑ってそう言い、左肩の定位置に留まっているファルコをそっと撫でてやる。
「はい、お任せください!」
「いってらっしゃい!」
「おう、いってきます! 留守番よろしくな!」
軽く羽ばたいたファルコの言葉と留守番組の子達の声に笑顔で頷き、鞄を持って手を振った俺は玄関へ向かった。
「おお、確かに良い天気だ」
見上げると、透き通るみたいな真っ青な空に僅かに白い雲が太陽の光に輝いている。
そして遠くに雲雀の鳴き声が聞こえて笑顔になる。
「ひばりが鳴きだすと、本格的に春がきたって感じだなあ。さて、それじゃあ行くとするか」
玄関の鍵をしっかりと閉めてから、収納していたムービングログを取り出して乗る。
「出発進行〜〜!」
ハンドルの真ん中部分に飛び乗ったシャムエル様のご機嫌な声に小さく吹き出す。
「そこは落ちそうで怖いから、こっちに乗ってくれ」
手を伸ばして捕まえて右肩に乗せてやる。
「まあ、そう言うならここでもいいかな。では改めて、出発進行〜〜!」
何故かドヤ顔になったシャムエル様の号令に従い、スイッチを入れて稼働させたムービングログで段差をそのままゆっくりと降りた俺は、アッカー城壁目指してかなりスピードを上げて芝生の庭を走っていったのだった。
「おお、いつも石畳の道ばっかり乗っていたから気が付かなかったけど、土の上でもしっかり安定しているし、かなりのスピードが出るんだなあ。いやあ、これは本当にすごい乗り物だねえ。まあ、良いジェムを入れないとすぐに止まっちゃうらしいんだけどさ」
地面の段差になった部分を乗り越えてなんとなくついている獣道を進む。
これって、本体価格も俺の感覚では外国製のスポーツカーレベルの大概の値段だったけど、買う時だけじゃあなくて乗ろうと思ったら維持費がとにかくかかるんだよな。
俺みたいに、すごいジェムを大量に持っているやつでなければ、あまり長距離は使わない方が良いかも知れない。多分、ガソリンなんかよりはるかに燃費は悪いと思うぞ。
いつもよりも少し時間をかけて、ようやく見えてきたアッカー城壁を見上げながらそんな事をのんびりと考えていたのだった。