お休みの日
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きるってば……」
いつものように、半ば無意識で返事をした俺は、不意に目を覚まして慌てて体を起こした。
「ええ、ごちゅじん、おちちゃった〜〜!」
「おちちゃだめにゃの!」
腕の中にぎゅうぎゅうになって収まっていたマニとカリーノが、揃って得意げにそう言って目を細める。
ああ、なんだこれ。可愛すぎる……。
無言でもう一回子猫達のお腹に顔を埋めた俺は、そこでゆっくり深呼吸をしてから起き上がった。
「やっと起きたね。もう、お腹ぺこぺこなんだけど!」
ニニの腹の上でもふ毛に埋もれたシャムエル様が、若干棘のある声でそう言いながら飛び跳ね始める。
「おお、そりゃあ申し訳ない。だけど、こんな可愛い子達にくっつかれて、起きろってのは無理な事だと思うなあ」
わざとらしくそう言ってもう一度マニに抱きつこうとしたところで、一瞬で俺の伸ばした腕の上にワープしてきたシャムエル様に、顎の下辺りをグッと押し返される。
「だ〜か〜ら〜〜〜私はお腹が空いています!」
「分かった。起きるから、それはやめてくれ。地味に痛い」
ちっこいシャムエル様の手で顎の先をぐいぐいと押されると、骨に当たって痛いんだよ。
仕方がないので、幸せパラダイス空間から抜け出てベッドから降りる。
「ふああ、ちょっと体がまだ強ばってるかなあ」
腕を回しながらそう呟き、とにかく顔を洗いに水場へ向かった。
いつものように顔と手を洗って、跳ね飛んできたサクラに綺麗にしてもらった俺は、スライム達を全員順番に水槽に放り込んでやってから部屋に戻った。
今日は休日にするので、武器も防具も無し。まあ服の下に身につけている鎖帷子だけでも、十分すぎるくらいの防御力ありそうだけどな。
まあ、身の安全度は高いに越した事はないから、いい事にする。
待ちきれないのか、テーブルの上で飛び跳ねる毛玉状態になっているシャムエル様には、俺が自分で収納しているタマゴサンド三種盛りを出してやった。
「わあい、タマゴサンド三種盛りいただきました〜〜〜! では、いっただっきま〜〜〜す!」
「サクラ〜、遊んでるところを悪いんだけど、コーヒー飲みたいから出してくれるか」
「はあい、ちょっと待ってね〜〜!」
水場から元気な声が聞こえて、すぐにサクラが跳ね飛んできてくれる。
「はいどうぞ。ええと、ピッチャーごとひとつ渡しておくね。あとは何が要りますか?」
足元に来て転がる子猫達を撫でてやりながら、不意に気がついて慌てる。
「なあ、シャムエル様、シルヴァ達の食事は? ハスフェル達やリナさん達も食事は?」
どう見ても昼の明るさの窓の外を見ながら割と焦ってそう尋ねる。
燃費の悪いシルヴァ達を飢えさせていたなら申し訳ない!
そう思って焦った俺だったけど、食べかけの厚焼きタマゴサンドから顔を上げたシャムエル様は笑って首を振った。
「リナさんとアルデアさん、それからオンハルトは起きているね。だけどそれ以外はまだ全員熟睡中だよ。ちなみにリナさんとアルデアさんは自分達で淹れた紅茶を飲みながら優雅にお寛ぎ中。オンハルトは……朝から一杯やってるみたいだね」
「おお、迎え酒とはやるねえ」
笑った俺は、マイカップにコーヒーを注ぎ、残りはピッチャーごと収納しておく。
「じゃあ、慌てて食事を用意する必要はなさそうだな。さて、今日は何をしようかねえ」
一つ欠伸をして肩を回した俺は、まずはゆっくりとコーヒーを飲むためにソファーに座ったのだった。
「ごちゅじんちゅかまえた〜〜〜!」
「ああじゅりゅい! かりいにょもいくにょ〜〜!」
「みによんもいくでしゅ〜〜!」
「まにじゃま〜〜〜」
「じゃまにゃのはそっちにゃにょ!」
しかし、優雅なコーヒータイムは一瞬で消え去り、俺の膝の上争奪戦が子猫達三匹により勃発した。
しかもこの可愛い口喧嘩付き。
コーヒーをこぼさないように慌てて机の上に置いた俺は、あとはもう俺の膝の上をめぐって世界一可愛いバトルを繰り広げる子猫達を、笑み崩れながら時間を忘れて眺めていたのだった。
はあ、幸せだよ……。