最大火力で反撃だ!
「あの、ジェムが……もうちょっと踏ん張っていてください! 何とか、かき集めて持ってきます!」
フクシアさんの泣きそうな大声が響いて、俺は出来るだけ平然と振り返ってフクシアさんに向かって手を振った。
「大丈夫だよ。任せて!」
俺がまだまだジェムを持っているのは、ギルドマスター達も知っている。
なのでギルドの在庫が尽きたのなら、ここは一番量を多く持っている俺が出すべきだよな。
って事で、鞄に入ってもらったレインボースライム達から、まずは一つあの超デカいジェムを取り出した。
「ううん、こんなに大きかったっけ。これ、どうやって運べばいいんだ?」
一つだけだけど俺の身長よりも遥かに巨大なジェムを見て、通路の上にいる人達からものすごいどよめきが起こった。
「ええと、これ……割れば使えるかな?」
しかし、あの普段使っているジェムを割る道具では、どう見ても入らないのでこれは割れないだろう。
記憶にあるよりも大きすぎて持て余していると、頭上から何やらものすごい悲鳴が聞こえた。
「ふおお〜〜〜〜! 何ですかそれ!」
フクシアさんの歓喜の叫びが聞こえて俺達が揃って吹き出す。
「ちょっと見せてくださ〜〜い!」
そう叫んだフクシアさんは、いきなり高い城壁の上からダイブしたのだ。
「どわあ〜〜〜! 危ねえ!」
俺が叫んだ瞬間、彼女が持っていたロープがふわりとたわんで、軽々と跳ね飛びながら城壁を蹴ってロープ伝いに通路まで降りてきたのだ。
まさかの、消防士とか自衛隊員とかがやってるあれ。
もちろん彼女はズボンを履いていたので、下から見られても無事だったよ。
「ほら、すごいでしょう?」
軽々と通路に降り立った彼女の体には、H型にロープが巻かれて固定されていて、そこには見た事が無い道具が繋がれている。その道具からロープが出ていて城壁の上まで繋がっている。
だけどその道具の隙間から丸い滑車が複数見えたので、多分テコの応用か何かでロープを固定しながら降りてきたのだろう。これも彼女の発明だとしたらちょっとマジで凄い。
「ケンさん! それって、それって一体何のジェムなんですか!」
平然と通路に降り立ったフクシアさんは、身を乗り出すようにして、俺の持っている巨大なジェムに文字通りしがみついた。
「ええと、これはブロントサウルス、じゃなくて何だっけ。ああそうだ。ブラキオサウルスとディプロドクスとアパトサウルスだったはずだ。全部地下迷宮で出たデカすぎるジェムだよ。さすがにちょっと扱いに困って出していなかったんだ。だけどこれなら火炎放射器でもちょっとくらいは時間が保つだろう。ありったけ進呈するから、街を守るために使ってもらうよ。だけど、このままだと大きすぎて使えないんだよな」
俺の言葉に急に真顔になったフクシアさんは、ようやくしがみついていた手を離して無言で俺の持つジェムを見て、それから俺を見上げた。
「この巨大なジェムを、ケンさんは複数お持ちなんですね」
「おう、山程あるからマジで進呈するよ。どうしたらいい?」
こんな話をしているけど、周りでは火炎放射器がバンバン火を吹いているし火の術で攻撃もしている。時折、あちこちから爆発音も聞こえる。
女性と話しているんだけど、ロマンティックな雰囲気はかけらも無いかなりカオスな状況だ。
「あの、それならこれを使ってください! 延長紐の改良版です!」
そう言って、彼女が持っていた収納袋からあの乾電池入れもどきが取り出された。
しかし、紐の部分がずいぶん短くなっていて、乾電池、じゃなくてジェムを入れる部分もかなり改良が施されている。箱が無くなっていて、マッサージ用のパッドみたいなシートに直接コードが取り付けられていて、これをジェムの両極に貼り付けて使う仕様みたいだ。なので、基本的にコードが届きさえすればどんな大きさのジェムでも使える仕様に変わっていたのだ。
つまり、この巨大なジェムでも割らずにそのまま使える!
「ついさっき天啓のように考え方が閃いて、もう息をするのも忘れて作ったんです」
「いくつありますか!」
「取り急ぎ全部で二十作りました。消費もかなり抑えられました。火力は保証します!」
真顔でそう言い即座に二十組のそれを取り出す。
無言で頷き合った俺達は、スライム達に頼んでフクシアさんごと俺が取り出した巨大ジェムを運んでもらい、10メートルおきくらいで、出来るだけ新しそうな火炎放射器を持っている人に、この巨大ジェムを繋いでもらった。
「うおお〜〜〜〜! 何だこれ。めっちゃパワー上がってるぞ!」
巨大ジェムを取り付けられた火炎放射器は、彼女の言葉通りにとんでもない火力になっていた。
今までは飛び散る破片をやっつけるのがせいぜいだったのだが、最大出力だと炎が数十メートル先まで届くようになったおかげで、岩食いの塊を直接攻撃出来るようになったのだ。
総勢二十名の、適当に選ばれし火炎放射器強化版を持った面々が、歓喜の雄叫びを上げつつ一斉に炎で岩食いを攻撃し始めた。
そして、ジェムを提供したのは俺だけじゃあなかったみたいだ。
ランドルさんやリナさん一家は、俺達からはかなり離れた通路の奥の方にいたんだけど、彼らも持ってた恐竜のジェムを相当量提供してくれたみたいで、ジェムが無くなって使えなくなっていた火炎放射器の火力が一気に上がったんだよ。
この増援により、一進一退の攻防が続いていた戦況は劇的に変化したよ。
だけどさすがにジェムの消費も半端ない。
もう、こうなったら岩食いとの根比べだ。
俺達の持っているジェムが尽きるのが早いか、岩食いの出現が止まるのが早いか、みたいな!
みるみる溶けてくあの巨大ジェムの追加をスライム達にせっせと運んでもらいつつ、俺も時折氷の塊を岩食いの塊にぶん投げては、せっせと地味に爆散させていたのだった。