追加の買い物とお城への帰還!!
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
多めに前金を支払っておいた俺は、総出で見送ってくれたファータさんやスタッフさん達に笑顔で手を振り、マックスに乗って観光案内所を後にした。
「ええと、せっかく街まで来たんだから、ドワーフギルドへ行く前に少しくらいは食材の買い出しをしておきたいんだけど……街道が閉鎖されているって言ってたもんなあ。もしかして、店には何もなかったりして」
若干心配しつつ、人通りの多そうなところでマックスから降りて手綱を引いて、いつも買っているお肉屋さんやパン屋さんなどがある通りを目指して早足で歩く。
到着した通りは、普段よりも若干生鮮食品が少ないものの、それなりの量は確保されていた。
「そっか、東側の街道は閉鎖されたって言っていたけど、南側の街道は大丈夫なのか」
王都へと続く東側の主街道と違い、南へ伸びる桜並木があるのだという街道沿いの西側地域は、平らな草原地帯になっていて、そこには果樹園や栗畑をはじめ、大小様々な牧場や農地が広がっているんだと聞く。
またその街道の先には、一大穀倉地帯であるカデリー平原が広がっているので、この南街道を通じてバイゼンの食料のほとんどが届けられているんだって。これは以前、大量買いをした八百屋さんで、店番をしていたおばさんから聞いた話だ。そのおばさんの店で売っている野菜も全部、街道沿いの自分の畑で作っているんだって笑っていた。
ちなみに生まれも育ちも就職先も全部都会だった俺は、いわゆる農作業の類をほとんどやった事がない。子供の頃に芋掘りとか学校の授業で農業体験とかをやった程度だ。
ついでに言うと、生きた牛や鶏にも触った事がない。生まれたての卵って暖かいって聞くけど本当なのかねえ?
まあ、そんな俺には出来ない事をしてくれる農家や牧場の皆さん、いつもお世話になっております!
ありがとうございます! おかげで美味しい料理が食べられるよ!
「いらっしゃい!」
ぼんやりとそんな事を考えながら立ち止まったのは、いわゆる八百屋さん。
朝市と違って、普通にいろんな野菜や果物が大きなカゴに豪快に山盛りになっている。
大体の店はこんな感じで、欲しい物を一つから売ってくれる。もちろん俺はまとめて買うけどね。
早生のイチゴがもう出ていたので、お願いして大量買い。最近果物の種類が減っているので、これはベリー達も喜ぶだろう。
それから、ジャガイモやニンジン、玉ねぎなどの根菜類や、並んでいた葉物の野菜も大量買い。トマトはまだ売っていなかったよ、残念!
たださりげなく在庫の状況を聞いてみると、やはり普段よりも種類も少ないらしく、中には入荷していない野菜もあったりするみたいだ。特に王都方面から入荷していたちょっとお高めのお肉や野菜、果物なんかはかなり品薄らしく、貴族街の人達は苦労しているらしい。
まあ、貴族の人達ならきっとたくさんお金も持っているだろうから、少々高くても気にしないのだろう。多分ね。
八百屋を後にした俺は、並びにあったお肉屋さんでもこれまた大量買い。そして以前も買った美味しいパン屋さんでもまとめて大量買いさせてもらった。
最後の牧場直営店では、搾りたての牛乳を空いている瓶全部に入れてもらい、いろんなチーズと新鮮卵もまとめ買いだ!
一応、ちゃんと確認はしたよ。だけどどこも大丈夫だって言ってまとめ買い大歓迎だったんだからさ。
「よし、これで減っていた材料もほぼ揃ったな。じゃあ戻って料理でもするか」
待ってくれていたマックスに飛び乗った俺は、時折手を振ってくれる街の人達に手を振り返しつつ、広場の屋台でも見つけたものも色々とまとめて買ったりしながら、急いでドワーフギルドへ向かったのだった。
「ああ、もうケンさんが戻って来たぞ! ほら、早いところ積み込まないと!」
俺を見たハインツさんが、慌てたようにそう言ってスタッフさんを急かし、自分が運んでいた大きな角材の束を荷馬車に載せた。
ドワーフギルドの前の道には、大きな荷馬車が停められていて、障子の材料なのだろう、綺麗な無垢の木の角材を積み込んでいる真っ最中だったのだ。
「ああ、大丈夫ですからゆっくりやってください!」
急いで怪我でもしたら大変だから慌ててそう言ったんだけど、笑ったスタッフさん総出で、本当にあっと言う間に積み込んでしまった。
「お待たせ。もう用事は済んだのか?」
振り返ったハインツさんの言葉に、俺は笑って頷く。
「ええ、ちょっと買い物もしたかったので、完璧です!」
「そりゃあよかったな。それじゃあ行くとしようか」
笑ったハインツさんが荷馬車に飛び乗り、残りの二人は角材と道具袋が積まれた荷台に飛び乗って当然のようにその隙間に座った。
道路交通法違反って言葉が一瞬頭をよぎったんだけど、違う、ここは異世界だ! と、脳内で叫んで、その言葉はまとめてふんじばっていつものごとく明後日の方向へぶん投げておいたよ。
そのままのんびりと進む荷馬車のスピードに合わせてゆっくりと進み、貴族街を抜けてアッカー城壁へ辿り着く。
マックスが一瞬いつものようにアッカー城壁を抜けたところで走り出しそうになって足を止め、隣の荷馬車を見てすごく悲しそうに鼻で鳴いた。
「ウキュ〜ン」
ブンブン振られていた尻尾までがしょんぼりと垂れてしまう。
そうだよな。いつもここからお城までは全力疾走出来る貴重な場所だもんな。
笑った俺は、マックスの首元を叩いてからハインツさん達を振り返った。
「ええと、マックスが走りたがっているみたいなんで、俺は先に戻って玄関を開けておきますね。構いませんからゆっくり来てください」
お城まではちゃんと道があるので、雪が溶けて地面が見えている今なら迷子になる事も無いだろう。
「ああ、構わないから行ってくれ」
ハインツさんだけでなく、他の二人も笑ってそう言ってくれたので、お礼を言った俺はマックスに合図をして一気に加速した。
一声吠えて、弾かれたように走り出すマックス。
そして何故か後ろから聞こえてきたのは、大喜びする歓声と笑い声、そして三人とは思えないほどの大きな拍手の音だった。