帰還予定と今後の事
「いやあ、これくらい気持ちよく食ってくれたら、もう笑いしか出ないなあ」
空っぽになった並んだ鍋を見て、もうそれしか感想が出ない俺。
何しろ、絶対に足りるだろうと思って出した大量の鍋だけど、どの鍋も中の具材が打者一巡どころか二巡も三巡もしている。
そして、締めに作ったいろんな味の雑炊やすき焼きのうどんまで、どの鍋もかけらも残さず綺麗に平らげられてしまったんだから笑いの一つも出るってもんだ。
いやあ、こいつらの食欲、甘くみていたよ。この調子で食べられたら、あれだけ仕込んだ料理もマジで無くなりそうだ。
ううん、これはもう一回各種肉をまとめて捌いてもらうべきかな? 割と本気で悩んでいると、立ち上がったシルヴァが近くにいたミニヨンにそっと抱きついた。
「ううん、本当に可愛い。今度会う時に、どれくらい大きくなっているのか楽しみよね」
「そうね。次に会う時に、どれくらいケンの従魔達が増えているかも楽しみにしておかないとね」
同じく立ち上がったグレイの言葉に、俺は目を見開く。
「ええ、ちょっと待ってくれよ。まさか、まさかもう帰るのか?」
まだしばらくいてくれると聞いていたから、その言葉に慌てて立ち上がる。
「今すぐ帰るってわけじゃあないけど、春にはちょっと別件で大仕事が待っているのよね。だからそれには、私達四人は行かないと駄目なのよね」
わざわざ別件で、って言うって事は、多分神様のお務め的な何かなのだろう。それなら確かに無理そうだ。
あれ、でも四人って事はもしかして……。
そこまで考えて今の台詞に込められた意味に気付いた俺が思わずオンハルトの爺さんを見ると、爺さんはにっこりと笑ってサムズアップを返してくれた。
「おう、俺はまたしばらく世話になるよ。まあもしかしたら途中で別行動を取る事があるかもしれんがな。春のハンプールの早駆け祭りには出ないと駄目だろうが」
笑ってランドルさんとまたしてもサムズアップを交わすオンハルトの爺さん。
そっか、オンハルトの爺さんはまたしばらく一緒にいてくれるんだ。
なんだか嬉しくなって笑顔で何度も頷いた俺は、一つ深呼吸をしてから二人してミニヨンに抱きつくシルヴァとグレイを見た。
「ちなみに、シルヴァ達はいつまでいられるんだ?」
「そうねえ。桜が咲く頃までには戻らないと駄目かなあ」
少し考えたシルヴァの言葉に、グレイやレオ、エリゴールも頷いている。
「バイゼンの南側の街道に桜並木があるって聞いたんだけど、じゃあ、その桜並木が満開になる頃には俺達もここを出発しようって言っていたから、一緒にその桜並木を見てから解散かな?」
「ああ、いいわね。あそこの桜並木は本当に綺麗だって聞くから、一度ちゃんと見てみたかったのよね」
「いいわね。じゃあそれでいきましょう!」
嬉しそうな彼女達の言葉に、苦笑いしたレオとエリゴールも頷いている。って事は、一緒にいられるのはあと半月くらいか。
少し前にハスフェル達に桜の花が何時ごろ咲くのかって聞いた時に、あと半月くらいだって聞いた覚えがあるんだよな。
今が三月の終わり頃くらいで、桜が咲くのは四月の中頃から終わり頃らしい。
元の世界で俺が住んでいた地域ではもっと早かった記憶があるんだけど、バイゼンの街はこれだけ雪が降るんだからこの世界の中でも最北に近い場所だ。となると、確かに桜の花の開花時期はかなり遅そうだからな。
となると、やっぱりもうちょい料理をした方が良さそうだな。
「それなら、お前らがここにいる間にバイゼンの地下洞窟へ行くか? それとも、前回は岩食いの発生のせいで途中までしか行けなかったから、改めて飛び地へ行くか?」
にっこり笑ったハスフェルの言葉に思わず全員の動きが止まる。そう言えば言っていたなあ。バイゼンの近くにも、恐竜がバンバン出る地下洞窟があるって。
それに、確かにあの飛び地も途中で慌てて帰ってきてそれっきりだったもんなあ……。
もう、この先の展開が読めてしまった俺が一人遠い目になって黄昏ていると、目を輝かせたシルヴァ達がどっちも行きたいはしゃぎ始めた。当然それに乗っかるリナさん達とランドルさん。
「分かった! だけどこの調子で食べられたらマジで作り置きが壊滅するから、俺はまたここで料理をさせてもらうよ! たまには狩りにも付き合うけど、水没地域は絶対嫌だからな!」
「ええ、ちゃんと守ってあげるから、一緒に行こうよ〜〜」
シルヴァとグレイの声が重なるが、ここは絶対に拒否しておく。地下洞窟までならまだしも、水没地域は絶対に行かないからな!
「弁当くらいは持たせてやるから、俺の分までしっかり稼いで来てください!」
開き直って断言する俺の言葉に、何故か拍手喝采になる一同。よし、弁当があれば俺の安全は保証されそうだ。
とはいえ、手持ちの鉱夫飯の在庫が全部無くなったので、今度街へ行ったら改めてまとめて注文しておこう。あれは、大食いのハスフェル達でも、一個あれば満足してくれるからな。
一応、空の弁当箱は全部回収してあるから、まずはあれに作り置きの料理を全部ぶっ込んでやればいいだろう。で、皆が狩りに行ってる間に、俺はまた料理を作ればいいな。で、たまには俺も一緒に行くと、よし、これで行こう!
今後の予定が決定したところで、何故かそのまま飲み会になった。
目を輝かせて神様達と話をしているリナさん一家とランドルさんを見ながら、ソファーに座った俺は吟醸酒をちびちびと飲みながら、くっついてきたマニにもたれかかり、短いけれどもふわふわで柔らかなマニの撫で心地をのんびりと満喫していたのだった。