宴会の終了と仲良しなスライム達
「ううん。冗談抜きで、もうこれ以上飲んだり食ったりしたら、間違いなく口から出ると思うぞ。はあ、ご馳走様でした〜〜!」
大きなため息を一つ吐いた俺は、最後のビールを綺麗に飲み干してそう言って両手をあげた。
ちなみに、基本立食での打ち上げの会場になっている大門横のこの広場には、疲れたら座れるように、即席の椅子やテーブルがあちこちに置かれている。全部背もたれの無い丸椅子なんだけど、どう見ても数は足りない。
なので俺はそっちを使うのは遠慮して、途中からアクアに出てきて大きくなってもらい、即席スライムソファーに座って飲んでいたんだよ。だけどこれがもう、予想以上に座り心地抜群。
しかも、ちょっとグラスを置いたりお皿を置きたいと思ったら、シュルッと触手が出てきて即座に支えてくれるし、もちろんスライム本体の上に乗せても転がり落ちるなんて絶対に無い。斜めになった箇所に置いても即座に真っ直ぐに修正される優秀さだよ。
割と本気で、これってスライム達がいれば、郊外でわざわざ椅子や机を出す必要無いんじゃね? と、思ったくらいだ。
まあ全体にプルプルしていて柔らかいから、どちらかと言うと料理や作業をする机よりは、座って寛ぐ椅子に向いてそうだけどさ。
そしてそれを見てハスフェル達神様軍団までがスライムソファーに座り始め、当然それを見てリナさん一家とランドルさんもそれぞれスライムソファーに座って寛ぎ始めた。そして当然そうなると最近増えたテイマー達が、俺達の真似をして連れているスライム達に大きくなってもらって次々に座り始めた。
あちこちから、あれに座ってみたいとの声が上がるのはこれまた当然の流れで、結局宴会後半には広場の端の一部をスライムソファーが埋めつくし、街の人達が歓声をあげてはスライムソファーに座って、顔を見合わせては笑い合っていたのだった。
一応、宴会は日暮れまで! と事前に決められていたみたいで、西の空が夕焼けに真っ赤になる頃にギルドマスターのヴァイトンさんが終了の宣言をして、ここで宴はお開きとなった。それを聞いた屋台の店主達も一旦後片付けを始め、ここでスライムソファーの提供も終了になった。
そして集まってきたギルドのスタッフさん達が、これまた見事な働きっぷりであっという間に広場に設置されていた大きなコンロや焼き台を手早く撤収してしまったのだった。
もちろん今回も、出た大量のゴミはスライム達があっという間に片付けてくれたよ。まあ、喧嘩をする事もなく街のテイマー達が連れているスライム達と一緒になって後片付けと広場の掃除をしてくれていたから、スライム同士でどうやら役割分担をあらかじめ決めていたみたいだ。
「そう言えばお前らって、喧嘩しているところを一度も見た事がないな」
俺の近くで広場のゴミを片付けてくれているイプシロンに、なんとなくそう話しかける。
「だって、どんなカラーの子でも元は一つだからね! 自分と喧嘩なんてしないでしょう?」
当然のように言われたその言葉に、俺は驚いてイプシロンを見た。
「元は一つ?」
「そうだよ。だって同じスライムだもん」
得意げにそう言ってビヨンと伸び上がったイプシロンは、すぐそばに転がってきた紋章無しのスライムとくっついたまま転がっていき、別のゴミが落ちている場所まで一緒に跳ね飛んで行って、そこでまた離れてそれぞれにゴミを食べ始めた。
よく見ると、そんな光景はあちこちで展開されている。
「ええと……?」
意味が分からなくて困っていると、シルヴァ達のところへ行っていたシャムエル様が一瞬で俺の右肩に戻ってきた。
「それは個々の認識力の違いだね」
「個々の認識力って?」
俺の言葉に、シャムエル様は頬をぷっくりと膨らませながら楽しそうに笑った。
何だよそのけしらん頬は! お願いだから俺に突かせてくれ!
実際にやったら間違いなく空気に殴られて吹っ飛ばされるので、ぐっと我慢して脳内で叫ぶに留めておきエアーなでなでで我慢しておく。
「そもそもスライムって、他のジェムモンスターよりも個々の認識力が低いんだよね。だから逆を言えば名前をつけて貰って自分を認識した後も、他の個体への共感力と協調性が非常に高いんだ。それは同じ主人を持つスライムだけじゃあなくて、テイムされて従魔になった他のスライムに対しても発揮されるみたい。もちろん、誰が自分のご主人なのかはしっかり認識しているから、そこを間違う事は無いんだけどね」
「つまり、スライムの従魔同士なら、ご主人が別でも即座に仲良くなれるって事か」
「そうみたいだね。初対面の従魔とも仲良くしてくれるなら、それは良い事でしょう?」
俺の右肩に座ったまま、せっせと身繕いを始めたシャムエル様の言葉に、苦笑いしながら納得もした。
確かにある意味子供みたいに素直で無邪気なスライム達には、それはピッタリな特性に思えた。
「良い子だな。これからはきっとテイマーや魔獣使いもどんどん増えてくるだろうから、皆と仲良くするんだぞ」
「もちろんだよ〜〜!」
「仲良くしま〜〜す!」
俺の言葉にイプシロンだけでなく、周りにいた他のスライム達からも無邪気で元気な返事が聞こえてきて、俺はシャムエル様と同時に小さく吹き出したのだった。