里親探しの終了〜〜!
「あの、図々しいのは承知のお願いなんですが! もちろん、もっと大きくなってからになりますが、リンクスの子を俺に譲っていただけにゃいでしょうか! ハグゥ!」
緊張のあまり最後に思い切り噛んだランドルさんは、自分の口を押さえて悶絶している。
盛大に噛んでいたから、あれはかなり痛いと思うぞ。
「ランドルさん、何をやってるんですか」
なんとか驚きから立ち直った俺は、苦笑いして背中を撫でて叩いてやる。
「ああ、失礼しました……ゲフッ」
口元を押さえたまま、慌てたようにそう言って咳き込む。
「だから落ち着いてって。はい、水をどうぞ」
机の上に出してあった俺の水筒を開けて、空いたグラスに水を注いだ。
これは、水槽から汲んだごく普通の水だよ。まあ冷たくて美味しいんだけどさ。
ちなみにこの水筒は俺の水筒で、最近出たドロップアイテムなんだけど、なんと保存機能付き!
冷たい飲み物や温かい飲み物をここに入れておくと、一週間程度はそのままの状態で保存される。なので、入れた時のまま、冷たかったり温かい飲み物がいつでも飲める優れものだ。しかも、入っている量も見かけ通りではない。
これを発見した時は、ちょっとした騒ぎになったんだっけ。
地下洞窟のドロップアイテムで最初に出たのが、いくらでも水が出る無限水筒だったしシャムエル様もそう言っていたので、俺達全員、ドロップアイテムは全部無限水筒なんだと思い込んでいたんだよ。
それなのに、まさかの保存機能付き水筒の発見。
慌ててそれぞれが持っている、ドロップアイテムで出た水筒を取り出して確認したところ、いくらでも水が出てくる無限水筒が全体の七割くらいで、保存機能付きの水筒が三割くらいの割合だったんだよ。
しかも、その保存機能付きの三割のうちの一割、つまり全体の3パーセントくらいが容量が百倍固定の水筒だった。
大体普通の水筒でも2リットルくらい入るから、その百倍入る水筒って事は200リットル入るんだよ。つまりペットボトルの大きいのが百本分……それって個人で使う分にはもう、ほぼ無限水筒と変わらないよな。
しかもすごいのが、無限水筒は使った分の水が勝手に出てきていつでも満タンになる有り難い水筒なんだけど、逆に言えば水しか出てこない。
それと違ってこの保存機能付き水筒のすごいところは、自分で中身を入れられるって事。
つまり、ホットコーヒーを入れておけばいつでもホットコーヒーが飲めるし、逆にアイスコーヒーやジュース各種を入れておけば、これも冷たいままでいつでも飲めるって事だよ。
もちろん俺は複数この水筒を持っているから、最近では飲み物の類は全部この保存機能付き百倍水筒に入れて保管しているよ。
水筒ごと収納しておけば、中のものも時間経過しないからね。
ちょっと酔いが回ってきているので、自分の分も取り出したマイカップに水をたっぷりと入れて飲んでおく。
はあ、普通の水も冷たくて美味しい。
ため息と共にもう一杯の水を飲んだところで、何やら甲高い悲鳴が聞こえて驚いて反対側を振り返った。
そう、悲鳴はリナさんの声だったのだ。
「あの、あの!」
あわあわと慌てふためくリナさんを見て、俺は首を傾げる。
とはいえ一応女性でしかも人妻。
迂闊に体に触るのはセクハラになりかねないので、ランドルさんみたいに背中には触らないぞ。
「あの、大丈夫ですか?」
マイカップを自分で収納しながらそう尋ねると、いきなりリナさんが背筋を伸ばしてこっちを向いて座り直した。
「あの! わ、私も、私もケンさんに、お願いがあります!」
またしても近くで大きな声で叫ぶみたいにしてそう言われて、座り直した俺が仰け反る。
「はい、なんでしょうか!」
負けじと大きめの声で答えると、身を乗り出すみたいにしたリナさんが、胸元で手を組んで俺に覆いかぶさるみたいに近寄ってきた。
「リナさん、近い近い! ちょっとアーケル君! 笑ってないで助けてくれよ。これじゃろくに話も出来ないって」
今にも抱きつかれそうになりつつそう叫ぶと、笑ったアーケル君がリナさんの襟元を引っ掴んで元の椅子に座らせてくれた。
「母さん、落ち着けって。ほら、ちゃんと一から話さないと」
ぽんぽんと肩から腕の辺りを叩いたアーケル君は、苦笑いしながらそう言ってリナさんの顔の前で手を振る。
コクコクと何度も頷いたリナさんは、大きく深呼吸をしてから改めて俺に向き直った。
「あの、私もリンクスの子猫を、出来ればルルのお婿候補として、ミニヨンちゃんをお譲りいただけないでしょうか!」
「よろしくお願いします!」
最後は、ランドルさんとリナさんの声が重なり、二人揃って俺に向かって深々と頭を下げた。
沈黙。
戸惑うようにこっそりと顔を上げて俺の様子を窺う二人を見て、俺はとうとう我慢出来なくなって思い切り吹き出したのだった。そのまま大笑いになる。
まさかの、里親希望二件目。って事はもう、これにて子猫達の里親探しは一件落着だよ。
よし、知り合いに引き取ってもらえるみたいだ!