オンハルトの爺さんの密かな贈り物?
「うん、本当にありがとう。手を貸してくれて……街を救ってくれて」
ニニのもふもふな胸元に顔を埋めたまま、小さな声でそれでもなんとかお礼を言う。
「気にしなくて良いさ。この世界の発展には、この街の存在は欠かせないのだからな」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、顔を上げた俺も笑って頷く。
「確かにそうだな。そうそう、気になっていた事があるんだけど、ちょっと聞いていい?」
振り返ってオンハルトの爺さんに向き直ると、驚いた爺さんはそれでも笑って聞く体勢になってくれた。
「おう、改まって何事だ?」
「もしかして、フクシアさんに何かした?」
俺の質問に、驚いたように一瞬目を見開いたオンハルトの爺さんは、小さく吹き出してからにんまりと笑った。
「なんだよ、人聞きの悪い。こんなジジイがうら若きお嬢さんに何をすると言うんだ。言いがかりはやめてくれるか?」
わざとらしいその答えに、俺も堪える間も無く吹き出す。
「爺さん、わかってて言ってるだろう。あの、彼女が城壁の外へ来て出してくれた、改良版の延長コードとパッドみたいなやつ。あれの事だよ」
まだわずかに残っていた、あの巨大なジェムをアルファから出してもらった俺は、そのジェムの先端部分を爺さんに向けながらそう尋ねた。
「ああ、バレたか。まあ……そりゃあな。緊急事態であったし、来年以降に密かに届けようと思うていたひらめきの種を、ちょいと早めて彼女に届けてやったまでの事。あのわずかな時間でごく小さなひらめきからあれだけの発展をして、その上二十個もの新しい道具を即座に作ってみせたのだから、やはり彼女は本物の天才だよ。いやあ、将来が楽しみだ」
これ以上ないくらいの良い笑顔のオンハルトの爺さんの言葉に、納得した俺は、とりあえず持っていた巨大なジェムをアルファに返そうとして手を止める。
「それと、この少し残った巨大ジェム、バイゼンの街の復興のために使わせてもらっても構わないよな?」
「もちろん。もうそれは役割を果たしてくれたからね。残りはケンの好きに使ってくれればいいよ」
笑ったシャムエル様の言葉に、俺も笑顔で頷きアルファに改めてジェムを返した。
「それなら、私達が持っていた分もアルファちゃん達に預けておきますから、そちらも好きに使ってくださいね」
急に聞こえた声に驚いて振り返る。
「ああ、ベリー、フランマ、カリディアもおかえり。後始末ご苦労様」
「いえ、これは我々の仕事ですからお気になさらず。それより、街の人達との大宴会はずいぶんと楽しそうでしたね」
笑ったその言葉に、俺達も笑顔になる。
城門の前で、ベリーが戦いの終了を宣言してくれたあと、疲れ切って宿に向かう俺達と別れて仲間達の所へ戻ったベリー達は、再生の森の周囲に飛び散った岩食いの後始末に奔走してくれていたらしい。ちなみにこれには、ケンタウロス達にテイムしてやった雪スライム達大活躍してくれたらしい。
うん、なんとなくその場の流れで相当数テイムしてやったけど、あの子達が少しでも役に立てたのならよかったよ。
「大丈夫よ。ケンタウロス達が飛び地の果物を沢山くれたから、お腹いっぱいだよ」
俺の腕の中に頭を突っ込んできたフランマが、ご機嫌でそう言いながら尻尾をパタパタと左右に振る。
「そっか、それならいいよ。皆、ありがとうな。どこか怪我とかしていないか?」
もふもふなフランマを撫でてやりながらそう言いつつ、首周りや胴体、尻尾も一通り撫でて調べる。
うん、よかった。大丈夫そうだ。
「もちろん大丈夫よ。私、今回の事で思い知ったわ。私なんてまだまだ未熟者だって事をね。だって、火の術についてはそれなりに自信があったんだけど、ケンタウロス達の術は凄かったわ。特に長老の火の術は完璧だった。お願いして色々教えてもらったから、次はもっと上手くやれると思うわ」
得意そうに笑いつつも、悔しそうなその言葉に感心する。
「フランマは凄いな。自分の未熟さを認めてさらに上を目指せるなんてさ。じゃあ頼りにしているから、もっと頑張って火の術をマスターしてくれよな」
「任せて。ご主人のあの氷だって一瞬で溶かしてあげるわよ」
ふん! って感じに胸を張ってそう言ったフランマは、もう一回俺のお腹に体当たりするみたいに突っ込んできてから、くるっと踵を返して子猫達のところへ行ってしまった。
「ああ、逃げられちゃったよ」
笑ってシルヴァと子猫のお腹の場所の取り合いっこを始めたフランマを見て、小さく吹き出した俺だった。