まずはテイムだ!
「子猫達と外で遊べるの〜〜?」
「素敵! それなら皆も誘って行きましょうよ!」
胸元で両手を握りしめたシルヴァとグレイがそう言い、ハスフェルとギイが、リナさん達とランドルさんを呼びに行ってくれた。
そろそろ暖かくなってきた事だし、いつも外へ行く時は留守番の鱗チームとお空部隊もマックス達と一緒に外へ出るみたいだ。
「よし、それじゃあ行くか。おいで。お外デビューだ」
笑った俺はそう言いながら三匹を順番に撫でて、薄い方のマントを羽織ってから従魔達を全員引き連れてシルヴァ達と一緒に廊下へ出た。
まあ、まだ庭の雪はもうほぼ溶けてはいるけど、ここは街と違って北側の鉱山から吹く風がまともに吹き付けるから、まだまだ寒いんだよ。
ハスフェル達の知らせにすぐにリナさん達とランドルさんも部屋から出てきたけど、当然のように全員が従魔達を連れている。
「ああそっか。俺の従魔達とはいつも一緒に遊ばせていたけど、そう言えば他の人達の従魔達とは、まだ一度も会わせていなかったな」
今更ながらその事実に気づいてちょっと慌てる。ミニヨンの頭の上に座っているシャムエル様に思わず尋ねた。
「なあ、子猫達と皆の従魔って一緒にしても大丈夫だよな?」
言葉が通じるとは言っても、まだテイムしたわけではない。
「ああ、そっか。もしかして知らない魔獣やジェムモンスターを怖がるかもしれないねえ。ええと、それならもういっその事ここでテイムしちゃえば? あの子達にはまだ紋章を授けていないでしょう? 紋章を授けてあげればもっと知能が上がるし、言葉もしっかり通じるようになるから、いいんじゃない?」
尻尾の手入れを始めたシャムエル様に簡単にそう言われて俺の足が止まる。
「ああそっか。言葉が通じるようになればもうテイム出来るんだったよな」
いつも一緒にいるからすっかり忘れていたけど、確かにもう拙いとはいえちゃんと言葉が通じているんだから、外へ出る以上は、その前にきっちりとテイムしておくべきだよな。
足を止めた俺に気付いた周りの皆が不思議そうに立ち止まる。
「どうかしたか?」
「忘れ物でもしたか?」
笑ったハスフェルとギイの言葉に、俺は笑って首を振る。
「違うよ。もう言葉が通じるんだし、せっかくだからテイムしたほうがいいかと思ってさ。だって、外へ出るのなら何があるかわからないじゃあないか。万一、何かに驚いて子猫達が逃げ出したりしたら大変だろう? 紋章無しの魔獣が貴族の別荘街に出没とかしたら、それこそ討伐隊が組まれるレベルの大騒ぎになるぞ」
笑った俺がそう言って近くにいたマニをそっと撫でると、マニだけでなく三匹がそれこそキラッキラに目を輝かせて即座に良い子座りして並んだ。
「ああ、確かにそうだな」
「外へ出る以上、万一の場合を考えるのは正しいよ」
「そうだな。ならばここでテイムするといい。見届けさせてもらうよ」
ハスフェルとギイの言葉に続き、オンハルトの爺さんが優しく笑ってそう言ってくれた。
それを聞いたリナさん達とランドルさんも、目を輝かせてこっちを振り返った。
笑って頷いた俺は、すぐ側にいたマニを見る。
キラッキラの目をして俺を見つめるマニの額に、手袋を外した右手をそっと当てる。
「俺の仲間になるか?」
いつものように力を込めてそう言うと、もうこれ以上ないってくらいに嬉しそうに目を細めたマニが俺の手に力一杯頭を擦り付けてきた。そのまままるで撫でられるかのように自分で頭を動かして、セルフよしよし状態になってる。ああ、可愛さが大渋滞を引き起こしているぞ。
尊すぎて直視出来ないんですけど!
「はい、あにゃたにちたがいまちゅ!」
必死で無言で悶絶していると、いつもの舌足らずなマニの声で答えが聞こえた。そして、興奮した尻尾がブワって感じに膨れてパタパタと振り回された直後に、一瞬ピカッと光る。
「ええと、紋章はどこにつける?」
なんとか気を取り直して尋ねた俺の言葉に、良い子座りしたマニがこれ以上ないくらいに胸を逸らす。
「みんにゃと、おにゃじとこりょにおにぇがいちまちゅ!」
ニニとカッツェが揃って胸を張って座るのを見て、笑った俺は生まれた頃に比べたらずいぶんと大きくなったマニの胸元に右手を当てた。
「お前の名前はマニ、改めてよろしくな」
もう一度ピカッと光って、手を放したときにはいつもの俺の紋章が綺麗に刻まれていた。
ものすごい音で喉を鳴らし始めたニニとカッツェが、揃ってマニを舐めまわし始めた。マニもご機嫌で喉を鳴らしながら、こちらもすごい勢いでニニを舐め返している。
「よし、じゃあ次だな」
目を輝かせて待ち構えているミニヨンとカリーノも、順番にテイムして俺の紋章を刻んだのだった。
最後のカリーノに紋章を刻んだところで、待っていてくれた全員から拍手が沸き起こる。
「おめでとう。これで三匹とも正式にお前の従魔だな」
改めてそう言われて、なんだか感極まってちょっと涙ぐんだ俺だったよ。
「よし、これで遊ぶ準備完了だ! 行こうぜ!」
誤魔化すみたいに俺が大きな声でそう言うと、皆も笑って頷き合い、全員揃って外へ向かったのだった。