試作の数々
昨日の投稿で、一部間違った内容がありましたので、訂正いたしました。
リナさん達は別行動でしたね。
大変失礼いたしましたm(_ _)m
「へえ、騒音がすごいとか、ジェムの消費がハンパないとか。確かにまだまだ課題は多そうですけど、とりあえず、あの飛び地へ入る最大の難関であるイバラを切り開く算段はついたみたいですね」
俺は綺麗に切れたアイアンウッドの丸太を覗き込みながら、感心した様にそう呟いた。
「そうですなあ。まだまだ改良は進めますが、とにかく自力で行ける算段がついたのは大きいですよ」
「来月には、有志を募って飛び地攻略の部隊がキャラバンを組んで出発しますからね。皆、やる気満々ですよ」
「あはは、フュンフさんが言ってたのって、それなんですね。素材を自力調達しちゃうって、すっげえ!」
笑った俺の言葉に、ハスフェル達も大笑いしている。多分、ハスフェルは俺よりも詳しくフュンフさんから事情を聞いているはずだからな。
そう、実を言うとハスフェルの分のヘラクレスオオカブトの剣を注文してたフュンフさんが、春には諸般の事情で仕事が出来なくなるからと言って早々に制作に入ってくれていて、もうそろそろ仕上がる予定なんだよ。
一応、このあと帰る前にフュンフさんのところにも顔を出して、作業の進み具合を聞く予定になっているよ。
「ああ、フュンフも久し振りの狩りだと言って張り切っておったぞ。だがあの場所まで行って帰るとなると、それなりに時間がかかるからな。バイゼンの職人が全員いなくなっては大変なので、そこのところはエーベルバッハが中心になって、誰が行くのか差配してくれているよ」
苦笑いするエーベルバッハさんを見て、なんとなく事情を察した俺だったよ。
確かあの、メタルブルーユリシスの翅を初めてギルドに納品したあと、朝市の広場でフュンフさん達に詰め寄られたんだっけ。
あの時の様子を見るに、彼らは冒険者としてもかなり優秀なんだろうな。
となると、当然腕に覚えのある職人さんは絶対に行きたがるだろう。だけど、雪解けを待ってバイゼンに新しい武器や防具を作りたくてやってくる人達も大勢いるだろうから、その辺りの配分は上手くやらないとどちらからも不平不満が出かねないもんな。
「が、頑張ってくださいね」
管理職の苦労を思って、思わずそう言ってエーベルバッハさんの肩を叩いた俺だったよ。
はあ、気楽な冒険者家業万歳!
その後は、今までに作ったフクシアさんのボツ試作を見せてもらったりして過ごした。
ムービングログは、あの形になるまで相当に苦労したんだって。一応、自転車にエンジンを積んだみたいな二輪タイプもあったんだけど、これは誰一人乗りこなせなかったらしい。
子供用の自転車に付いているみたいな駒を両横につければ何とかなった気もするんだけど、そのアイデアは出なかったらしく、馬には上手に乗るこの世界の人達も、どうやら二輪車に乗るのは無理だったみたいだ。
だけど、これってどこから見ても自動二輪そのものだよな。元バイカーとしてはマジでこれには乗ってみたかったんだけど、どこで練習したんだって絶対聞かれそうだったので、残念ながら遠慮しました。
後は、動く掃除機とか、自動販売機みたいなものまであって、割と真顔になった俺だったよ。
「この、動く掃除機はなかなか優秀だと思うんだけど、駄目なんですか?」
音を立てながらグルグルと部屋の中を動き回っている動く掃除機を見ながらそう尋ねると、苦笑いしたフクシアさんは、大きなため息を吐いて首を振った。
「考えは良かったと思うんですが、まず動きの制限が出来ないので、段差にハマったらそれっきり動けなくなります。それにうっかり扉が開いていると、そのまま勝手に外に出て行ってしまうんですよね。なのでこれは時々職場の部屋に放置して、扉を施錠してから掃除してもらっています。これもまだまだ改造の余地ありですね」
確かに、俺の元いた世界でもバリアフリーの家じゃあなかったら、動く掃除機はほぼ使えなかったよな。それに、野良○ンバとかってタグ付きで、勝手に外へ出ていって力尽きた掃除機の何やら物悲しい写真が、ネットに上がったりしていたよな。
色んな事を思い出して若干遠い目になっていた俺は、小さなため息を吐いてあふれそうになったあれやこれやをまとめて明後日の方向へぶん投げておいた。
「ええと、この自動販売機は良いアイデアだと思うんですが、これも駄目なんですか?」
「自動販売機!」
突然フクシアさんだけでなく、ジャックさんと話をしていたエーベルバッハさんまでが凄い勢いで復唱して俺の腕を掴んだ。
「そ、それ使わせてもらっても良いか!」
「その名前、使わせてください!」
左右から凄い勢いでダブルでそう言われて、ドン引きした俺だったよ。
「ええと、自動販売機?」
「そう、それです!」
ものすごい勢いで頷くエーベルバッハさんと頭を抱えてしゃがみ込むフクシアさん。その横ではジャックさんも頭を抱えている。
「ああ、どうしてそんな簡単な名前を思いつかなかったんだろう!」
悔しそうなフクシアさんの叫びに、堪える間も無く吹き出した俺だったよ。
「あはは、こんな思いつきの名前でよければどうぞ使ってやってください。ちなみにこれは、何を売る予定なんですか?」
本体もそれほど大きく無いので、あまり大きな物は入れられないだろう。それに、入れられる種類は一つだけみたいだから、どちらと言えば、自販機というよりはガチャに近いかな?
「このくらいの大きさにまとまる物なら何でも出来ますよ。これは仕組みを確認する為に作った完全な試作品なのですが、ケースに入れてしまえば品物を出すのは上手くいったんです。ですが、肝心のコインを入れる部分がすぐに詰まってしまって、結局使い物にならなかったんです。なので、これもまだ要改良ですね」
悔しそうなフクシアさんの説明を聞いて密かに頷く。
成る程、ガチャみたいに決まったカプセルやケースに入れてしまえば品物はスムーズに取り出せるんだけど、汚れや欠けなんかも多いこの世界のコインを自販機で使うと、そりゃあ間違いなくコインは詰まるだろう。
「ううん、これは専用のコインみたいなのを作ってそれをあらかじめ販売しておけば、物販は出来ると思うんだけどなあ……」
「ケンさん! そのアイデアも名前とまとめて買わせてください!」
またしてもフクシアさんとエーベルバッハさんの叫びが重なる。
「あはは、全然気にしませんからお好きに使ってください! あ、じゃあこれが実用化された暁には、俺にそのコインを少し分けてくださいよ。一番最初の顧客として自動販売機で物を買いたいですねえ」
笑った俺に、またしても二人の揃った返事が返ってきて、顔を見合わせて大笑いしたのだった。
「はあ、いやあ楽しかったですよ。それじゃあそろそろ俺達は帰らせていただきますね」
部屋を後にして作業場へ戻った俺達は、笑顔で挨拶を交わしてからランドルさんと一緒に作業場を出ようとした。
カンカンカン!
突如、けたたましい音が街中に鳴り響いたのは、まさにそんな時だった。
「な、何? 火事か?」
訳がわからずに慌てる俺を放って、その場にいた全員が一斉に外へ向かって駆け出していく。
「ちょっと待ってくれって! なあ、一体何事だよ!」
慌てた俺も、そう叫んで皆の後を追って大急ぎで外へ駆け出して行ったのだった。