子猫達と愉快な仲間達
「ごちゅじん、だいちゅき〜〜〜!」
「だいちゅきだもんにゃ!」
俺がマニに抱きついていると、カリーノとミニヨンまでが慌てたようにそう言って俺の背中と脇腹に頭を突っ込んできた。
その様子を見て、とうとう俺の理性が音を立てて崩壊したよ。
「もちろん、俺も大好きだぞ〜〜! なあ、聞いたか! 子猫達がちゃんと喋った〜〜〜!」
目を輝かせてそう叫んだ俺の言葉に、ハスフェル達が満面の笑みで拍手をしてくれた。
あ、ちょっと興奮のあまりよだれが……。
そうなんだよ。言葉が段々と通じるようになってきて以降、子猫達が少しずつではあるんだけど言葉を覚えて、時々単語をしゃべるようにはなっていたんだよ。
例えば俺の事は、ご主人とは言えなくて、ごちゅじん。ご飯は、ごは〜ん。大好きは、だいちゅき等々。
密かに、子猫語と呼んでいる舌足らずな可愛らしい言葉だったんだけど、ようは全て単語だった。
それなのに、あんなに突然に喋るなんて反則だぞ。俺の心臓を止めるつもりか? また萌え鼻血が出たらどうしてくれるんだよ!
などと脳内で叫んでいたんだけど、どうやら神様軍団には俺の心の声もダダ漏れだったみたいで、シルヴァ達が揃って吹き出した後、何故か手をハイタッチして目を輝かせている。
「私達でも役に立ったわ!」
「よかった〜〜〜!」
「へ? 何の話?」
「ああ、それはね!」
意味が分からなくて首を傾げた時、ノックの音がしてリナさん達とランドルさんが開けたままだった扉から部屋の中を覗き込んできた。
『そこまで! その話はまた後でな』
シルヴァが何か言いかけたところで、リナさん一家とランドルさんに気付いたハスフェルが、即座に念話でそう言って止めてくれた。
当然即座に口をつぐむシルヴァとグレイ。
全く意味が分からないけど、多分、これは神様のご利益的な何かが子猫達に対してあったんだろう。
うん、とりあえず拝んでおこう。
その後は、さすがのあいつらももうお腹は一杯だと言うので夕食代わりになりそうなつまみを色々と出してやり、ハスフェル達が出してくれたお酒を前にして、俺の部屋でのんびりと子猫達を眺めつつ宴会になだれ込んだのだった。
「ぐれいちゃんは、あまえんぼうでちゅね」
「しるゔぁちゃんは、くんくんがちゅきにゃにょ?」
「そうよ〜〜私は甘えん坊なの〜〜!」
「そうよ〜〜可愛い子をくんくんするのが好きなの〜〜〜!」
子猫達に抱きついたまま、聞きようによっては若干危険な答えを嬉々として叫ぶシルヴァとグレイに、俺達が吹き出して大爆笑になるのはもう何度目だろう。
時折俺も乱入して子猫を撫でたり抱きついたりしながら、皆ずっと笑顔だった。
「ああ、本当に可愛い〜〜〜!」
ウイスキーのストレートを、まるで水みたいにガバガバと飲んでいたリナさんが、グラスを持って俺の側にやって来て座り、シルヴァ達に抱きつかれながらまた喋り出した子猫達を見て歓喜の叫びを上げていた。
ちなみに、ミニヨンはレオとエリゴールに左右から抱きつかれて撫でまくられていて、そりゃあもう超ご機嫌で喉を鳴らしている。
「それにしても、こんなに急に喋り始めるなんて素晴らしいです。この子達は天才かもしれないですよ!」
俺の腕をバシバシと叩きながら、少し赤くなった顔のリナさんが、さっきから何度もそう言ってはまた俺の腕を叩いている。ちょっと冗談じゃないくらいに痛いんですけど!
「痛い痛い。リナさん痛いですって。ギブギブ!」
笑いながらなんとか腕を掴んで引き離す。よしよし、ちょっと離れてくれたぞ。
「ああ〜〜それにしても、可愛いですねえ〜〜」
ぐいっと、ストレートのウイスキーを飲み干したリナさんが、ため息を共にまたそう言ってうっとりと子猫達を見る。
「そりゃあニニとカッツェの子供達なんですから、可愛くて賢いのは当たり前ですって!」
冷やした吟醸酒をちびちびと舐めながら子猫を眺めていた俺も、笑ってそう返す。
「そうですよね〜〜〜ニニちゃんとカッツェの子なんですから、可愛くて〜〜〜賢いのは〜〜〜当たり前ですよね〜〜〜〜」
「ですよね〜〜〜〜!」
若干酔っ払っているリナさんの言葉に続き、同じくちょっと顔を赤くしたアーケル君もそう言って笑み崩れている。
「あの、ルルの……ルルのお婿に……ミニヨンちゃんを……」
「へ? 何か言いましたか?」
ランドルさんが、あの美味しかったレバーの串焼きを出してくれたのに気がついた俺は、立ち上がって一本だけもらったところだったので、俯いたリナさんの言葉が聞こえなくて、席に座りながらそう尋ねた。
「な、なんでもないです!」
唐突に真っ赤になったリナさんは、慌てたようにそう言うとまたウイスキーをドバドバとグラスに注ぎ、ぐいっと飲み干す。
ううん、リナさんのペースがいつもより早い気がする。
その時、ランドルさんがさっきのレバーの串焼きをお皿に山盛りにして俺のところへ持ってきてくれた。
そして俺を挟んでリナさんの反対側に座る。
「お疲れ様でした。最高に可愛い子猫達に乾杯!」
「お疲れ様〜〜〜愉快な仲間達に乾杯!」
手にしていた吟醸酒のグラスを掲げてそう言われて、俺も笑顔で乾杯する。
お互いにぐいっと飲み干して、手にしていた吟醸酒をお互いのグラスに注ぐ。
「ねえケンさん。ちょっと真面目な話があるんですが、よろしいですか?」
座り直したランドルさんが、真顔でぐいっと近寄ってきた。
「うおお、どうしたんですか?」
ちょっとのけ反りながら、座り直してそう尋ねる。なんというか、冗談で済ますにはランドルさんの様子が違っていたんだよ。
「あの、図々しいのは承知のお願いなんですが! もちろん、もっと大きくなってからになりますが、リンクスの子を俺に譲ってはいただけにゃいでしょうか!」
緊張のあまり思い切り噛んだランドルさんの言葉だったけど、俺は驚きすぎて突っ込む事さえ忘れたまま無言でランドルさんを見つめていたのだった。
おお、まさかの里親希望者だよ!