終わりよければ全てよし!
「ええと、あとはなんの話だっけ?」
もう一回、ニニのもふもふに顔を埋めて深呼吸をした俺は、色々こぼれ落ちた記憶を拾い集めながらそう呟く。
「ああそうだ。子猫達が急に喋り出した理由に、シルヴァ達が役に立ったって言っていたよな。それってどういう意味?」
手を打った俺の質問に、カリーノに抱きついていたシルヴァとミニヨンに抱きついていたグレイが、笑顔で顔を上げる。
「ええとね、実は私達、今回ここに来るにあたって色々と準備をしてきたの」
体を起こして子猫のすぐ横に座ったシルヴァがそう言い、その隣で同じように起き上がったグレイも苦笑いしつつ頷いている。
「へ? 準備って?」
首を傾げる俺に、レオとオンハルトの爺さんも真顔で頷いている。
「まず、周囲に幸運をあげられるようにした事。まあ、これをしてくれるのは私達の眷属の役目なんだけどね。それからエリゴールの火の術に全員の力の一部を分け与えて、最強の火の術にさらにブーストをかけておいたの。これはもちろん、どちらも岩食いへの対策用でね」
グレイの説明に、エリゴールが苦笑いして肩をすくめた。
「だけど、体力の強化はあくまで人の子の範囲でしか強化出来なかったから、結果としてはエリゴールだけ、お腹がとんでもなく空くって事態になっちゃったのよね。ケンがすぐに食べられる作り置きをたくさん持っていてくれて良かったわ」
「あはは、やっぱりそうだったのか。言っておいてくれればもっと早めに対処したのに」
スライム達に預けた作り置きを攻撃の合間に、それも一切手を緩める事なくこなしながら黙々と食っていた後ろ姿を思い出し、そう言って笑った。
「いや、あそこまで腹が減るとは、正直ちょっと予想外だったんだよ。心配していた魔力切れよりも腹減りの方がずっと酷くて、冗談抜きで魔力切れで倒れるより早く、腹が減って死ぬかと思ったからな」
「あはは、そういう事だったのか。だけど一人で戦っている姿は、本当に格好良かったぞ」
「おう、ありがとうな」
本気でそう思ったからそう言ったんだけど、エリゴールは全然本気にしていないみたいで、笑っているだけだ。
街の人達にあれだけ感謝されているのに、ちょっと自己評価低すぎないか?
「だけどまあ、結果としては上々だよな。街の中の被害は無し。怪我人は軽症者が数名程度で死者も無し。周囲の森の被害はかなりのものだが、前回のメタルブルーユリシスの出現する森のように、後々まで影響が大きく続くような被害は出ていないからな」
内心で力いっぱい突っ込んでいたところでハスフェルの言葉が聞こえて、俺も同意見だったので大きく頷く。皆も、揃って大きく頷いていた。
「無理をして駆けつけた甲斐があったじゃないか。あとは好きなだけ子猫と遊ぶがいいさ」
オンハルトの爺さんの言葉に、シルヴァとグレイがまた歓声をあげて子猫に抱きつく。
「じゃあ、もしかしてさ、さっき子猫に蹴られて出来た引っ掻き傷を一瞬で治した。あれも、そうなの?」
そう言って、頬を自分の指で軽く引っ掻いて見せる。
「そうそう、もちろん当初の目的はもっと人的被害が出ると思っていたから、怪我人を助ける為に私とグレイが癒しの術の最高位まで習得してから来たからよ」
笑ったシルヴァが得意そうにそう言い、それから何故か大きなため息を吐いた。
「あれは、本当に大変だったもんねえ」
シルヴァがそう言って、もう一回大きなため息を吐く。
「本当にそうだったわね。あれをもう一回、一からやれって言われたら私は間違いなく走って逃げるわ」
もう一回ミニヨンに抱きついたグレイまで、そう言って首を振っている。
「はあい、私も絶対走って逃げま〜〜す!」
カリーノのお腹に顔を埋めたまま、笑いながらシルヴァが手を上げてそう言って笑う。
「な、何があったの?」
聞きたい気もするけど、何故か聞いてはいけない気もする。
恐る恐る尋ねた俺の肩をオンハルトの爺さんとレオがそろって叩いた。
「ケン、世の中には知らない方がいい事だってあるんだよ」
「そうだぞ。聞いたらお前もやれって言われる。悪い事は言わんからやめておけ」
割と本気の二人の言葉に、ドン引きした俺は何度も頷く。
「へえ、大変だったんだね〜〜〜」
誤魔化すようににっこりと笑ってそう言う俺。うん、ここはアレだ。君子危うきに近寄らずだよな!
「ええ〜〜聞いてくれれば、癒しの術習得の試練、全部一から詳しく説明してあげたのに〜〜」
「そうよそうよ。癒しの術、あると便利よ〜〜〜」
「いえ、結構です!」
顔の前でばつ印を作りつつ大声でそう返事をする。
正直に言うと、癒しの術自体には興味はあったし貰えるものなら欲しかったんだけど、癒しの術習得の試練なんて言葉、聞いただけで無理っぽさしか感じないよ。
オンハルトの爺さんとレオだけでなく、エリゴールとギイにシャムエル様までがそろってものすごい勢いで首を振っているのが見えて、俺は即座に癒しの術を欲しいって気持ちを明後日の方向へ全力でぶん投げておいた。
癒しの術を持っているハスフェルは、俺達のやりとりを聞いて大爆笑している。
危ない危ない。何がどうなってるのかは全く分からないけど、うっかり何かやらされていたら……間違いなく前回の地下迷宮レベルで死にかける! に、一万点賭けるぞ!
「あ、それともう一つ確認!」
これ以上話していると、聞きもしないのにシルヴァ達が試練について説明を始めそうだったので、無理矢理話題を変更する。
「さっきベリーが持っている分をアルファ達に預けておくって言っていたよな。それってもしかして……」
俺の質問に、笑ったベリーが笑顔で頷き、一瞬であの巨大なジェムを一つ取り出して見せた。
「確かにこのジェムはちょっと使い所が分からなくて、私も別で保管していたんですよね。相当ありますから全部まとめて提供しておきます。ああ、もちろん資料用にそれなりの数は別で確保していますから、どうぞ遠慮なく受け取ってくださいね」
俺が何か言う前に、にっこり笑ったベリーがそう言ってさっきのジェムをアルファに渡す。
何故か全員が笑顔で俺を見ているのに気づき、諦めのため息を吐いた俺はうんうん頷いた。
「分かった。これはもう全部まとめてギルドへ提供するよ。貰い物だから、気にするなって言ってな。それでいいよな?」
一応、これを集めてくれたのは神様軍団だからそう言ったんだけど、全員が当然のようにそろってサムズアップをくれた。
「おう、ありがとうな!」
もう半分やけになって笑った俺も、笑顔でサムズアップを返したのだった。
まだまだ色々とありそうだけど、この街へ来て早々に始まった岩食いの騒動も、出発する前に無事に片付いたみたいだね。良かった良かった……んだよな?
「うん、終わりよければ全てよし! って事にしよう!」
開き直った俺の言葉に、全員揃って大爆笑になったのだった。