それぞれの個性と俺の心配
「ああ、そうだったなあ。和室の障子をマニに破壊されたんだっけ。これは明日にでもドワーフギルドへ行って修理をお願いしないとな」
のんびりダラダラと飲んでいたんだけど、いい加減眠くなってきたので一抜けして部屋に戻ってきた俺は、部屋に戻るなり目に飛び込んできたすっかり忘れていた和室の惨状に、乾いた笑いをこぼしながらそう呟いたのだった。
夜でも元気な子猫達は、リビングから出たところで広い廊下を大はしゃぎしながら追いかけっこ状態で走り回っていた。冗談抜きで、そろそろ子猫達の元気さが身体の成長具合に比例してとんでもないレベルになってきたぞ。
廊下に、購入当初から飾ったままになっている巨大な壺とか謎の石像とか、生まれも育ちも一般庶民である俺には理解出来ない値段であろう骨董品が山ほどあるんだけど、頼むから勢い余って突っ込んで破壊したりしないでくれよな。
万一の場合、おそらくギルドマスター達が卒倒すると思うからさ。
結局、あまりのスピードで走り回って危ないからと、途中からニニとカッツェと巨大化したティグに捕まえられてしまい、最後は首根っこを噛まれてそのまま部屋まで連行されていった三匹だった。
それにしても、子猫達の体の成長具合は特に最近半端ないので、そろそろあの運び方も物理的に限界な気がするんだけど……ニニ達の顎や首は大丈夫なのかね?
とはいえ無抵抗で運ばれる子猫達は、冗談抜きでめっちゃ可愛い!
ああ、本当にどうしてこの世界には写真が無いんだよ! フクシアさん! 頼むから今すぐにカメラを発明してください!
脳内で絶叫しつつ、もう片付けは明日する事にして寝るよ!
サクラにいつものように綺麗にしてもらい、マックスとニニとカッツェが子猫達と一緒に待ち構えているベッドへ両手を広げてダイブしたよ。
今日の俺の位置は、マニとミニヨンの間だ。
ご機嫌で下手くそに喉を鳴らす愛しい音を聞きながら子猫達を順番に撫でてやる。
そして、改めて見て思った。明らかに大きさが違う。
「ううん、こうして見ると、大きくなったとは言ってもマニとミニヨンの大きさはかなり違うな」
生まれた時は、マジで倍くらい大きさが違っていた。マニとミニヨン。さすがに今はそこまでの違いは無いんだけど、改めて見てみると、骨の太さにはじまり筋肉のつき方も明らかに違う。
まあ、カッツェとニニでも骨の太さも筋肉のつき方も明らかに違うけど、あれは雄と雌の違いが大きいんだと思う。普通の猫でも、雄猫と雌猫って明らかに骨格からして違っていたもんな。
だけど、マニは一応小柄とはいえ雄だ。しかし、マニの骨格はカリーノよりも華奢な気がするぞ。
それに今のマニは、元気はあるけどミニヨンよりまだ二回りは小柄だ。
雌のカリーノと比べてもまだ小さいくらいだから、明らかに標準よりも小さいのだろう。ちなみに、若干だけど手足も他の二匹よりも短い気がする……。
それに三毛猫の場合は、いわゆるダブルエックスワイ。遺伝子的に繁殖能力も無い事が多いって聞いた記憶があるけど、マニはどうなんだろう?
何だかマニの将来が心配になってきて、腕を伸ばして小柄なマニを抱きしめてやる。
俺が動いたのが分かったのか、子猫達がすごい勢いで喉を鳴らし始めた。ああ、カリーノはニニのお腹をふみふみし始めた! ミニヨンとマニも、負けじとふみふみし始めた〜〜!
ああ、どの子も可愛すぎる〜!
喉の音一つとってみても、一番大きくて上手に鳴らしているのがミニヨンで、カリーノはちょっと高めのコロコロって感じの音だ。ちょっとときどき調子っぱずれになるんだけど、女の子っぽくてすごく可愛いと思うぞ。
だけどマニは、元の鳴き声も若干濁声なんだが、喉の鳴らし方も個性的だ。
何と言うか、近くで喉を鳴らしているの聞くと分かるんだが、喉じゃあなくて正確には鼻が鳴っている気がする。
ニニやカッツェは、俺がくっついている時に喉を鳴らすと、こう、胸の奥の方から地響きみたいに低く響くゴロゴロの音が聞こえるんだ。これはミニヨンやカリーノも同じで、鳴らし方の上手下手はあるのだろうけど、どの子も胸の奥から音が聞こえる。
だけど、マニは明らかに他の子達と違って……どう聞いても鼻が鳴っている。
音自体もブヒブヒとまでは言わないけれども、明らかにゴロゴロって擬音はつかないと思う。
これは単に鳴らし方が下手なのか、それともこの子はこれがデフォなのか?
ちょっとこれは要観察だな。
それでも、そんな俺の心配なんて知らないとばかりに、ご機嫌でミニヨンに負けないくらいに大きな音で喉を鳴らしているマニが、たまらなく愛しく思えた。
「そっか、こう考えればいいんだ。大きくなっても小柄なのは俺的には大歓迎なんだし、別に鳴き声や喉の音が若干他と違っていても、それはマニの個性なんだから別に構わない。小柄だけど健康なのは間違いないんだから、俺が心配する事なんて無いよな!」
そう考えたら、鼻が鳴っているのも個性だよな。
「面白いよなあ。同じリンクスでもそれぞれに個性があって、誰一人同じ子はいないんだからさ……」
大きな欠伸をしながらそう呟いた俺は、マニを抱きしめて首元に顔を埋もれさせて、ベリーのお休みの声を聞きながらそのまま眠りの国へ墜落して行ったのだった。