子猫達のリビングデビューと鍋祭りの開始!
「ほら、ここがいつも食事をしているリビングだよ。ここも広いだろう?」
到着したリビングを、まずは子猫達の気がすむまで探検させてやる。
皆も笑っているが、黙って子猫達のする事を見ているだけで手は出さない。
恐怖のあまり抜き足差し足になった三匹は、ポンポンに尻尾を膨らませて背中の毛を逆立てつつ、それはそれは慎重に周囲の匂いを嗅ぎ、絨毯の匂いを嗅いでから目を輝かせて爪研ぎをして、いつも皆が座っている椅子の匂いを嗅いで回っていた。
いつもオンハルトの爺さんが昼寝をしていた大きなソファーの匂いを嗅いでしばらく考えていたミニヨンは、ソファーに飛び乗って座り、おもむろに毛繕いを始めた。
それを見たカリーノは、入り口横に置いてあるあまり使っていないもう一つの大きなソファーに飛び乗って座り、こちらもせっせと身繕いを始めた。
そしてマニは、一通りの匂いを嗅いで戻ってきた後は、何故か俺にピッタリとくっついて離れようとしない。しかも尻尾の膨れ具合も背中の逆立ち具合も、さっきよりも酷くなっている気がするぞ。
「マニ、何を怖がってるんだよ。さっきはあんなに勇敢だったのにさ」
笑った俺は、そう言いながらさりげなく手を伸ばしてポンポンに膨れた尻尾をそっと撫でてやる。
「おお、このカスカスの膨れた尻尾もいいねえ。ニニ達は膨れても元々の尻尾の毛が多いから隙間は見えないけど、まだ細い子猫の尻尾だと膨れたらこんな感じになるんだ」
笑ってマニの尻尾を撫でてやりながら思わずそう呟くと、近くに座っていたハスフェル達に笑われたよ。いいじゃん、試験管ブラシ状態の尻尾、めっちゃ可愛いんだからさ!
「だって、知らない匂いがするもん!」
プルプルと震えているマニの言葉に、思わず尻尾を撫でていた手が止まる。
「知らない匂いって……ああ、他の人の従魔達の匂いかな?」
普段から俺以外の人達の従魔達も、特に狩りに行く日はここに来て一緒に寛いでいる事も多い。それかと思ったが、マニは首を振っている。
「ちりうしゅしゃんやりゅりゅしゃんたちのにおいは、さっきおちえてもりゃいまちた!」
胸を張って答えるマニを見て納得する。
確かにさっきまで、全員の従魔達と一緒になって大はしゃぎで走り回って遊んでいたんだから、それを今更怖がる方がおかしい。
「ええと、あ! シルヴァ達の匂いは……もちろん知ってるよな」
あれだけ抱きついたり撫でたりしているんだから、シルヴァ達やリナさん達の匂いだって、子猫達は絶対に知っている。
「ええ? じゃあ誰の匂いだよ?」
もうここの工事をしてもらってかなり経つから、工事に来てくれていた職人さん達の匂いって線は無いだろう。それ以外だと、宴会の時に職人さん達やギルドマスターをここに招待したけど、その匂いが今まで残っている線も有り得ない。
「となると……ええ、まさかとは思うけど、知らないうちに誰かが入り込んでいるとか?」
とんでもなく広いこのお城。泥棒が本気で隠れれば、俺達が気が付かない可能性も……。
「いや、さすがにそれは無いだろう。仮に俺達は気付かなかったとしても、従魔達は絶対に気がつくぞ」
割と真顔のハスフェルの言葉に、それもそうだなと納得する。このお城のセキュリティ能力は半端ないもんな。
「じゃあ、誰の匂いだよ?」
顔を見合わせて揃って首を傾げ、まだ震えているマニをそっと抱きしめてやる。
「なあ、その知らない匂いって、どこで嗅いだか教えてくれるか?」
「ええとね、あっち!」
涙目になったマニが示してくれた場所を見て、俺たちは揃って小さく吹き出した。
そこは、雪スライム達をテイムする為にいつもケンタウロス達が集まっていた場所だ。
最近ではもうテイムラッシュも落ち着いているけど、時々狩りのお誘いにケンタウロス達が来てくれていたから、確かにあそこなら知らないケンタウロス達の匂いがついていてもおかしくはない。
「大丈夫だよ、マニ。あそこに残っているのはケンタウロス達の匂いだ。ベリーの仲間達だよ。知ってるだろう?」
両手で、マニのまん丸な顔を包むみたいにしてそっとおにぎりにしてやる。
「べりいのにゃかま?」
目をぱちくりとさせたマニが、不思議そうにそう言って首を傾げる。
ああ、なんて可愛いんだよ! 俺を萌え殺す気か!
小首を傾げるマニは、そりゃあもうたまらないくらいに可愛い。
殺人毛玉、パワーアップしております!
両手で顔だけじゃなくてマニの全身を撫で回してやる。
匂いの元が分かって安心したらしいマニも喉を鳴らし始めたもんだから、俺はマニに抱きついてまだまだヘタクソな喉の音を堪能したのだった。
「ああ、悪い。食事にしようって言っていたのに!」
しばらくマニとくっついて寝落ちしかけたところで、俺の腹が鳴って我に返る。
「あはは、やっと気がついてくれたな。そろそろ腹の減り具合が酷くなってきたから、起こそうかって話をしていたところだよ」
笑ったハスフェルの言葉にもう一回謝って立ち上がる。
「鍋にしようって言っていたんだよな。じゃあ、作り置きがたくさんあるから出していくよ」
いつもの鞄に即座に飛び込んでくれたサクラから、大量に仕込んであった色んな鍋料理を取り出してコンロに並べていく。
「ええと、これは岩豚のキムチ鍋。それからこっちがグラスランドブラウンボアの牡丹鍋で、同じ味噌で、こっちは岩豚の牡丹鍋。脂身の多そうなところを選りすぐって入れたから、絶対美味いと思うぞ」
味噌鍋が二つ並ぶのを見て不思議そうにしているギャラリーに、俺が得意げに説明する。
拍手大喝采になったのは言うまでもない。
「で、こっちがシンプル水炊き。どっちも胡麻だれかポン酢でどうぞ。ちなみにこっちがハイランドチキンの胸肉と手羽団子。こっちの鍋がグラスランドチキンの胸肉と手羽団子だよ。すき焼きも、定番の牛肉と、岩豚でも作ってみた。それから、豆乳鍋も用意したよ。具は、こっちが岩豚で、こっちはいろんな鶏肉混ぜ混ぜ。それからこっちがミルフィーユ鍋、お出汁はトマト味と、シンプルコンソメ味、それからホワイトシチュー味だよ。まだまだあるから、お好きなのをどうぞ! 各種肉や野菜が無くなったら、用意してある具を入れてください! お出汁が足りない時は言ってください! 以上! あとは好きに食え!」
ずらっと並んだ大量の鍋を見て思わず笑ったよ。
いくらなんでもこれだけあれば、この人数でも足りる……よな?
それぞれの携帯鍋を手に嬉々として好きな鍋に集まる顔ぶれを見て、若干遠い目になった俺だったよ。
うん、とりあえず俺も食おう。大丈夫だ。仕込みはまだまだ用意してある……。