お疲れ様と大歓声!
「よおし、これにて終了だ!」
「お疲れさん!」
「じゃあギルドへ戻るぞ〜〜!」
綺麗さっぱり片付けられて、もうすっかりいつもの大門前の広場に戻ったところでギルドマスター達が揃って大声でそう言い、まだ残っていたスタッフさん達も台車に乗せた荷物を押して順番に撤収して行った。
スライム達も、それぞれのご主人のところへ戻って行った。
「お疲れさん。お前さん達はどうする? 宿は明日まで使ってくれても構わないが?」
駆け寄ってきたエーベルバッハさんの言葉に、俺はハスフェルを見る。
「なあシルヴァ達って……」
何も言わずに笑って頷くハスフェルを見て、俺はエーベルバッハさん達に向き直る。
「ありがとうございます。でも、俺達はもうお城へ戻ってゆっくりします」
「ああ、そうか。確かにその方が落ち着くだろうさ。それじゃあな、本当に世話になった」
改めて右手を差し出されて握り返す。
「お前さんが提供してくれたあの巨大なジェムについての後処理なんだが、一旦俺に任せてもらえるか」
冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんの真剣な言葉に、苦笑いしつつ頷く。
あれは、俺的には神様からの一時的な預かり物って感じだったから、正直に言うと、このままスルーしてもらえる方が有り難い。
あれを、改めて鑑定してお金を払うとか言われたら全力で拒否するよ。いや、多分あれを評価価格で払ったら、バイゼンでも破産するんじゃあないだろうか。
だけどここで辞退しようものなら総出で説得されるのが容易に想像出来たので、ここはとりあえず何も言わずに曖昧な笑顔で頷くだけにしておく。これぞまさしく笑って誤魔化すってやつだね。
そんな訳で、俺達も挨拶をして従魔達を迎えに宿へ向かう事にする。
「じゃあ戻ろうか。それで、彼女達って……すぐに帰るのか?」
宿への道を歩きながら、隣を歩くハスフェルに声をひそめてそう尋ねる。
「ああ、どうやらそう急いで帰らなくても大丈夫みたいだから心配するな」
笑ったハスフェルの言葉に、なんだか涙が出そうなくらいに安堵したよ。
よし、それなら皆にニニの赤ちゃん達を見てもらえるよ。
だけど安心して振り返って気がついた。シルヴァ達は、今は俺達からかなり離れたところを歩いているんだけど、何故かこっちに近寄ってこない。
「へ? どうしたんだ?」
らしくない行動に、心配になって俺の方からシルヴァ達に駆け寄っていく。
「なあ、どうしてそんなに離れているんだよ」
声をかけると、苦笑いしたエリゴールがこっそりと何かを指差す。
釣られてそっちを見ると、そこにいたのはリナさん一家とランドルさんだ。
「え? 彼らが何……ああ、そっか!」
そこでようやく、彼らが何に遠慮しているのか分かって納得した。
だって、よく考えたらリナさん一家やランドルさんとシルヴァ達って、一度も一緒になった事が無いんだよな。
初めてランドルさんと出会った時、俺達のパーティにはもうオンハルトの爺さんしかいなかったし、その後に出会ったリナさん一家だってそうだ。
それにこの騒ぎの最初の時に、一応顔は合わせているけどゆっくり挨拶をする暇なんて全く無かったからな。
なので例えて言うなら今の状態は、決まったグループの中に、突然知り合いの知り合いが複数いる状態。そりゃあ彼らだって遠慮するって。
納得した俺は、改めてシルヴァ達を彼らに順番に紹介した。
どうやら草原エルフ一家は全員がエリゴールの火の術に一目惚れしたらしく、そりゃあもうキラッキラに目を輝かせてエリゴールを取り囲んでいて、彼の話を聞きたがっていた。
その光景は、例えて言うなら推しの主役の彼が目の前に来た時のフクシアさん達みたいで、ちょっと笑ったのは内緒だ。
「お待たせ〜〜! さあ、お城へ帰るぞ〜〜〜!」
宿に到着して留守番組を全員回収した俺達は、宿の主人に改めてお礼を言ってから外に出た。
相談の結果、馬を連れていない神様達に、まずはセーブルがいつもの倍くらいの大きさになってエリゴールを乗せる。レオはテンペストに、シルヴァとグレイは、ティグとヤミーの背中にそれぞれ乗っている。
何故エリゴールをセーブルの背中に乗せたのかと言うと、彼に気づいた街の人達が、彼を目指して殺到しようとしたからだよ。あれは冗談抜きで危ない。
セーブルの巨体なら遠くからでも見えるけど、逆に言えば左右さえ固めてしまえば地面に立っている人達はエリゴールには手が届かない。
って事で、左右にはハスフェルとギイが付き、エリゴールを先頭にした俺達は、大歓声を送ってくれる街の人達に手を振りながら、ゆっくりと郊外にあるお城まで戻って行ったのだった。もう完全にパレード状態。
正直言って、アッカー城壁にたどり着いた頃にはエリゴールはもう出涸らしのお茶っ葉みたいにヘニョヘニョになっていたし、俺達だって似たような有様だったよ。
思いっきり大きなため息を吐いた俺達は、そのままアッカー城壁を潜って敷地内に入り、そこからはまるで逃げるみたいに一斉に全力で駆け出したのだった。