まあ中へどうぞ
「到着〜〜〜!いやあ、マックスの全力疾走、速い速い」
アッカー城壁でドワーフの皆さんと一旦別れ、そこからお城の玄関先までマックスが全力疾走したら本当にあっという間だったよ。
笑ってマックスの背中から飛び降りた俺は、まだ興奮して飛び跳ねているマックスを見ながらとにかく玄関の鍵を開けた。
冬の間はフル稼働してくれた暖房器具は、一応まだそのまま置いてあるけれども、もう稼働はしていない。
「ほら、ちょっとは落ち着けって、鞍を外してやるから、ステイ!」
最後はちょっと力を込めて大声でそう言ってやると、我に返ったマックスが即座にその場に良い子座りをする。
「よし、良い子だ。ちょっとじっとしていてくれよ」
笑って首元を軽く叩いてやり、まずは手綱を外してから、胴体を締めているベルトを外していった。
「ほう、そんな仕組みになっておるのか」
その時、賑やかな音を立てた荷馬車が到着して、笑顔のドワーフさん達が荷馬車から飛び降りる。
「馬は厩舎へ入れさせてもらって構わないか?」
「ええ、もちろんです」
「ああ、場所は分かるのでお構いなく」
笑ったハインツさんが、そう言って手早く荷馬車から馬を外して引いていく。
今は、オンハルトの爺さんが連れているエラフィがいるので、厩舎も綺麗に掃除してある。もちろん、スライム達が在庫管理をしてくれている干草も、たっぷりと敷き詰められているよ。
ハインツさんを見送った残りの二人は、荷馬車に積まれた木材を見てから揃って俺を振り返った。
「じゃあ、木材を運ぶ前に、一度ケンさんの部屋を見せてもらっても構わないか? 壊れた障子の状況を確認したいんだが」
クラウスさんが、道具が入っているのだろう布の袋を手にそう言って玄関を見る。
「もちろんです。じゃあこっちですよ」
家の中は俺が案内したほうがいいだろう。そう考えて鞍を外したマックスも一緒に行こうとして思わず足が止まる。
玄関先で立ち止まって靴を脱いだ二人が、革の袋の中から別の靴を取り出して履いたのだ。
それは今まで履いていた分厚い底の革靴と違い、柔らかな布製の底の浅い靴で、見た感じやや短めの地下足袋にそっくりだ。
「へえ、そんな靴があるんですね」
初めて見るそれに、思わずそう言ってしまう。
「ああ、これは家の中などの作業の際に履く専用の靴だよ」
「見ての通り底が薄いので、動きやすいし作業もしやすいんだ」
「高所の作業の時なんかにも履くなあ」
「ああ、屋根の上の作業の時にも履くな」
笑って頷く二人の言葉に納得する。
確かに、分厚い底の靴よりもあの地下足袋もどきの方がはるかに動きやすそうだ。
「確かに良いですね。動きやすそうだ」
笑った俺の言葉に、二人も笑って頷いている。
そこへ、ハインツさんが厩舎から戻ってきて、急いで彼も持っていた地下足袋もどきに素早く履き替えていたよ。
「お気遣いありがとうございます。まあ、中へどうぞ」
笑った俺がそう言い、マックスを連れて中に入る。
「本当に、従魔達を屋敷の中に入れているんだな」
「うむ、話には聞いていたがちょっと驚きだのう」
感心するような声が聞こえて小さく吹き出す。
確かに一般人の感覚では、さっきまで外で乗っていた騎獣と一緒に家の中に入ると言うのはあり得ない事なんだろう。でも、ここではそれが当たり前だよ。
「しかし、外を走って来たのに足や体は汚れておらんのか?」
クラウスさんの不思議そうな呟きが聞こえて思わず振り返る。
「大丈夫ですよ。家の中に入る前に、スライム達が俺や従魔達の足や体の汚れを綺麗にしてくれるんですよ。雪で濡れた時も、すぐに綺麗にしてくれるから、寒くないんですよね」
笑ってそう言う。
すると今は鞄の中に戻っていたアクア達が、俺の声が聞こえたみたいでニュルンと出てきて肩の上で伸び上がってアピールしている。
「おお、スライムはそんな事も出来るのか。いやあ、話は色々と聞いておるが、スライムというのは、すごいのだなあ」
感心するクラウスさんの呟きに、スライム達が次々に鞄から出てきて廊下を転がり回って大はしゃぎしていた。
「うん、褒められて嬉しいのは分かったから、ちょっと落ち着こうな」
跳ね飛ぶアルファを捕まえておにぎりの刑に処する。
「きゃ〜〜捕まっちゃった〜〜〜!」
妙に嬉しそうな声をあげるアルファの様子に、小さく吹き出した俺だったよ。
「ええと、この部屋です」
スライム達と一緒に歩いて、到着した部屋の扉を開けながらそう言って先に中に入る。
部屋の真ん中の大きな絨毯の上では、ミニヨンとマニとカリーノの三匹が、絡まりあうみたいにして戯れ合っている真っ最中だった。
「ああ! ごちゅじん、おかえりにゃの〜〜!」
「ごちゅじんのおかえり〜〜!」
「おかえりにゃちゃい!」
ガバって感じに起き上がった三匹が、嬉しそうにそう言ってこっちへ駆けて来ようとしたところで突然の急ブレーキ!
本当に、キキー! って音が聞こえた気がしたかと思うくらいの止まりっぷりだ。
「おいおい、いきなりどうしたんだよ?」
固まったまま動かなくなった子猫達に慌てて駆け寄ろうとした時、いきなり復活した三匹がもの凄い勢いですっ飛んで逃げていった。
そのまま、一目散に産室へ三匹揃って飛び込んでしまった。
部屋にいたニニとウサギ達やお空部隊プラスアルファの面々も、揃って呆気に取られたみたいに子猫達が逃げ込んでいった産室を見ている。
「ああ、もしかして……」
そう呟いて背後を見ると、突然の子猫達の行動に驚いたのだろう。こちらも驚きのあまり揃ってポカンと口を開けたまま固まっているハインツさん達が並んでいたのだった。
そうだよな。
突然、知らない人達が安全地帯であるはずの部屋の中にどかどかと上がり込んで来たら……そりゃあ逃げるわ。
うん、これはある意味、家で育った子猫としては正しい反応だな。
苦笑いして納得した俺は、吹き出しそうになるのを必死で堪えてとりあえずマックスに横から抱きついたのだった。