お疲れ様とこの後の予定!
「ごめんごめん。今開けるよ。ええと、危ないから向こう側の人達にも避難してもらいたいんだけど、どうやって知らせたらいいかな?」
さすがにあの近さだと、砕けた氷が人に当たりそうで怖い。
困ったように呟くと、頷いたフクシアさんが収納袋からあの拡声器もどきを取り出した。
「皆さん! ケンさんが氷を砕いてくれますので、危ないから広場の向こうまで下がってくださ〜〜い!」
間近で聞くと、耳がキーンってなるくらいの大音量だ。
城壁の向こうにいた人達が、その声が聞こえたみたいで手を振って下がってくれる。
念の為しばらく待ってから、俺は大門を埋め尽くしている巨大な氷を見上げて深呼吸をした。
「砕けろ!」
腹に力を入れて大声で叫ぶと、轟音と共に氷が砕け散って門の前後に雪崩れて落ちる。
「うわあ、すっげえ。たった一言だけであの巨大な氷を砕いちまったぞ」
「さすがは最強の魔獣使い。氷の術まで最強かよ」
冒険者と思しき装備の人達が、ドン引きした声でそう呟いているのが聞こえてちょっとドヤ顔になった俺だったよ。
その後に残った氷は、全部まとめてスライム達に片付けてもらったよ。
「おお、皆無事でよかった!」
氷が撤去されたところで、ギルドマスター達が総出で、揃ってものすごい勢いで駆け出してきた。
そして、煤だらけの焼け焦げだらけになった俺達を見て、泣きそうな顔で安堵のため息を吐いた。
「どれだけの人的被害が出るかと、考えただけで本気で気が遠くなりそうだったのに、まさかの死者がゼロとは。素晴らしい! よくやってくれた!」
半泣きになった冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんの言葉に、集まってきていた街の人達のあちこちからどよめきのような声が上がり、その場は拍手大喝采になった。
「それにしても、あれだけの岩食いの出現で死者が一人も出なかったのは奇跡だよ。もしやケンタウロスのお方がお守りくださったのか?」
駆け寄ってきたガンスさんの質問に、俺はシルヴァ達の事を話していいかの判断がつかなくて困ったようにハスフェルを振り返った。
「俺の古い友人達がちょうど来てくれたところでな。皆最強の術を使う。あいつらが大活躍してくれたんだよ」
笑ったハスフェルが指で示しているのは、疲れ切って立つ力も無くなったらしく、ほぼ意識を飛ばした状態でギイに背負われているエリゴールの姿だった。
「もしや、あの地面に立ったままで、とんでもない威力の火の術を延々と使っていた、あの凄え兄さんか?」
「ああ、そうだよ。普段は口数も少なくて控えめな奴なんだが、いざとなったら最高に頼りになる男でね。だが、さすがのあいつもちょっと限界を超えたみたいだ」
「一番近い宿屋に案内するよ! こっちだ!」
ハスフェルの言葉に、真顔になったヴァイトンさんが慌てたように手招きをする。
「いや、それより……腹減ったんだけど……」
ギイの背中に突っ伏したままだったエリゴールのうめくような声に、俺達は堪えきれずに揃って吹き出したよ。
「燃費悪いって、言っていたもんなあ。そうだよ、あれだけ、大暴れしたら、腹も、減るよな。俺も、安心したら、腹が減ってきたよ」
笑い過ぎて出た涙を拭いつつそう呟くと、にんまりと笑ったハスフェルに背中を叩かれた。
「俺達も腹減ったよ。となると、ここはやっぱり大宴会になだれ込むのが正しい展開だよな!」
「あはは、良いねえ、是非やろう!」
俺の言葉に、またしても上がる大歓声。
「よし! 宴会準備は任せてくれ! とにかくお前らは、着替えて少し休んでくれ。近くの宿屋が協賛してくれているから湯も使えるし仮眠も取れるぞ!」
今度の大歓声は、戦い終えた冒険者達や職人さん達から湧き起こった。
商人ギルドの人達の案内で、俺達も一旦近くの宿屋へ行きそこでとりあえず汗と埃と煤を洗い流して、服を着替える為に個室を貸してもらった。
だけどその前に、腹ペコの神様達には俺の手持ちの岩豚のカツサンドや岩豚の角煮まんなど、ガッツリ肉中心メニューを一通り渡しておいた。
多分、俺達とは腹の減り具合のレベルが違うだろうから、宴会まで何も食わずに我慢させるのは可哀想だったからな。
ひとまずシルヴァの部屋に集まった神様達は、美味しい美味しいと半泣きになりながら俺の作った料理をかけらも残さず平らげてくれたよ。
腹ペコ具合が落ち着いたところで一旦解散して、それぞれの部屋で着替えをする。
まあ、もちろん俺はサクラが一瞬で綺麗にしてくれたんだけど、やっぱり疲れた時はお湯に浸かるのがいいよな。
そう! 何が驚いたって、何軒もの宿屋が、ちゃんと肩まで温かいお湯に浸かれるいわゆるお風呂を新たに設置していたんだよ。
多分、ある程度の料金以上の良い部屋限定なんだろうけど、俺が案内された部屋には何と小さいけど露天風呂がありました。
まだちょっと雪の残る小さな坪庭をのんびりと眺めながら入る露天風呂は、もう最高だったよ。
よし、俺のお城にも露天風呂を作ろう!
激闘を終えた満足感と、割と本気で疲れているのをようやく自覚した俺は、マジで湯船に浸かりながら寝そうになって、慌てて湯から上がったのだった。
いや、マジで湯船で寝るのは危ないよな?