料理開始!
「さてと、それじゃあもう手当たり次第に作るぞ。手伝いよろしく!」
手早く装備を外して身軽な服装になった俺は、腕まくりをしながらキッチンへ向かった。職人さん達に預けた子達以外のスライム達が、跳ね飛んで俺のあとをついてくる。
「お手伝い〜〜!」
「するよ〜〜!」
「するよ〜〜!」
ポヨンポヨンと跳ね飛びながら、バレーボールサイズになったスライム達が、口々にそう言って転がる。
「はいはい、ちょっと待ってくれよ。さて、何からするかねえ」
早速賑やかな音が聞こえてきた部屋をチラッと見て、ふとある事に気づく。
「あ、ハインツさん達って、食事はどうするんだろう?」
街の中ならちょっと買ってきて食べる事も出来るだろうが、さすがにここから街まで買いに行っていたら昼休みは終わるよな。
「弁当持参かな? まあ、まだ少しくらいなら作り置きはあるから、いざとなったらそこから出せばいいな」
小さくそう呟いて取り出したのは、岩豚のヒレ肉とロース肉だ。
「まずはこれで岩豚トンカツを量産だな。あいつら、絶対これ好きそうだもんな」
小さく笑った俺は、ソフトボールサイズになって机の上に勢揃いしているスライム達を見る。
今は職人さん達がいるので、雪スライム達とレース模様のクロッシェは俺の小物入れに隠れていて出てきていないから、いつもより少し少ないよ。
「あ、せっかくだからシルヴァ達にも雪スライムをテイムしてやろう。きっと喜ぶぞ」
あの雪スライム特有の粉を吹いたみたいなポソポソ感は、絶対にシルヴァやグレイが面白がって大喜びしそうだ。
小さくそう呟き、まずは肉をスライム達にトンカツサイズに切ってもらう。
「じゃあ、油の用意をするから準備は頼むぞ」
「はあい、お任せくださ〜い!」
すると、俺のベルトに取り付けている普通の方の小物入れから雪スライム達が次々に飛び出してきた。そしてそのまま、一瞬でメタルスライム達と一匹ずつくっつき合って合体した。
「ああ、そうやってくっついて一緒にいたら、アクアとクロッシェみたいに一緒にお手伝い出来るのか」
「はあい、お手伝いしま〜す!」
メタルスライム達からにょろんと白っぽい触手が出てきて、揃って敬礼する。
「おう、よろしくな」
笑って揚げ物用の大きなフライパンを並べ、油を入れていく。
「ご主人、味付けをお願いしま〜〜す!」
「おう、ちょっと待ってくれ」
塩胡椒の味付けは、スライム達には加減が分からないらしいので全部俺がやっているんだけど、俺がやりやすいように、大きなバットに切った肉をきれいに並べてくれるんだよ。しかも俺が塩胡椒と配合スパイスを振ってOKを出すと、即座に裏返してくれる徹底ぶり。おかげで俺は生肉には一切触らずに塩胡椒と配合スパイスの瓶を振っているだけ。
まあ、もちろんちゃんと味の加減はしているんだけどさ。
ひとまず切った分全部の味付けを終えたところで即座に下準備を始めてくれるスライム達に手を振り、俺は油を入れたフライパンに火をつけていく。
みるみるうちに流れ作業で出来上がっていく揚げる前のトンカツ。
いやあ、自分でテイムして言うものなんだけど、ここは言わせてくれ。スライム達、マジで凄い。
「よし、じゃあ揚げていくよ」
受け取ったバットから、トンカツを手に取ってそっと油に入れていく。
もうこうなったらあとはひたすら流れ作業だ。
少し離れて待ち構えてくれているサクラに、油切りの終わったトンカツの並んだお皿をどんどん渡していく。
全部揚げ終わる頃にはもうすっかり昼の時間になっていたよ。
「よし、俺の昼飯は揚げたての岩豚トンカツで、シンプルカツサンドにしよう。向こうはどうなったのかな?」
フライパンの火を落として、部屋を見にいく。
「おお、もう障子の桟が出来上がってる!」
マニが突っ込んで豪快に穴を開けた障子も、それから吹っ飛んで壊れてしまった障子も、なんと持ってきていた白木を使った新しい障子の桟が、午前中の間に全部出来上がっている。
「ちょうど出来上がった所だよ。昼からはこれに紙を張っていくよ。あと、ここの部屋の枠組み部分だが、大きな傷が数箇所あるから、そっちもついでに直しておくよ」
和室の柱の部分を指差したハインツさんの言葉に、思わず言われた箇所を見る。
「ああ、確かこれは、子猫達が駆け上がった時の爪の跡だな」
苦笑いした俺は、子猫達が大はしゃぎしてコタツから出入りしていた光景を思い出す。
「確かにそこ、ミニヨンとカリーノが何度も駆け上がっていたよな。まあ、これも歴史ですから無理な修理はしなくて良いですよ」
「了解です。ですがここの部分は少し傷が大きくて棘が出ていますから、怪我をしないように埋めておきます。あとはまあ、少々磨きをかける程度でなんとかなりそうですな」
「お任せしますので、よろしくお願いします。ところで、お昼の食事って……」
「ああ、弁当を持ってきておりますので、お構いなく。ですがその、ここで食べても構いませんか?」
ハインツさんが示したのは、和室の横の絨毯を敷いていない部屋の端のところで、今はそこに大きな布を敷いて木材や道具の置き場になっている。
「もちろんです。じゃあごゆっくり」
大きな弁当箱を取り出すのを見て、笑って手を振った俺はキッチンへ戻った。
「じゃあ俺の分だけでいいな。サクラ、食パンとマヨとレタス、それからオーレが飲みたいからコーヒーとミルクも頼むよ」
一応、サクラに何か出し入れしてもらう時なんかは、万一にも職人さん達の目に触れないように、一番大きな寸胴鍋の中で出し入れしてもらっている。
渡された食パンを少し厚めに切り、マヨを塗ってレタスと一緒に岩豚トンカツを挟む。
「濃厚ソースカツサンドも美味しいんだけど、揚げたてはシンプルに限る。よし、食べよう」
マイカップにたっぷりのミルクとコーヒーを入れた俺は、いつもの習慣で祭壇を作りかけて手が止まった。
「いやいや、今はこっちに来ているんだから、必要ないよな。がっつり弁当持たせてやったし」
小さく笑ってそう呟いた俺は、半分に切った岩豚カツサンドに大きな口を開けてかぶりついたのだった。
はあ、岩豚カツサンド、美味〜〜〜。