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サーバルをテイムする

「それで、具体的にはどうするんだ? 肉食獣って事は、当然警戒心も強いんだろう? この茂みの中に本気で身を潜められたら、正直言って俺なんかでは見つけられる自信は無いぞ」

 捕まえるどころか逆にいると知らずに迂闊に近寄ってしまい、いきなり襲い掛かられて一巻の終わり! って図を想像してしまい、既に俺とクーヘンは揃ってちょっと泣きそうになってるんだけど、どうしたら良いんだろう?

「確かにそうですね。じゃあ私が探して差し上げますね」

 不意に姿を表したケンタウロスのベリーがそう言い、片手を上げて茂みを飛び越えて何処かへ行ってしまった。小さな揺らぎが一緒に行ったので、どうやらカーバンクルのフランマも一緒に行ったみたいだ。

「おお、賢者の精霊にお助け頂けるなら安心ですね」

 嬉しそうなクーヘンを振り返って、俺も何度も頷いた。

「そうだよな。ティラノサウルスのジェムを持ってくるくらいだから、サーバルなんてちょろいんじゃないか?」

「まあ、時間の節約になるからな、目標を探してもらうのは任せても良いが、テイムはお前がやるんだぞ」

 真顔のハスフェルにそう言われて、クーヘンは引き攣った顔で笑っている。

「頼むから気絶しないでくれよな」

「ど、努力します」

 俺達は顔を見合わせて、誤魔化すように笑い合った。



「なあ、具体的にはどうやって捕まえるんだ? さすがにサーバル相手に素手で対峙するのは御免だぞ」

「お前達には従魔がいるだろうが。さてどうするのが一番効果的だと思う?」

「まあ、万一の時は加勢してやるから心配するな」

 腕を組んだハスフェルとギイは、そう言ったきり面白そうに悩む俺達を見ている。

「うう、なんか悔しいぞ。ええと、俺達の従魔で一番の戦力は俺のマックスとニニかな?」

「ミニラプトルもかなりの戦力だと思いますけど」

「確かに、だけど傷付けるのはかわいそうだよなあ」

「そうですね。ネコ科って事は動きも俊敏で柔軟でしょうし……」

 俺たちも腕を組んで考え込んでしまう。

 マックス達は、少し離れた所で大人しく座って俺達を見ている。

「どうだ? サーバルを捕まえるなら、初手は任せても良いか?」

「そうですね。まずは我々が足止めして確保しますから、シリウスの時のように、とにかく攻撃して弱らせるのが一番です」

「あの、シリウスを捕まえた時って、どうやったんですか?」


 クーヘンの質問に、俺はちょっとあの時の事を思い出して遠い目になった。


 うーん。あれを俺とクーヘンでやるのはあまりにも無茶だろう。第一、目的のサーバルの大きさが分からない。俺のいた世界と同じくらいのサイズなら、マックス達に押さえて貰えばなんとかなるかもしれないけど、万一、今のマックスやニニと変わらないサイズだったら、はっきり言って、俺達は手も足も出ないぞ。

「聞きたいか?」

「ええ? 聞いちゃ駄目ですか?」

 驚くクーヘンに、これ以上ないくらいの大きなため息を吐いて肩を落とした。

「ハスフェルが罠を仕掛けて、罠に掛かったこいつに飛びかかって押さえ込んだんだよ。で、俺が持っていた剣で鞘ごと鼻っ柱をぶん殴った訳。で、一緒になって押さえ込んで……まあなんとかテイムに成功したんだよ。はっきり言って、これ以上無いくらいの力技!」

「うわあ、それはまた……私達には、かなり難易度高いですね」

「だよなあ、これ以上無いくらいの高難易度だよなあ」

 また顔を見合わせて、互いに無言で自分に何が出来るか考える。

「とにかく、まずは確保してもらわないと始まらないからな。で、俺が鼻っ柱をぶっ叩くから、クーヘンはテイムする為に頭を確保しろよ」

「じゃあ、この投網で頭部分を覆って確保します」

 収納袋から取り出したのは、川魚を捕まえる時に使う小ぶりな投網だった。

「なあ、今の作戦で良いか?」

 振り返って、ハスフェル達に聞いてみる。

「まあ、少々乱暴だが、今の作戦で良いんじゃないか? 投網は良い考えだと思うぞ。それを持っているなら、まずはそれでやってみろ。ああケン、サーバルは氷も嫌がるから、万一噛まれそうな時は、口の中に氷を放り込んでやれ。嫌がって逃げるぞ」

 あ、良いこと聞いた。じゃあ、いつでも氷を出せるように気を付けておこう。



 その時、不意に頭の中に声が聞こえた。

『見つけましたよ。少し弱らせてそっちへ追い込みますから、準備をお願いします!』

「うわあ、もう見つけたらしいぞ。クーヘン、とりあえず今の作戦でやってみよう。一応薬はあるけど、怪我には注意だぞ」

 急に叫んだ俺を、クーヘンは驚いたように見ている。

「あ、言ってなかったけど、俺、仲間内でなら少しだけど念話の術が使えるんだ。今、ベリーから知らせがあって、見つけたからこっちへ追い込んでくれるってさ」

「さ、さすがは樹海出身者ですね。しかも氷の術まで使えるんですか? 凄すぎますよケン!」

 満面の笑みでそう叫んだクーヘンは、大きなサイズになったミニラプトルのピノの横に走っていった。

 俺はニニとマックスの間に立って、いつでも動けるように少し腰を落として身構えた。



 しばらくの沈黙の後、いきなりマックスとニニが動いた。それと同時に、ピノとプティラも翼を広げて飛び出した。

 茂みから点々模様の何かが出てきたと感じた瞬間、物凄い鳴き声と唸り声が飛び交い。大暴れする何だかよく分からない巨大な毛の塊が、目の前の草地でものすごい勢いで転げ回っていた。

 唸り声とともに抜けた毛の束があちこちに飛び散り、思わず顔の前に手をかざして身を守るようにして身構えたまま固まっていたら、もう次の瞬間には静かになった。


「と、投網を投げる暇なんて、全くありませんでしたね。私にはそもそもサーバルの姿が、止まってくれるまで全く見えなかったです」

 投網を握りしめたまま、呆然と目の前の光景を見たクーヘンがそう言う。

 一瞬でも俺にサーバルの姿が見えたのは、多分観察眼のおかげだろう。だけどあの速さは無い。見えたところで、全く反応出来ないって。


 静かになった時目の前にいたのは、ニニよりも一回り小さな身体の、細かい斑点模様の巨大なサーバルが、マックスとニニに押さえつけられ、さらには両方の前脚を、プティラとピノに噛み付かれて完全に身動き出来なくなっている姿だった。

「うわあ、あの耳、デカい!」

 サーバルの特徴である大きな耳は健在で、ちょっとしたトレーなんかより大きな耳がせわしなく左右に動き回っていた。

 俺がぶっ叩く場面はどうやらすっ飛ばされたみたいだ。

 大きく息を吐いたクーヘンは、戸惑うようにしながらも何とか勇気を振り絞ってゆっくりと近付いて行った。

 手にはまだ投網を構えたままだ。


 クーヘンが近付くと、サーバルキャットは嫌がるように唸り声をあげて歯を剥き出しにして威嚇している。

 うわあ、すっげえ唸り声。

 後ろから見るクーヘンの足は、可哀想なくらいに震えている。だが、それでもしっかりとした足取りですぐ側まで近寄っていく。

 その時、一瞬嫌がるように首を上げたサーバルキャットが、大きな口を開けてクーヘンに噛み付こうとしたのだ。

「ごめんよ!」

 叫んだクーヘンが放った投網が見事に広がり、サーバルキャットの顔を覆う。

「今だ!」

 サーバルキャットが驚いた一瞬の隙を突いて上から飛び掛かったクーヘンは、文字通り全身でサーバルの顔を網の上から押さえ込んだのだ。

 嫌がるように身をくねらせるサーバルキャットだったが、四匹がかりで体と前脚を押さえつけられえている上に、顔を網で覆われて押さえ込まれてしまい、もう完全に抵抗出来なくなってしまった。

 それでも何度か嫌がるようにもがいていたが、しばらくするとすっかり大人しくなってしまった。

 まだしがみついたまま、震えているクーヘンが顔を上げた。

「私の仲間になるか!」

 半ば悲鳴のような叫び声が草地に響き渡る。



 ……沈黙。



「もう一度言うぞ。私の仲間になれ! 頼むからなってくれ!」

 その瞬間、サーバルキャットは鼻で鳴いたのだ。それは妙に幼いような甘えるような可愛い声だった。


「分かりました。貴方に従います」


 おお、どうやらこのサーバルキャットは雄だったようだ。


 その声を聞いて、マックス達が押さえ込んでいたのをやめて離れる。前脚を咥えていた二匹のラプトル達も口を離して下がった。

 クーヘンも、網を外して手をついて起き上がると一歩下がった。

 ゆっくりと起き上がったサーバルキャットは、一瞬光ってさらに巨大になった。

「おお、ニニと変わらないサイズになったぞ」

 俺の呟きに、振り返ったクーヘンは満面の笑みで親指を立てた拳を差し出した。

 俺も笑顔で同じく親指を立てた拳を差し出す。目を見交わした俺達は満足げに頷き合った。

「紋章はどこに付ける?」

 右手の手袋を外しながらクーヘンが聞くと、サーバルキャットは胸を反らした。

「ここにお願いします!」

 胸元を左手で撫でて場所を確認したクーヘンは、深呼吸をしてそっと右手を当てた。

「お前の名前はグランツ。栄光って意味だよ」

 また一瞬光り、胸元にクーヘンの紋章が刻まれた。そのままどんどん小さくなり、猫よりも少し大きいくらいで落ち着いた。

「おお、格好良い紋章だな」

 ハスフェルとギイの言葉に、俺も力一杯同意して拍手した。


 そして、サーバルキャットの凛々しさに感心した俺は、やっぱり俺もテイムしたいと本気で考えていた。

 うーん、だけどジャガーも捨て難いよな。

 本気で悩んでいると、またしても頭の中にベリーの声が聞こえた。

『上手く行ったようですね。じゃあ二匹目を追い込みますよ。良いですか?』

 その言葉に、クーヘンとグランツの所に駆け寄ろうとしていた俺は思わず躓いて転びかけた。

「だ、大丈夫ですか?」

 驚いたクーヘンの言葉に、立ち止まった俺は困ったように顔を上げた。

「あの……ベリーからの伝言で、二匹目を追い込むからって……」

 それを聞いたハスフェルとギイが堪える間も無く吹き出して、二人揃って大爆笑している。

「さすがは賢者の精霊だな。こうも簡単にサーバルを見つけるとはな。じゃあせっかくだからお前もテイムしろよ、いらないなら俺が捕まえるぞ」

「やります! 俺もサーバルキャット欲しい!」

 拳を握りしめてそう叫んで、俺はマックス達を振り返った。

「って事ですまないけど、もう一回お願い出来るか?」

 マックス達は嬉しそうに一声吠えてまた身構えてくれた。

「良いわよ、お仲間が増えるのは大歓迎だからね」

 ニニの言葉とほぼ同時に、またしても茂みから飛び出す影が見えた。

 うん、今度は斑点模様の動物の姿が見えたぞ。

 クーヘンから受け取った投網を握りしめ、俺はまたしても一斉に飛びかかり大格闘しているマックス達を見つめた。


 飛び散る毛束。そして響く唸り声。

 ようやく収まった時。マックス達が押さえ込んでいたのは、さっきよりもさらに大きなサーバルキャットだった。

 少し近付き、顔を目掛けて投網を投げる。

 手首をしっかりとひねって投げたおかげで、かなり綺麗に広がって顔全体を覆った。

 唸り声を上げるサーバルキャットの顔を俺は必死になって押さえ込んだ。腕だけでは押さえきれず、最後には足まで使って口を完全に決めて、もう必死になってしがみついていた。


 しばらく物凄い力でもがいていたサーバルだったが、なんとか静かになった。

 もう一度両手両足に力を込めて締め付けてから、顔を上げた俺ははっきりとサーバルの顔を覗き込んで言った。

「俺の仲間になるか?」

 出来るだけ、声に力を込めてはっきりと言う。

 一瞬、嫌がるように首を振ったが、もう一度締め付けてやると諦めたように鼻で鳴いた。

「分かりました。貴方に従います」

 おお、またしても雌だった。従魔達の女子率高いぞ、おい。

 マックス達が下がるのを見て、俺も網を剥がしてやり立ち上がった。

 うん、足がちょっと震えているのは……武者震いだって事にしておこう。

 起きあがって一瞬光ったサーバルキャットは、何とまだふた回り近く大きくなったのだ。

 マックスサイズだよ、これ……。俺、なんかよく分からないけど、すげえ奴をテイムしたっぽいぞ。良い仕事したかも。


「ええと、紋章はどこに付ける?」

 とにかく、やるべき事は済ませなくては。手袋を外しながらそう尋ねる。

「ここに、ここにお願いします」

 やっぱり胸を反らせて嬉しそうにそう言うので、手袋を外した右手をそこに当ててやる。

「お前の名前はソレイユだよ。よろしくな、ソレイユ」

 また一瞬光ったソレイユは、今度はどんどん小さくなって、グランツと同じくらいの、やや大きな猫サイズになった。

 おお、これなら連れていても問題無いぞ。

 飛び付いてきた小さくなったソレイユを抱きしめてやり、新たな仲間になったもふもふを満喫した。


 うん、やっぱりこのサイズの子は良いなあ。

 自分と仲間達の仕事に満足した俺は、もう一度ソレイユを力一杯抱きしめたのだった。

 ああ、癒される……。

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