工事の開始と子猫達
カッツェはここにはいませんでしたね。
申し訳ありません。作者の勘違いです。
当該箇所を訂正しました。
「ケ、ケンさん……」
「今のって……」
「今のはまさか……」
呆然としていたハインツさん達が、目を見開いたまま子猫達が逃げ込んだ産室にしている組み立て式の木製の小屋を見る。
「今のはリンクスの子猫ですか!」
最後は三人揃っての大合唱だ。
「ええ、そうですよ。年が明けてから生まれました。やっと言葉が通じるようになってテイム出来たのですが、さすがに、いきなり知らない人は怖かったみたいですね」
笑った俺の言葉に、なぜか三人は感動しているみたいだ。
「という事は、母親はあの三毛のリンクスですか!」
「ええ、そうですよ。出産は本当に大騒ぎだったんですよね」
苦笑いする俺の言葉に、三人が揃って頷く。
「いやあ、まさかリンクスの子猫を見せていただけたとは」
「帰ったら仲間達に自慢しよう。しかも年が明けてから生まれたという事は、まだ生後半年未満!」
「一瞬しか見えなかったが、いやあ可愛かったなあ」
満面の笑みでうんうんと頷き合った三人は、一つ深呼吸をしてから部屋の中を見回した。
あ、子猫達が暴れたんだろう。クッションと膝掛けが飛び散らかっている。
慌ててクッションを拾い、ソファーに戻す。
「で、あれがその破壊された和室の障子です。どうですかね? 直りそうですか?」
一応、明らかに壊れた物は外して壁に立てかけてまとめてある。破れてはいるものの軽微な物は、そのまま使っているよ。
「おうおう、これはまた豪快に壊されましたな。それ以外の障子も、紙は貼り直した方が良さそうですな」
壊れた障子を見たハインツさんの言葉に、後の二人も苦笑いしつつ頷いている。
「もしやこれは、子猫達が?」
笑いを堪えたハインツさんの言葉に、俺も笑いを堪えつつ頷く。
なにしろ、ハインツさんが見ている障子は、マニが頭から突っ込んで、まるで漫画のように綺麗に障子の真ん中が桟ごと折れて穴が開いたやつだ。
これに吹っ飛ばされて、左右にあった二枚が巻き添えくって哀れ真っ二つになったんだよ。
「この穴が開いているのは、ある意味綺麗に壊してくれたおかげで真ん中の桟の部分だけ変えれば使えそうだな。だがあとの二枚は……どう見ても、作り直した方が早そうだな」
「だな、って事はやっぱり全部いるな」
「おう、運んで来るから準備を頼むよ」
ハインツさんにそう声をかけると、クラウスさんとアーデルさんが、持っていた袋を置いて廊下へ出て行った。
「あの、これ使ってください。大容量の収納袋ですから、あの木材なら全部一度で運べますよ」
そう言って、自分で収納している大容量の収納袋を取り出す。
「ええ、借りて良いのか?」
「もちろんです。どうぞ」
笑って渡すと、三人揃って深々と一礼された。
「ではお借りします」
そう言って、収納袋を持ってクラウスさんとアーデルさんが改めて玄関へ向かった。
ちなみに今は、玄関開けっぱなしだけど、大丈夫だよな?
まあ、留守番組がいるから、何かあったら教えてくれるだろう。そう考えて一つため息を吐いた俺は、二人を見送ってから障子を外し始めたハインツさんを見る。
「あの、お手伝いする事って何かありますか?」
さすがに作業そのものは手伝えないだろうけど、運んだり押さえたりするぐらいなら俺でも手伝えそうだ。
「いやいや、お気になさらず。ケンさんはどうぞゆっくりしていてください」
笑ってそう言い、あっという間に全部外してしまった障子を水場へ運び始めた。
「あ、それはスライム達が手伝えそうだな」
少し考えてアクア達を見る。
「ハインツさん。掃除やゴミ集めなんかはスライム達をお貸ししますからやらせてやってください。それ、障子紙を桟から剥がすんでしょう?」
レインボースライム達を引き連れて追いかける。
「いやいや、そんな申し訳ない」
慌てて断ろうとするので、笑って障子を軽く押さえる。
「やりたがっていますので遠慮しないでください。せっかく魔獣使いの家に来ているんですから、恩恵は受けないとね」
笑ってそう言い、近くにいたアルファを障子の横へ置く。
「木を傷めずに、紙だけを剥がすなんて出来ますか?」
心配そうなハインツさんの言葉に笑顔で頷き、アルファをそっと撫でてやる。
「紙だけ綺麗に剥がして欲しいんだってさ。木の部分は食べちゃ駄目だぞ」
あえてきっちり言葉にしてやると、アルファは得意そうにビヨンと縦に伸びてから一気に広がって障子を取り込んだ。
しばらくモゴモゴやったあとに、紙だけ綺麗に無くなった障子の桟が吐き出された。
「おお、素晴らしい!」
目を輝かせて拍手をするハインツさんの言葉にまた伸び上がるアルファ。俺には分かるぞ。あれはドヤ顔だ。
「じゃあ、アルファとベータ、それからゼータをお貸ししますので、手伝わせてやってください。言葉は分かっていますから、今みたいに言葉にして言ってくれれば通じますので」
収納袋を抱えて戻ってきたクラウスさんとアーデルさんにも、それぞれ一匹ずつスライムを貸しておく。
嬉しそうにお礼を言った三人は、それぞれスライム達を手の上に乗せて挨拶をしていたよ。
「はあい、よろしくです〜〜!」
ご機嫌な三匹の返事が聞こえた俺は、一応何かあった時の為に、はいといいえのリアクションだけは考えておく事にした。
「ええと、スライム達は、こんな風に触手が出ますから、これで丸を作れば、はい。バツならいいえでどうです?」
スライム達が、俺の指示通りに丸とバツのリアクションをしてくれる。
「おお、それなら少しくらいの意思疎通は出来そうですな。まあ、何かあればケンさんを呼ばせていただきますので、その時は通訳してやってください」
「もちろんです。俺はあっちのキッチンで料理をしていますので、何かあればいつでも呼んでください」
笑ってそう言いキッチンへ向かおうとして、思わず足を止める。
今のニニは、子猫達の様子を見ても知らん顔でソファーで寛いでいる。
子猫達がこもっている産室は静まり返ったままだけど、少しは落ち着いただろう。
だけど、今から本格的な作業が始まれば多分音もそれなりに出るだろうから、子猫達の恐怖はさらに増すだろう。となると、間違いなくもう今日は出てこないだろう。
さすがにちょっと心配になったので、キッチンへ行く前に一応産室の中を覗いてみる。
静まり返った産室の一番奥のところにいた三匹は、もうこれ以上ないくらいに小さく丸まってくっつき合い、干し草の中へうずもれるみたいにして猫団子になっていたよ。
「マニ、ミニヨン、カリーノ、大丈夫か?」
産室に入ったところで足を止め、怖がらせないように小さな声で話しかけてやったんだけど、一切反応無し。
「ご主人、あの子達初めて見る知らない人達にちょっとパニックになっているみたいだから、今は迂闊に近寄らない方がいいわよ」
いつの間にか来ていたニニの声がすぐ後ろから聞こえて、慌てて産室を出る。
俺と入れ替わりにニニが産室の中へ入って行き、子猫の横に座って丸くなった。そしてニニの鳴らす大きな喉の音が中から響いてきた。
「じゃあ、こいつらの事は任せるから、よろしくな」
「うん、任せてね」
ニニの笑った返事に俺も安心して下り、アクア達を引き連れてキッチンへ向かったのだった。