腹が減っては戦はできぬ再び!
周囲は既に日が暮れて真っ暗になっていて、近くにあった大門と通用門は俺が氷でガッチガチに凍らせている。
岩食いの街への侵入は防げたとは言え、結果として城門の外に取り残される形になってしまった俺達。
「よし、決めた。いざとなったら手持ちのジェムを大放出だ」
アクア達の中には、もう数えるのも嫌になるくらいの大量のジェムが収納されている。
あの在庫の総額が幾らになるのかは、この際考えない事にしておこう。
その後は、さっきのような巨大な岩食いの出現は無く、何とか撃退に成功している。
再生の森の横では、あの後二回大きな黒煙が上がり、地響きみたいな爆発音が聞こえている。
「ベリー達の方は大丈夫なんだよな?」
「大丈夫だからあっちは任せておけ」
若干心配になってハスフェルにそう尋ねたけど、苦笑いしてそう言われただけだったよ。
「さっきのデカいのは、別の場所から出てきたはぐれだったみたいだな。一応、シルヴァとグレイが、彼女達の眷属である精霊達に命じて街の周辺を中心にかなりの範囲を調べてくれているが、今のところ他での岩食いの出現は一切確認されていない。鉱山内部で二箇所、岩食いの出現を確認したらしいが、それらは全てケンタウロス達が対処してくれている」
「おお、さすがはケンタウロス達だな。ばっちり対処してくれているんだ」
「そうだな。だが逆に言えば、この場は俺達に任せられているとも言えるぞ」
苦笑いするハスフェルの言葉に、俺も無言で頷く。
時折散発的に出現する岩食いには、エリゴールとオンハルトの爺さんが即座に対応してくれていて、爆散した時に出る破片達を、通路にいる火の術と火炎放射器で駆逐している状態だよ。
とは言え、冗談抜きで本気でジェムの在庫がなくなって来た。
一つ深呼吸をした俺は、アクアを見てジェムを出してもらおうとして固まった。
「待てよ。ここはあのジェムの出番じゃないか?」
アクアの隣にいた、ツヴァイを見る。
「確かあれって、シャムエル様に売らないように言われて、レインボースライム達に持っていてもらったんだよな」
ごく小さな声でそう呟いたところで、俺はシャムエル様がいない事に今更ながら気がついた。
「あれ? シャムエル様はどこへ行ったんだ? まさかどっかで落っことしたりしてないよな?」
慌てて周りを見て、マックスの頭の上も見て、空っぽな自分の肩も見てからハスフェルを振り返った。
『なあ、シャムエル様がいないんだけど、もしかして何処かへ行った?』
口を開きかけて黙った俺は、少し考えて念話でハスフェルにそう話しかけた。もちろんトークルーム全開状態なので、ギイだけじゃなくて神様達全員が繋がったのが分かった。
俺の質問に小さく笑ったハスフェルは、通路の下の地面を指差した。
『エリゴールのところで、彼に何度も祝福を贈って体力と魔力の回復を担ってくれているよ。今のエリゴールの体は、頑丈に作っているとは言え所詮は人の体に過ぎん。あれだけの術を連発していれば、いつ倒れてもおかしくはないからな』
念話で答えてくれたその内容に思わず目を見開く。
『ええ、マジ? 大丈夫なのか?』
『大丈夫だからここは任せておけ。この為にわざわざ来たんだから、ちょっと疲れたくらいで音を上げるような事はしないさ』
笑ったエリゴールの念話が届いて、俺はちょっと泣きそうになった。さすがは神様、頼りになります!
『うう、だけど無理はしないでくれよな。あ、腹は減ってないか? さっき食ってからかなり経っているけど、何か必要なら……』
『お腹空きました〜〜〜!』
何故か、エリゴールだけでなく神様達全員とシャムエル様の歓喜の声まで聞こえて、俺は吹き出しかけて誤魔化すように横を向いて何度も咳き込んだ。
『ちょっ、そこまで言うほどかよ』
『タマゴサンド三種盛りと焼き菓子の盛り合わせをリクエストしま〜〜す!』
絶対ドヤ顔ってるのがの丸分かりの声でそう言われて、俺はサクラが入ってくれている鞄を見た。
俺の収納の方にタマゴサンド三種盛りはあるんだけど、さすがに焼き菓子は持っていない。
「サクラ、シャムエル様用に焼き菓子の盛り合わせを出してもらえるか? それからシルヴァ達にも。内容は適当でいいからさ」
鞄を持ち直す振りをしつつ小さい声でお願いする。
「はあい、ええと、じゃあこの辺でいいですか?」
少し考えたサクラがモニョモニョと動いた後に、大きなお皿に焼き菓子各種を山盛りに出してくれた。
まあ、これだけあれば大丈夫だろう。
一応いつものミニグラスに少し冷ましたホットオーレと、カツサンドと鶏ハムとだし巻き卵も用意しておく。
それから、エリゴール用にさっきと同じで申し訳ないが片手で食べられそうなメニューを色々と出してもらった。もちろん焼き菓子も出してもらったぞ。
『水筒は持っているから大丈夫だよ。ありがとうな』
笑ったエリゴールの声が聞こえたので、今回は飲み物は無しだ。
また、マックスとスライム達に下まで運んでもらい、エリゴールの食事の手伝いをしてもらう。さりげなくシルヴァ達がこっちへ集まって来たので、彼女達にも色々と取り出したのを渡してやった。
シルヴァ達が大喜びで食べているのを、ドワーフの皆さんが無言でチラチラとこっちを窺っているのに気づいた俺は、小さく笑ってあの鉱夫飯の入った弁当箱をありったけ取り出して渡してやったよ。
もちろん、通路の端まで運んでもらうのはスライム達にお願いしたよ。
「いいのか、こんなにたくさん!」
目を輝かせる皆を見て、笑って頷いてやる。
「腹が減っては戦はできぬ。戦うならしっかり食っておかないとね。まあ、今の時間なら夜食ですけどね」
どう見ても夜食って量ではないけど、大量にあった鉱夫飯は無事に行き渡ったみたいだ。
さすがに全員分は数が無かったので心配だったんだけど、見ていると特に打ち合わせをしたわけでもないのに、きっかり四人で一個ずつ取ってくれているのを見て、密かに感心したよ。
この通路にいる人達、即席の混合チームだけどチームワークは抜群のようです。
「あれ一つで四人だったら、確かに軽食って量になるな」
苦笑いした俺は、自分用に取り出したみたらし団子の串を持って、せっせと食べ始めたのだった。