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狩りに出発!

 ぺしぺしぺし……。

 いつもよりもかなり強いモーニングペシペシに、俺は無意識にふわふわの毛の中に潜り込んだ。

「おーきーろー!」

 ぺしぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみふみ……。

「ああ、そうそう……この肉球の愛おしい事……」

 カリカリカリカリ……。

「うん、分かってるからもうちょっとだけ……」

 そう呟いた次の瞬間、額のあたりをカリカリやっていたプティラの爪に、不意に力が入るのが分かって俺は一気に目を覚ました。

「痛い! 待って待って! 起きるから爪は引っ込めてくれって」

 俺の叫びに、前髪の生え際の辺りを抑えていた小さな前脚がおとなしく引っ込められて、思わずホッとため息を吐いた。

「いやあ、朝からスリル満点なモーニングコールをありがとうな」

 腹筋で起き上がって、俺を覗き込んでいるタロンとプティラを撫でてやった。

「やっと起きたね。今日は早起き!」

 ベッドの枕の上に座ったシャムエル様が、そう言って笑って手を振っている。

「おはようございます。起こしてくれて有難うだけど、正直言ってまだ眠いよ」

 顔を寄せてくれるニニとマックスにも挨拶をしてから、俺は欠伸をしながら大きく伸びをした。


 見渡した部屋はまだ薄暗く、夜明け前である事がわかる。

「ええと、さすがにこの時間から朝飯は食えないなあ。目覚ましにコーヒーだけ飲んどくか」

 そう呟いてベッドから降りて、まずは顔を洗いに水場へ向かった。


 

 顔を洗ってサクラに綺麗にしてもらってから、身支度を整えているとハスフェルから念話が届いた。

『おはよう。もう起きてるか?』

『ああ、おはよう。今顔を洗って装備を整え終わったところ。目覚ましにコーヒーでも飲んでから行こうかと思ったんだけど、もう行くか?』

『ああ、それなら俺も飲みたいな』

『じゃあ、ギイも呼んで……』

『了解。じゃあ俺もそっちへ行くよ』

 いきなり割り込んできたギイの念話の声に、俺は飛び上がった。


 おう、さすがは神様友達。念話も標準装備なんだな。



 すぐにノックの音がして、アクアが開けてくれた扉から全員が入って来る。

「おはようございます。さすがにちょっと眠いですね」

 俺と同じで、朝には弱いらしいクーヘンも、まだ眠そうにしている。

「二人揃って鞍の上で寝るなよ。落ちても知らんぞ」

 各自のカップに、作り置きのコーヒーを入れてやりながら俺はギイの言葉に吹き出した。

「確かにそうだな、寝ないように気をつけるよ。あ、それならサクラとアクアに落ちないように支えてもらってれば良いんだよな。もし落ちそうになったら支えてくれよな」

 足元にいるサクラとアクアを見下ろしながらそう言うと、二匹揃って肉球マークがこっちを向いた。

「了解! 落ちないように支えてるから、安心して寝てて良いよー!」

「よっしゃあ! 支えてるから寝ても良いって許可貰ったぞ」

 その言葉に、コーヒーを飲み掛けていた三人揃って、吹き出しそうになって揃って奇妙な声が出た。

「お、お前は……人がコーヒーを飲んでる時に笑わせるな!」

「ええ、お前らこそ、人の部屋を汚すんじゃないぞ」

 ちょっとこぼれた胸元の汚れを、ミストとドロップがそれぞれ綺麗にしている。

『へえ、普通のスライムにも浄化みたいな事が出来るんだな』

 ハスフェルに話しかけてみると、小さく笑ったハスフェルが頷いた。

『あれはただ単に、濡れた水分を吸い取っているだけだよ。浄化の能力がなければ、汚れそのものを取る事は出来ないぞ』

『ああ、成る程ね』

 なんとなく納得していると、ギイがハスフェルが連れているスライムのミストをじっと見ている。

『何故、スライムなんぞを連れているのかと思っていたが、浄化の能力持ちとはな。成る程、上手い事考えたな』

『浄化だけじゃなくて、収納の能力も付与してもらったぞ。お陰で大量のジェムを管理する手間が省けたよ』

 目を瞬いたギイは。無言で俺を見た。

「ケン、この際だから俺にもスライムを一匹テイムして譲ってくれるか。見ていると可愛くなってきた」

 わざわざ声に出してそう言ったので、俺も笑って普通に返事をした。

「ああ良いよ、じゃあ見つけたら一匹テイムして譲る事にするよ」

「スライムって、一緒にいると本当に可愛いですよね」

 クーヘンが、ドロップを撫でながらそう言い、俺も大きく頷いて、サクラとアクアをそっと撫でてやった。

 おお、ツルツルのひんやりで、暑くなってきているしちょっと気持ちいいかも。



 宿泊所を出た俺達は、そのまま一列になってハスフェルを先頭に、夜明けと共に、開いている城門を出て街道を離れて一気に駆け出した。

「今まで、必要なら馬を使っていたが、騎獣は桁違いに足が速くて良いな。俺も一匹欲しくなってきたぞ」

 ギイの言葉に、俺は嬉しくなった。

 良いねえ、大型の騎獣を連れている奴が一人でも増えてくれたら、街の人達も少しは慣れてくれるかもしれないぞ。

「俺は別にギイなら構わないと思うけどな。よかったらテイムするよ。何が良い? ちなみにハスフェルが乗ってるシリウスは、影切り山脈の樹海でテイムしたんだよ」

 俺のその言葉に、クーヘンが驚いて振り返った。

「ええ、それは凄い。やっぱり樹海の魔獣は大きさが違いますね」

「それなら俺はブラックラプトルが良いな。手伝うから一匹テイムしてくれ」

「ああ良いな。お前なら似合いそうだ」

「じゃあ、明日の予定はそれで決まりだな」

 笑ったハスフェルがそんな事を言ったお陰で、ギイも同意するように大きく頷き、どうやらこの後の予定が勝手に決められたみたいだ。


 あれ、俺って実は予定に関する決定権……ゼロ?




 かなりの時間走り続け、ようやく止まった。

「ちょっと休憩して朝飯にしよう。ケン、ギイの分も食事を頼めるか」

 ハスフェルの言葉に、俺は笑って頷いた。

「もちろんそのつもりだよ。さて、何が良いかな?」

 遠いって言ってたから、時間のかかるものじゃない方がいいな。

 って事で、手早く大きい方の机を取り出し、椅子はありったけ取り出して準備を始めた。

「あ、大きい机に二つと小さい方に一つ付いていたから、今までは三人とも座れていたけど、ギイが増えたら四人じゃないか。椅子が足りないぞ」

 そう呟いた時、そっと背中を叩かれたので振り返るとクーヘンが笑っている。

 彼は、収納袋から昨日の道具屋で買った自分の椅子を取り出してくれた。

 思わず無言で親指を立てて、お互いの拳を上げて頷き合った。


 手早く食べられるようにって事で、屋台で買ったハンバーガーやホットドッグ、サンドイッチなんかを色々適当に並べて好きに取れるようにしてやった。

「ほう、食料をそんな風に作った状態で持っているのか」

 感心したようなギイの言葉に、俺は笑って頷きシャムエル様を見た。

 机の上で、タマゴサンドを叩いて自己主張している。

『時間停止の収納だからこそ、だよ』

 一応、時間停止は珍しいらしいので、念話でそう説明しておいた。

『成る程な。そんなやり方は考えた事もなかったよ。良い事を聞いた。俺も屋台で色々買っておこう』

 顔を見合わせて小さく笑い合い。俺はタマゴサンドとホットドッグを取った。


「皆コーヒーで良いか? 入れるならミルクはこれな」

 使いかけの牛乳瓶も取り出して、コーヒーの横に置いておく。

 皆好きに取ったので、残りはさっさと片付ける。

 クーヘンは、早速買った三本足の椅子を取り出して使っている。

 真ん中あたりに三本の棒をまとめた金具があって、そこを中心に棒をひねって開く形だ。

 簡単だけど、案外座り心地が良いんだよな、これ。


 机の上で、自己主張しているシャムエル様には、玉子の部分がたっぷりのタマゴサンドを切ってやり、オーレも少しだけいつもの盃に入れて置いてやった。

 喜んで食べているのを眺めながら、俺も自分のタマゴサンドを口に入れた。


 それぞれに食事を終えて少し休憩したら、目的地までは休み無しで一気に走り切った。

 目的地に着いたのは、もう、太陽が頂点に差し掛かろうとしている時間だった。



「へえ、かなり走ったけど、この辺りの草原は、またちょっと植生が違うな」

 今までのはイネ科の雑草って感じだったのが、もうちょっとモジャモジャした赤みがかった雑草って感じで、低木の木の茂みもあちこちに見えているのだ。

「この辺りが地脈の吹き出し口で、目的のレッドグラスサーバルの巣がある場所だ。とは言え他のジェムモンスターと違って肉食系は出てくる数が極端に少ない。だが、今出ている個体も基本的には巣のある辺りを中心に行動しているから、この辺りを中心に探すぞ」

 ハスフェルの言葉に、俺とクーヘンは真剣な顔で何度も頷くのだった。


 さて、初の肉食系ジェムモンスターとのご対面だぞ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、カマキリが肉食だから初では無いでしょう。
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