肉だ肉〜〜〜!
「おう、それじゃあ行こうか」
廊下に出たところで、ハスフェル達と合流して外に出る。シルヴァ達も同じ宿にお世話になっていたので、全員揃って外に出る。ちなみにリナさん一家とランドルさんは、また別の宿に揃ってお世話になっているよ。
会場は、さっきの大門前の広場なのだと聞いている。あそこなら確かにかなり広いので、大人数でも大丈夫だろう。
しかも宿屋の外に出たところで俺達は、待ち構えていた街の人達から拍手大喝采を受ける事になったのだった。
特に大人気だったのが、エリゴール。
まあ、彼が一番の大活躍だった事は俺達だって分かっているので、顔を見合わせて頷き合って彼を先頭に押しやる。
「い、いや。ちょっと待ってくれ。俺はそんなつもりで……」
どうやら賞賛を受け慣れていないらしいエリゴールは、名前を呼ばれるたびに困ったようにそう言って、でも笑顔で手を振り返している。
彼が笑って手を振るたびに、あちこちに焚かれた篝火の炎がボワって感じに噴き上がっているので、多分彼の眷属達も嬉しくて笑っているっぽい。
まるでパレードみたいな拍手大喝采の中を、俺達は苦笑いしつつ歩いて目的の広場へ向かった。
「おお、めっちゃいい匂い!」
到着した広場は、中央部分に大きな業務用の焼き台が全部で十台設置されていて、既にジュウジュウと賑やかな音を立てて塊の肉が豪快に焼かれていた。
他の台では、恐らく料理人なのだろう人達が、これまた豪快に鉄板や網の上で肉や野菜を焼き始めていた。
そして広場の周囲には、今から日が暮れるまで全部無料! と立てられた看板があちこちにあり、いつもの屋台の人達がこれまた大量にそれぞれの店の料理を積み上げていた。
「美味しそう〜〜〜!」
「きゃ〜〜凄く良い香り〜〜!」
目を輝かせたシルヴァとグレイの叫ぶ声に、中央で肉を焼いていた人達が揃って満面の笑みになる。
「おう、風と水の術使いの姉ちゃん達だな。あんた達も大活躍だったって聞いているぜ。ガンガン焼いてるから遠慮なく食べてくれよな!」
サムズアップした、超マッチョなお兄さんの言葉に歓喜の声を上げる二人。
ううん、もうちょい追加の肉を渡しておいた方がいいかもしれない。
彼女達が本気で食べたら、絶対に街の人達の分が絶対足りなくなるに一万点賭けるぞ。
若干遠い目になりつつそんな事を考えていると、大門横に設けられた大きな踏み台の上に冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんと、商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんが並んで上がった。
広場にいた人達のざわめきが、それを見て一気に静かになる。
二人の手には、あの拡声器もどきがある。
「ええ、それではそろそろ始めたいと思います。まずはこれだけは言っておきたい。皆、よく頑張ってくれた! 街を守ってくれて心から感謝するよ!」
ガンスさんの大声に、集まっていた街の人達から大歓声が上がる。
「ケンタウルス様によると、今回の岩食いの出現はこれで完全に終了したらしい! 周辺の森の被害は軽度とは言えないが、前回のような壊滅的な被害は防ぐ事が出来た!」
またしても起こる大きなどよめきと歓声、そして大きな拍手。
俺達も笑顔で拍手をしたよ。
「そして今回の最大の功労者! 大門の前で単身火の術を使って岩食いに大きなダメージを与えてくれた最強の火の使い手、エリゴール殿にも大きな拍手を!」
笑ったハスフェルとギイの二人が、二人がかりでエリゴールを担ぎ上げて肩を組んだ上に乗せて座らせる。
一瞬困ったようにしたエリゴールだったけど、街の人達の途切れない大歓声と拍手を受けて名前を呼ばれる度に照れたようにしつつも、笑顔で手を振っていたよ。
「それから、手持ちの貴重な恐竜のジェムを惜しげもなく提供してくれた、魔獣使いの方々にも心からの感謝を!」
またしても起こる大歓声と拍手。
苦笑いした俺も、とりあえず手を振っておいたよ。
「って事で、ここからは祝いの宴だ!肉だ肉〜〜〜! たくさん用意してあるので好きに食ってくれ! そしてそれが終われば、被害を受けた森の修復作業が待っているぞ〜〜〜!」
「うおおお〜〜〜〜!」
今度の歓声は、地響きみたいな低い野郎達の声。
「よし! それじゃああとは好きに食え!」
またしても起こる拍手大喝采。そして中央部部分には歓声を上げた人々が集まっていった。
「ケンさん! 何してるんですか! ほら早く!」
一応遠慮して、後から行こうと思っていたんだけど、街の人達は満面の笑みで俺達を手招きしてくれている。
シルヴァ達と顔を見合わせた俺達は、歓声を上げて走っていき、遠慮なく列の先頭に並ばせてもらったのだった。
「ああ、どれも美味しすぎ〜〜」
「ケンのお料理ももちろん美味しいけど、こんな風に賑やかに皆で取り合いっこしながら食べるのも最高に美味しいよね!」
お皿に芸術的なまでに山盛りになったお肉を嬉々として平らげているシルヴァとグレイの横で、それよりははるかに少ない、だけど俺にしては充分過ぎる量のお肉や野菜を食べながら俺も笑顔で大きく頷く。
まあ、俺にしてみれば自分で何もせずに出てくる料理を食べられるだけで、充分過ぎる位に嬉しいんだけどさ。
お肉が足りなくなりそうなら追加を渡そうと思って見ていると、何と街の人達が差し入れと思しき食材やお酒を次々に持って来ていて、大門横に設けられた受付でギルドの職員の人に渡している。
「へえ、街の人達からの差し入れがあるんだ。こりゃあ凄い。それなら追加の肉は必要なさそうだな」
もちろん街の人達だって笑顔で一緒に食べているんだけど、冒険者の人達や俺達が列に並ぼうとすると、さっと当然のように譲ってくれる。
おかげで俺達は、ほぼ並ぶ事なく好きな料理を好きなだけいただく事が出来ているんだよな。
「なんだろう、この見事なまでの一体感は。ハンプールとかでもお祭りの時には一体感はあったけど、ここまでじゃあなかったよな」
密かに感心しつつ誰かの差し入れの白ビールの大瓶をいただき、自力で冷やしてから、焼いた岩豚のお肉と一緒に美味しくいただいている俺だったよ。
はあ、労働の後のビール美味〜〜〜!