楽しい休日の過ごし方
「ああ、やっぱりケンが作ってくれるお料理はどれも美味しいわ」
「この、岩豚トンカツサンド、最高よね!」
山盛りに取り分けた料理を、それはそれはご機嫌であっという間に平らげていくシルヴァとグレイ。そして何故かその隣に座って、彼女達ほどではないもののこちらも山盛りに取ってきた料理を嬉々として平らげているリナさん。
どうやら貴重な女性冒険者同士で気が合ったみたいで、先ほどから三人でご機嫌に顔を寄せて内緒話で盛り上がっている。
だが、漏れ聞こえる会話の端々に、今時の男達は〜とか、頼りなくて〜とか、もう少ししっかりして〜等々、とっても不穏な単語がちらほらと聞こえるので、俺は何も聞こえないふりをしてそっと椅子をずらして彼女達から距離を取った。
神様軍団は慣れているのか、ハスフェル達も含めて全員知らん顔をしているが、アルデアさんやアーケル君達、それからランドルさんが揃ってドン引きしていたので、ちょっと親近感を覚えた俺だったよ。
うん、何も聞こえない聞こえない……顔を見合わせた俺達は、黙って頷き合い黙々と自分の食事を続けたのだった。
一応シャムエル様にも、コーヒーと一緒にいつものタマゴサンドと岩豚トンカツも一切れお皿に取り分けてやり、それからコーンスープもお椀に入れて渡しておいた。
既にタマゴサンド三種盛りを平らげているんだから、そんなに沢山はいらないらしい。
まあ、これでも俺的には充分一食分はあると思うんだけどな。最近のシャムエル様の食う量はマジでおかしい。あの小さな体の、一体どこにそんなに入るんだ? 冗談抜きで四次元胃袋なのか?
そんな事を考えながらご機嫌なシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、俺も岩豚トンカツサンドに大きな口を開けてかぶりついたのだった。
食事の後は、もう今日は休憩って事だったので、部屋に戻ってまた子猫達と一緒に思いっきり戯れて遊んだ俺だったよ。
しかし、言葉が通じるって最高だね!
何しろ戯れて遊んでいてうっかり爪に引っ掛かれそうになったり、甘噛みした時の牙が痛かったりすると俺はすぐに大声を上げて痛いアピールをする。怪我をする前にとにかくオーバーリアクションだ。
そうすると子猫達は慌ててやめてくれるし、これくらいで俺が痛がるんだって事をすぐに理解してくれる。
おかげで、ギンギンに尖った子猫独特の細い爪がまだ若干出ている大きな手……じゃあなくて前脚で腹をモミモミされても、もう怖くなくなったよ。
途中、子猫達に埋もれて寝落ちもして、その後乱入してきたシルヴァ達に子猫達を強奪され、そこから神様軍団全員での子猫争奪戦になったのだった。
もちろん、手荒な真似はしないよ。
オンハルトの爺さんが即席で作ってくれた猫じゃらし。要するに、長めのロープの先に細いロープを束にしてくくりつけてからロープを解しただけので、遊んだんだけど、これがもう最高にツボに入ったみたいで、子猫達は大はしゃぎ。
鞭みたいにぶんぶんと振り回される巨大猫じゃらしを追いかけて、右に左に一緒になって大暴れしていた。
それを見たレオとエリゴールが、手持ちのロープで同じ猫じゃらしを作り、ハスフェルとギイまでが同じく作り始めた。お前ら案外器用なんだな。
そして、それを振り回しながら俺の部屋を全力で走り回る男達。そしてそれを見て大笑いしているシルヴァとグレイ。
もう、子猫達は目をキラッキラに輝かせて、右に左に走り回る彼らのあとを追いかけ回していたよ。
そして当然、それを見て我慢出来ずに乱入する猫族軍団の面々。
最後にはニニとカッツェまで乱入して、それはもう大変な大騒ぎになったのだった。
別に遊ぶのは構わないんだけど、勢い余って和室の障子にマニが頭から突っ込み、破けて外れた障子が豪快にマニごと吹っ飛んだのを見た時には、ちょっと遠い目になったよ。
うん、明日は街へ行ってドワーフギルドに修理を依頼だな。
一応やらかした事は分かっているみたいで、後でマニがすっごく申し訳なさそうに俺のところへ甘えに来たのには笑っちゃったよ。
まあ、だけど子猫が生まれると分かった時点で、こういうのは想定済みだって。
シルヴァ達は、引っ掻き傷が怖くて子猫と遊べるか! って力説していたけど、それはある意味普通の大きさの子猫の場合だと思うな。
そもそもの大きさが桁違いなこいつらの場合。
破壊が怖くてリンクスの子供と遊べるか! って俺なら断言するな。あ、もちろん怪我は駄目だよ。それは俺も怖いから嫌だって。
ううん、それにしてもあいつらと子猫達だったらテンションや体力的にちょうど良さそう。
俺だと、一緒に遊んでいてもすぐに体力切れて座り込むし、そもそも子猫の全力疾走になんて全くついていけないからな。
そこまで考えて、破れた障子を見た俺はハスフェル達を振り返った。
「なあ、今ならまだ明るいし、ちょっと子猫達を外へ出してみるか? そろそろお外デビューさせてもいいんじゃあないか? なあ、どうだ?」
最後の質問は、ニニとカッツェに聞いてみる。
「ああ、いいわね。そろそろお外も暖かくなってきたし、ここのお庭は広いから子猫達を思い切り走らせてあげられるわね」
目を細めたニニの答えに、この後の予定が決定したのだった。