ドワーフさん達のお仕事
「はあ、ごちそうさま。美味しかったです!」
岩豚カツサンドだけでなく、タマゴサンドと鶏ハムサンドも半分平らげ、さらにはかぼちゃスープも残さず綺麗に平らげたシャムエル様は、ご機嫌に尻尾を揺らしながら残っていたオーレをグイッと飲み干した。
「はいはい、お粗末様でした。じゃあ俺もこれを飲んだらまた料理かな」
少し残っているオーレを飲みながら、何を作るか考える。
「シルヴァ達がいる間は、肉メインで食事を考えてやるべきだよな。となると揚げ物だけじゃあなくて、すぐ料理出来るように味付けした肉を仕込んでおくのもありだな。いや、ここはもう一歩進んで焼いて用意しておくべきだな、この人数を全部一人で直前に作るのは、俺一人ではちょっと無理ゲーだって」
苦笑いして大きめの片手鍋を取り出した俺は、スライム達に各種お肉をガッツリ切ってもらっている間に、漬けだれを用意していく。
「照り焼き風味とニンニクを効かせた焼肉のたれ風、それからあとは味噌だれあたりがあればいいかな」
まあ、作る量は半端ないので、ここは流れ作業で作っていくよ。
そして、出来上がった各種タレはスライム達に時間経過で味を染み込ませてもらい、一番大きなフライパンで焼いては収納するのを繰り返した。
「暑い! ずっと揚げ物と肉焼きだと、洒落にならないくらいに暑い!」
汗を拭いながらそう呟くと、跳ね飛んできたスライムが俺の後頭部下側あたりから首筋に張り付く気配があった。
「ん? どうかしたか?」
驚いて振り返ろうとしたその時、ひんやりとした感触に驚く。
「あ、これってもしかして……」
「はあい、アワユキがイプシロンと一緒に冷やして差し上げていま〜す!」
白っぽい触手がニュルンと出てきてそう言ってすぐに戻る。
「おお、ありがとうな。一気に体が冷えてきた感じがする」
笑ってそう言い、背筋を伸ばす。雪スライムのひんやり攻撃だ!
「よし、じゃあ冷やしてくれている間に、味噌漬け肉も焼いてしまおう」
とにかくガンガン肉を焼いていくよ。シチューや角煮みたいな煮込むのに時間のかかる料理は、作り置きの在庫に余裕が出来てからだ。
って事で、用意した肉が全部無くなったところで一旦休憩。
「あ、物音がしなくなってるな。どうなったのかな?」
気づけば、賑やかだった部屋の中は静かになっている。
ひとまず片付けて部屋に戻ると、すっかり綺麗になった和室が見えてびっくりしたよ。
「おお、すげえ。もう直ったんですか?」
道具の後片付けをしているハインツさんに話しかける。
「おお、ケンさん。ええ、問題の部分の修理は全部終わりましたよ。一応確認をお願い出来ますかな? ああ、これはお借りした収納袋です。助かりましたよ。ありがとうございました」
そう言って収納袋を置いたハインツさんが、にっこり笑ってそう言ってくれたので、もちろん喜んで確認させてもらった。
ビリビリになっていた障子は全部綺麗に貼り直してあったし、子猫達が駆け上がって傷だらけになっていた白木の柱は、若干の傷は残っているものの、大きな傷は見事に埋められていて平らになっている。おかげで、素手で触っても棘は刺さらないよ。
「コタツも確認はしたけど、こっちは特に問題は無いみたいだ。しかしまあ、よく使ってくれているみたいだな」
「ちゃんと使ってくれているところを見ると、なんだか嬉しいなあ。作った身としては最高だよ」
笑ったハインツさん達の言葉に、俺も笑顔で頷く。
「コタツは、寒い冬の間は特に最高でしたよ。今でもちょっと冷える日なんかは、従魔達が先を争うみたいにして入っていますよ。俺はよく、ここで従魔達とくっついて寝落ちするんですよね」
和室のコタツを指差してそう言うと、三人揃って吹き出してる。
「ケンさんの従魔達なら、どの子とくっついて寝ても最高に幸せだろうなあ」
「確かにな。羨ましい限りだ」
「もしかして、子猫達ともくっついて寝てるんですか?」
目を輝かせるクラウスさんの質問に吹き出す俺。
「もちろんですよ。まあ、最近ようやく言葉が通じるようになったので、子猫達とくっついて寝られるようになりましたけど、最初の頃は、絶対危ないから勝手に近寄るなって従魔達全員に言われましたからね」
苦笑いする俺の言葉に、三人が揃って首を傾げる。
「子猫達だって、テイムしている従魔の子供なんだから、危険はあるまい?」
不思議そうなハインツさんの質問に、俺は笑って首を振った。
「いや、まず子猫の間は力加減を知りませんからね、その上、大人達と違って爪もほとんど引っ込みませんから出っ放しです。しかも、生えたてのツンツンに尖った爪がね」
そう言いながら俺は両手を広げて指をちょっと曲げてやる。
「それに、牙だってそうですよ。噛み付くのに遠慮なんて一切しませんから、人間のやわな皮膚なんてイチコロですって。ちなみに他の従魔達によると、リンクスの子猫にとって人間って、リアルに獲物サイズなんだとか。狩りの練習するのにうってつけらしいですよ」
「お、おう……確かに」
「確かに子猫であの大きさなら……」
「我らなんぞ簡単な獲物だよなあ……」
一気にドン引く三人を見て、俺は乾いた笑いをこぼした。
「だから生まれてしばらくの間は、俺が子猫に触れるのは子猫達がお腹いっぱいになって寝ている時限定でしたね。その時も、ニニとカッツェ、ああ子猫達の親なんですけど、あの子達が側にいてくれて、そろそろ起きそうだから避難してください。とか言われて、毎回慌てて部屋に戻っていたんですよ」
「あはは、成る程なあ。世界最強の魔獣使い殿にも、最強ならではの苦労があるって事か」
「だなあ、従魔の魔獣が番になって子供が産まれるなんて」
「しかもその子達まで全部テイムしたってんだから、恐れ入るよ」
顔を見合わせて笑った三人は、それぞれ道具袋と靴の入った袋を持った。
「それから、この様子だとまた壊される可能性が高そうだからな。予備の障子を一揃え、早急に作っておこうと思うんだが、どうだね?」
「ああ、それは素晴らしいです。是非お願いします!」
思わず手を合わせた俺を見て、三人揃って吹き出す。
「了解だ。それでは代金は後ほど、追加分の障子の分も合わせてお願いするよ。冒険者ギルドの口座からの引き落としも出来るから、受付で言ってくれればいいよ」
支払いをどうしたらいいのかわからなかったので、そう言われて笑顔で頷く。
「了解です。俺はちょくちょく街へ買い出しに行く予定ですので、またギルドへ寄らせてもらいます」
「おう、それでお願いするよ。それじゃあ戻るとするか」
三人を玄関まで一緒に行って見送り、厩舎から引いてきた馬に荷馬車を手早く取り付けるのを見ていた。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
俺の言葉に三人が笑う。
「いやいや、また何かあったらいつでも言ってくれよな。これくらいお安い御用だよ」
「それじゃあな」
「お邪魔しました〜〜」
笑顔で手を振る三人の荷馬車が見えなくなるまで見送った俺は、一つため息を吐いて部屋に戻った。
とりあえず、もう大丈夫だって子猫達に言ってやらないとな。