愉快な仲間達に乾杯!
「はあ、もう限界。お腹いっぱいだよ」
最後の肉の一切れを飲み込んだ俺は、一つため息を吐いて小さくそう呟いた。
もちろん、俺以外の全員はまだまだガッツリ食べている真っ最中なんだけど、この中では一番少食な俺の胃袋は既に限界値を超えているよ。
まあ、どれも美味しかったのは間違いないので、俺にしてはついつい食べ過ぎちゃったんだよな。
当然だけど、シャムエル様も味見と称して俺のお皿からそれはそれは大量に、ガッツリとふんだくって食っている。ちなみに、もう追加を取りに行こうとしない俺を見たシャムエル様は、空になった自分のお皿を持ってハスフェルの所へお肉をもらいに行っていたよ。
あれ、マジで自分の体重以上に食ってる気がするんだけど、本当に大丈夫なのか?
って事で早々にお肉争奪戦から脱落した俺は、あとはのんびりと冷えた白ビールを飲みつつ楽しそうに肉の争奪戦を繰り広げているシルヴァ達を眺めていたのだった。
「何だ、もう終わりか?」
「まだまだ始まったばかりだぞ」
その時、ヴァイトンさん達の声が聞こえてちょっと眠くなってきて意識が飛びかけていた俺は、慌てて座り直した。
「俺は少食なんですよ。もう充分過ぎるくらいにいただきましたって。あとはまあ、ちょいちょい摘みつつのんびりと飲ませて貰いますよ」
まだ半分くらいは残っている冷えた白ビールの瓶を見せながらそう言うと、顔を見合わせて笑ったギルドマスター達が揃って俺の隣へ椅子を持ってきて座った。
「フクシアから詳しく聞いたよ。ジェムが尽きた後半に、とんでもないデカさのジェムを大量に提供してくれたそうだな」
真顔のヴァイトンさんの言葉に、ガンスさんとエーベルバッハさんも揃って真顔になる。
「ああ、あれね……」
やっぱりきたか〜! と言うのが本音だよ。
正直に言うと、もうあのまま知らん顔しようかと思っていたんだけど、さすがにそれはちょっと無理だったみたいだ。
「デカ過ぎて割るのも大変だし、正直言って使い所がわからなくて持て余していたジェムなんですよ、あれ。なのでお役に立ててよかったです」
誤魔化すようにそう言って笑う俺を見て、ギルドマスター達が揃って困ったような顔になる。
「実を言うと、ランドルと草原エルフ達も恐竜のジェムを相当数提供してくれていたらしいんだ。だが、総数でいくつ使ったのかが分からなくて困っていると、あいつら声を揃えてこう言ったんだ」
「あのジェムは全部、ケンさんの地下洞窟で手に入れたものだ。素材もアイテムも、ケンさんは当たり前のように俺達に有利になるように提供してくれた。だからこれは恩返しみたいなものだ、とね」
「なのでギルドの規定にある、ギルドに対して大きな功労があった人に対して支払われる、特別金一封以外は受け取らないと言うんだよ」
おお、そんな制度があったのか。それなら俺も!
「まさかお前さんまで、それでいいなんて言うんじゃあないだろうな?」
詰問調のガンスさんの言葉に、それでいいと言いかけた俺の口が止まる。
しばしの無言の見つめ合いの後、三人が揃ってものすごく大きなため息を吐いた。
おお、見事な肺活量だねえ。
割と本気で感心していると、これ以上ないくらいの真顔の三人が顔を寄せて何やら真剣に相談を始めた。
うん、触らぬ神に祟りなし。ここは知らん顔しておこう。
いつの間にか空っぽになっていたグラスに、もう一度軽く凍らせてキンキンに冷やした白ビールをゆっくりと注ごうとして手が止まる。
「ううん、飲むならちょっとくらい何かつまみたいなあ……」
小さくそう呟いた俺は、まだ話をしているギルドマスター達を置いて、立ち上がって屋台のある一角へ向かった。
「やっぱりビールには串焼きだよな」
やや甘辛系の串焼きを一本と、うずら卵くらいの大きさの卵が三つ串に刺さって揚げてあるのを一本だけもらった。
だけど店主の爺さんは、隙あらば俺のお皿にもっと色んな串焼きを載せようとするので、断るのに苦労したよ。
結局、最初の二本以外に串に刺した鳥の軟骨揚げみたいなのと、絶対美味いから食っとけと力説されて、レバーの串焼きとレバーのから揚げの串焼きを押しつけられた。
俺、内臓系っていまいち好きじゃあないんだけどなあ……。
だけどお皿に載せてしまった以上は仕方がない。いざとなったらシャムエル様に押し付ける気満々で席に戻り、冷えたビールを取り出してグラスに注ぎ、一口飲んでから試しにレバーの串焼きをひとかけら食べてみた。
「何だこれ、とろけたぞ!」
驚くほどにふんわりと柔らかかったそれは、口に入れて噛んだ途端にまるでバターが溶けるみたいに一瞬で無くなったよ。
「うわ、めっちゃ美味い。確かにこれは食うべきだよ。へえ、こんなレバーもあるんだ」
俺の知ってるレバーって、火を入れても何だか生臭い独特の嫌な匂いがあって舌触りもちょっと独特だから、自分からは選ばないメニューだったんだよ。
「これは異世界だからなのか? それともあの店の店主の腕が良いのか? それとも俺の知るレバーとこれは、実は全くの別物なのか?」
食べかけのレバーの串焼きを見つめながら割と本気で悩んでいると、隣で吹き出す音が聞こえた。
「おいおい、レバーの串焼きを食いながら、何をそんな真剣に悩んでいるんだ?」
「い、いや……俺の知ってるレバーと全然違うからさ。すっごく美味しくてびっくりしたんだよ」
もう一切れ食べてからそう言うと、三人が揃って笑顔になった。
「ああ、それは青鶏のレバーだな。元々青鶏のレバーは美味いんだが、特にこの時期のは絶品なんだよ。何だ、もしかして初めて食ったのか?」
エーベルバッハさんの驚いたような声に、苦笑いしつつ頷く。
「以前岩豚の時にも言ったけど、内臓系ってあんまり得意じゃあないんですよね。ほとんど美味しいと思えるようなのを食べた事が無かったもんだから。だけどこれだけ美味しいのなら、岩豚の内臓もちょっと食べてみたいですね」
苦笑いしつつそう言うと、何故か三人が揃って困ったように顔を見合わせている。
「おい、岩豚の内臓は絶対に死守しないと、あいつらに何と言われるか分かったもんじゃないぞ」
「だよなあ。これは困った」
「まさか内臓の旨さに今更目覚められるとはなあ」
思いっきり声をひそめての内緒話だったんだけど、俺の耳ってシャムエル様のおかげでよく聞こえるんだよなあ。なので、内緒話の内容ダダ漏れっす。
どうやら俺が岩豚の解体を頼む際に、今後は内臓も欲しがると思ったみたいだ。
「大丈夫ですよ。そもそも内臓系は下処理の仕方を知りませんし、食べたければちゃんと料理人が処理して調理してくれたものを頂きますって」
苦笑いしつつそう言ってやると、三人揃って思い切り安堵の顔になったよ。反応が正直すぎる。
「まあ、とりあえず乾杯しましょう!」
笑った俺の言葉に、苦笑いしつつ頷いた三人がそれぞれ持っていたグラスを掲げる。
「愉快な仲間達に、乾杯!」
三人の綺麗に揃った乾杯の声に、俺は堪えきれずに思い切り吹き出したのだった。
本当に愉快な仲間達、最高だよな!