お外デビュー! ミニヨンとカリーノの場合
「ほら! これで遊びなさい!」
大声でそう叫んだオンハルトが、持っていたさっきのロープで作った猫じゃらしをそのまま思い切り放り投げた。
それを見たマックスが、一声吠えてそれは見事なハイジャンプで猫じゃらしを空中キャッチする。
そしてそのまま走り出した。
当然のように巨大化した猫族軍団が目を輝かせてその後を追う。
「ウッピャ〜〜〜〜!」
マニも、何やら不思議な奇声を上げてその後を追いかけ始めた。
追いつかれそうになったところで、マックスが咥えていた猫じゃらしを首を振って放り投げる。
今度空中キャッチしたのは、巨大化したティグだ。そして当然のようにそのまま咥えて走り出す。
他の従魔達と一緒に走っていると、生まれた頃に比べれば大きくなったとはいえ、マニは踏み潰されないかと心配になるくらいに小さい。
だけど、そんなの知らないとばかりに走る姿はそりゃあもう元気一杯だ。試験管ブラシみたいなボワボワに膨れた尻尾がピンと立っているのが何とも可愛らしい。
そして、マニと一緒になって追いかけているけどどの子達もちゃんと心得ていて、明らかにいつもよりも加減してゆっくりと走っている。
つまりそれは、マニの全力疾走の速さだ。
ギリギリ届かない距離を保ちながら、目の前をチラチラする猫じゃらしを追いかけてそれはもう必死になって走るマニ。そして、ちゃんとそんなマニの様子を見ながら加減してゆっくり走ってくれているティグ。
「ちゅかまえたにゃ〜〜〜!」
とうとう追いついて、念願の猫じゃらしを咥えて転がるマニ。
そのまま、両手、じゃなくて両前脚で捕まえて猫キック猫キック猫キック!
見事な猫キックの連続攻撃が炸裂する。
転がったまま散々蹴り倒したところで、爪に引っ掛けていたロープが勢い余って外れてしまい、勢いよく吹っ飛んでいく。
当然、皆がそれを見逃す訳はなく、今度はリナさんの従魔のルルちゃんが間一髪で紐の先を咥えて走り出した。
当然、全員がそれを追いかける。
「ふ、ふびゃあ〜〜〜!」
起き上がったマニも、慌てたようにまた奇声を上げながら後を追いかけ始めた。
ちなみに、マニと一緒に走っているのは全員の従魔達の中の猫族と、犬族だ。それからセーブルだ。
それ以外の草食チームと鱗チームは、全員が今の所は見学しているみたいだ。
まあ、ウサギコンビならまだしも、イグアナ達はあの中に紛れたら、仮に最大まで巨大化したとしても、走り回るあいつらに蹴り飛ばされて弾き出されるのが目に見えているよな。
うん、適材適所。無理は駄目だ。
巨大化したお空部隊は全員揃って上空を旋回していて、時折不意に降下してきては猫じゃらしを奪おうとしているみたいだ。
しかし、わざとなのかどうかはわからないが今のところ一度も成功している様子はないのは、どう言う事だ? だけど、誰かが降下してくる度にマニの楽しそうな声が聞こえるから、あれは恐らくわざとなんだろうな。
「ええと、それはそうと……ミニヨンとカリーノはどうなったんだ?」
しばらく楽しそうなマニ達の様子を見て和んでいたんだけど、いつまでも出てこない二匹を思い出して玄関を振り返る。
すると、ちょうど開いたままだった扉からニニとカッツェが出てくるところだった。
しかし、ニニとカッツェに捕まって首を咥えられて某宅急便のマークみたいにして運ばれてくるカリーノとミニヨンを真正面から見てしまい、俺は堪える間も無く吹き出したのだった。
「ごちゅじん! わりゃうにゃんてひどいにゃ!」
「たちゅけてくだちゃい!」
笑った俺を見て、ぶら下がったままでジタバタと暴れつつ文句を言う二匹。
「それは無理な注文だなあ。残念だけど、俺ではニニにもカッツェにも勝てないって」
笑いながらそう言ってやると、またしても揃って抗議の声を上げる二匹。
しかし、ニニもカッツェもそんなの知らん顔で進み出て、無情にも咥えていた二匹を、ブン! って感じに庭に放り出したよ。ううん、スパルタだねえ。
「フギャア〜〜〜〜!」
「フニャア〜〜〜〜!」
二匹の悲鳴が揃って響き渡り、庭を走りまわっていたマニ達が何事かと足を止める。
そのままゴロゴロと転がった二匹は、奇しくもさっきマニが飛んで行って落ちたのと同じ場所で止まった。
完全に恐怖で硬直する二匹だったが、誰も助けようとしない。
「ヒ、ヒ、ヒ……」
まるでひきつけを起こしたみたいに、転がった体勢のままで硬直しているミニヨン。
そして、声も出せずに仰向けの状態のままで、空中を掻くみたいに四本の脚をジタバタとさせるカリーノ。
奇妙な沈黙の時間が流れる。
「いっちょにあそぶのにゃ!」
その時、駆け込んできたマニがそう言いながらミニヨンに文字通りダイブした。
「フガ〜〜〜!」
突然飛び掛かられてパニックになるミニヨン。
だけど、起き上がって仁王立ちになったまま、また固まる。おお、尻尾だけじゃあなくて背中の毛がツンツンに逆立っている。
マニはそんなミニヨンを放り出して、まだ硬直したまま転がっているカリーノにも飛びかかって行った。
「フビャウ!」
これまた奇妙な悲鳴を上げて、飛び起きてそのまま真上に飛び跳ねたカリーノ。こっちも尻尾も全開だし背中が見事に逆立っている。
「おおすごい、多分3メートルくらいは余裕で真上に跳ねたぞ」
俺の呟きにあちこちから吹き出す声が聞こえる。
そして、草地に着地したカリーノも、両前脚を踏ん張ったまま固まってしまった。
しかし、さっきのマニと同じで、前脚がわぎわぎと動いて草を握ったり離したりしている。
次のセリフが予想出来た俺達は、黙って様子を見ている。
「にゃにこりぇ! きもちいいにゃ!」
目を輝かせた二匹の声が重なり、もう一度マニが飛び跳ねて二匹まとめて押し倒す。
「うきゃ〜〜〜!」
これまた綺麗に揃った歓声の直後、起き上がった三匹はまるで絡まり合うみたいにして一斉に走り出した。
当然、待ち構えていた他の子達が一斉にその後を追いかける。
ヤミーが咥えていた猫じゃらしをポーンと投げ飛ばし、ファルコが空中でキャッチして、また別の方角へ投げ落とす。
あんなに怖がっていたのは何処へやら。一転して歓声を上げて猫じゃらしを追いかけて走り回るミニヨンとカリーノを見て、俺達は揃って大爆笑になったのだった。